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マイクロバイオームと慢性疼痛

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今までになんども話してきたが、今回もマイクロバイオームの話をする。それと慢性疼痛、つまり急性ではない、慢性の痛みの関係の話をする。

なんども同じ話になるが、マイクロバイオームとは人と共生している微生物である。微生物とは細菌つまりバクテリアの他にウイルスとかその他いろいろいる。そのなかでも特に重要なのが細菌で、細菌については最近よく研究されている。

それら細菌の細胞の数は人体を構成する細胞の数に匹敵すると言われている。遺伝子の数で言えば、マイクロバイオームの遺伝子数は人間の遺伝子数の数百倍はある。だから人間は細胞数で言えば、半分以下が人間で残りは細菌である。遺伝子数で言えば、人間自体は数百分の一でしかない。これらの細菌の重さの総量は1キログラムから1.5キログラムもある。つまり私もあなたも、1キロ以上の細菌とともに生きているのだ。全く馬鹿にならない存在である。だからこれらが人体の健康に影響を及ぼさないはずがない。

マイクロバイオームは、人体を構成するもう一つの器官であるとさえ言われている。器官とは心臓や肝臓、腎臓、小腸、大腸、大脳といった、われわれが学校で習ったものだ。我々の体には、これらのよく知られた器官とは別に、さらにもう一つ未知の器官があったのだ。それがマイクロバイオームである。

だからこの器官の調子が悪いと当然病気になる。その病気はさまざまな慢性疾患だ。どんな慢性疾患があるか? 具体的には肥満(肥満は病気なのだ)、糖尿病、クローン病や潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患、過敏性大腸炎、喘息、多発生硬化症、自閉症などだ。人が死ぬ原因としてもっとも重要なものに、心臓病、脳卒中、ガンがあるが、これら全てがマイクロバイオームに関係すると言われている。私自身、安倍元首相と同様に長年、潰瘍性大腸炎を患ってきたので、とくにマイクロバイオームというテーマに関心がある訳だ。

人間が年をとること、つまり老化もマイクロバイオームのせいである可能性がある。老化に伴う認知症やアルツハイマー病とも関係あると言われている。つまり老化は病気の一つなのである。だから老化という病気を治せば、人々はもっと長く健康に生きることができるかもしれない。老化については別に取り上げる。要するにマイクロバイオームとは、なんでもありということだ。

人体に住み着いている細菌のなかでも特に重要なのが腸内細菌である。人体に生息する腸内細菌の種類に関して言えば人や民族により異なるが1000種類以上といわれる。これらの細菌にはビフィズス菌とか乳酸菌のように体に良い影響を及ぼすものがいる。これらを日本では善玉菌と呼んでいる。善玉菌という言葉は日本特有で、英語では単に良いやつだ。悪い影響を及ぼすものは悪玉菌と呼ぶ。しかし圧倒的多数の細菌は特に良くも悪くもない。それらを日和見菌とよぶ。日和見菌は場合によっては悪さをする。日和見菌とはいわば関ヶ原の合戦の時の小早川秀秋のようなやつで、どちらつかずにいて、戦況がどちらかに傾くと、勝った方に加勢して自分は得をしようという、そういう存在である。

腸内細菌は腸壁などにへばりついて生活している。千種類もの細菌は、例えば戦国時代の日本の領主のように、それぞれの地方で縄張りを作っている。日本の戦国時代には大名の他にも、たくさんの地方豪族がいて日本を分割統治していた。腸の中には千もの地方豪族がいて、勢力均衡を保ちながら生活している、そんな状況を想像すれば良い。この地方豪族に相当する細菌の種類が多いほど体にはよく、秀吉が日本を統一したような状況は、体にとっては良くない状況だ。

細菌の種類の減少のように、バランスが崩れた状況をディスバイオシスという。このディスバイオシスがさまざまな病気の原因である。つまり逆に言えば、腸内細菌のバランスを取る、つまりディスバイオシスにならないことが健康にとって良い。

ヨーグルトを飲めば体に良いと言われている。ヨーグルトの他にもビフィズス菌や乳酸菌をカプセルにしたような製品がある。これら、体に良いとされている細菌を含むものをプロバイオティックスと呼ぶ。また腸内細菌の餌になる食物繊維などをプレバイオティックスと呼んでいる。さらにプロバイオティックスとプレバイオティックスを両方一緒にとることをシンバイオティックスと呼んでいる。ややこしい。単純化すれば、ヨーグルトや納豆はプロバイオティックス、食物繊維はプレバイオティックス、そのどちらも同時に取ることをシンバイオティックスというと考えれば良いだろう。

ヨーグルトなどに含まれるビフィズス菌などは、普通は胃の中で胃酸によってほとんどが殺される。それでも死なずに胃を通過して大腸まで行ったとしよう。生き残ったビフィズス菌は腸内に住み着くかというと、そうではない。後から来たものが、新たに領地を獲得することは、普通はできない。なぜなら腸壁という領地はすでに先住の多数の領主によって分割統治されていて、新参者は入り込むすきがないのだ。

だからといってプロバイオティックスをとることに意味がないというわけではない。ビフィズス菌を食べても数日すると体の外に出てしまう。それでも腸内に滞在している間は良い働きをする。つまりヨーグルトなどは一度食べればそれで十分というわけではなく、食べ続けなければならない。

さて長々話をしたが、今回のテーマはマイクロバイオームと慢性疼痛である。なぜ慢性疼痛を取り上げるか? それは最近、知人の奥さんが訳のわからない体の痛みに悩んでいるという話を聞いたからだ。病院に行って調べてもらっても、とくにどこが悪いということもない。でも体が痛いのだという。そういう話はよく聞く。つまり器質的にはどこも悪くないのに、でも体調は不良だという話だ。例えば慢性疲労症候群などもそうだ。

私は知人の奥さんが正体のしれない痛みに苦しんでいるという話を聞いた時に、それはマイクロバイオームのせいではないかと閃いた。その話を聞くまでは私が持っていた知識では、慢性の痛みつまり慢性疼痛は入っていなかった。ところがマイクロバイオームと慢性疼痛(クロニック・ペイン)というキーワードで探索するとたくさんの動画や記事が引っかかったのだ。

全身の痛みと腸になんの関係があるのか。腸の痛みなら話はわかるが、例えば背中の痛みとか、頭痛とか、膀胱の痛みとか、腸とは一見関係のない部分の痛みがどうして腸と関係するのか? これは以前お話しした脳腸相関と関連している。痛みは脳で感じる。だからどんな原因であれ、痛いと脳が感じたら痛いのだ。

幻肢痛という現象がある。手を切断した患者が、ないはずの手が痛いと感じる現象が幻肢痛だ。痛みを感じるべき部分がないのに痛みだけ感じるのだ。それはないはずの腕の痛みを感じる回路が脳に出来上がってしまったのだ。これを治すのは簡単でないことはわかる。手に怪我をして痛いのであれば、怪我が治れば痛みも治る。しかし怪我をするその手がないのに痛いと言われたら、治しようがない、というか難しい。

大腸は第二の脳と言われていて、大腸と脳は密接に関係しているのだ。その具体的な機構(メカニズム)には色々あるが、迷走神経という自律神経がその一つである。脳と腸は迷走神経を通じて互いに交信している。またセロトニンとかドーパミンといった神経伝達物質の大部分が腸内で腸内細菌によって作られている。これらも間接的に脳に影響を及ぼす。

慢性疼痛とマイクロバイオームというキーワードでYouTubeを検索したら、ある医者の詳しい解説に出くわした。マイクロバイオームの話、脳腸相関の話、それに腸壁に微小な穴が空いて腸内のいろんなものが体内に取り込まれるリーキーガット、これらの話をされた。そして様々な種類の慢性痛、例えば前立腺痛、骨盤痛、内臓痛、偏頭痛、関節炎、原因不明の痛みである繊維筋痛症などの原因が腸にあると言われた。さらに、モルフィネのような鎮痛剤、ロキソニンのような非ステロイド性消炎鎮痛剤は、短期的には良くても、長期的にはマイクロバイオームにとって良くないので、これらの痛み止めは良くないと言われた。

具体的な治療法にも詳しく言及されたが、そこは専門的すぎで良くわからなかった。しかし腸に良いことはなんでもするといった治療法であった。こうした治療法を施せば、大体の慢性痛は3ヶ月、長くて半年で治せると言った。

まとめると慢性疼痛は腸内細菌のアンバランス、つまりディスバイオシスに原因がある場合がある。脳腸相関を介して腸の不調が脳に影響を及ぼし、脳に痛みを感じる回路ができてしまったのである。それを治すには、気長に腸内の環境を整えるのが一つの方法である。

   
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