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電気圧力鍋と分子料理法

詳細

電気圧力鍋

今回の話は電気圧力鍋である。なぜかと言うと、私は最近それを買ったからである。なぜ買ったかというと、YouTube視聴中に何度も広告が入ったからだ。私は普通この種の広告でものを買うことはないが、このところ料理に凝っているので思わず注文してしまったというわけだ。ある会社の製品でレシピ本も同時に買った。1万8千円程度であった。

料理結果

結果はと言うと大成功であった。私は料理に興味を持ち普段からやっているが、全くの素人である。料理学校に通ったことはないし、料理関係の本をちゃんと読んだこともない。ネットのレシピをまじめに見ることもない。 

その私が電気圧力釜を使うと、とても簡単に、それもとてもおいしくできるのだ。私はおいしすぎると表現した。ほとんど感動ものである。すでに料理に慣れた人であれば、多少は便利だな、味もこんなものかくらいであろう。しかし私のような料理の素人が、いとも簡単に、しかも今まで作ったこともない、あるいは作ろうと考えたことがすらないものでもとても簡単にできた。

レシピの例であるが、カレーライス、ハヤシライス、スパゲッティ、ペンネ。ここらは普通の主婦であれば、取り立ててなんと言うこともないであろうが、私はカレーやハヤシライスはレトルト商品を買って、単に温めて食べるだけであった。それらの商品は、味はいいのだが、基本的にはルーだけで、具はあまり入っていない。ところがレシピどおりに作ったカレーは正に具だらけであった。値打ちものである。

適した素材とそうでないもの 

さらに赤飯、ぜんざい。これらは自分でできるとは想像もつかなかった。キャベツ、サツマイモ、ジャガイモ、たまねぎを丸ままゆでたもの。サツマイモとジャガイモはともかく、たまねぎを丸ままゆでて食べるなど想像もできなかった。またこんなにおいしいものとは思わなかった。

圧力鍋の良いところは、とてもやわらかくなることである。このことは逆に言えば、ほうれん草、小松菜のような葉物の野菜は、柔らかくなりすぎて原形をとどめない。それに対してイモ類、にんじん、大根のような根菜は形を保つので適している。

凝った料理 

最初の目標は豚の角煮を作ることであった。YouTubeで作り方を見ながらやったら、これもいとも簡単にできた。こんな凝った料理は圧力調理器がなければ作りも食べもすることはなかったであろう。ミネストローネなどのトマト料理も簡単にできる。今後はレシピ本にあるもっと凝った料理に挑戦するつもりである。

調理時間

調理時間に関しては、警告を発しておく。宣伝文句どおりに短時間で料理ができるというのは正しくない。なぜならば調理の経過は、まず予備の過熱により水を沸点まで加熱する時間、加圧して加熱する時間、それから減圧する時間があるからだ。宣伝文句は加圧時間の短さを謳っているに過ぎない。予備加熱と減圧の時間が長いのだ。だから加圧時間が長い料理のほうが効果的である。それは長時間の煮込み料理などだ。 

ただし予備加熱は、水の代わりに湯を使えば短縮できる。また減圧は強制的にすることもできるが、危険であり、また再沸騰を起こすので、予期した調理結果が得られない可能性もある、

調理の科学

圧力調理で興味を持ったことは、なぜ根菜のような本来は硬い食材がこんなに柔らかくなるかだ。地上では水は摂氏100度で沸騰する。高い山の上では気圧が低いので沸点も低く、ごはんがおいしく炊けないという。圧力釜の場合、内部の圧力が2気圧程度になると水の沸点は120度程度になる。問題は100度が120度程度になるだけで、なぜ加熱時間が大きく短縮するのか、またなぜこんなに柔らかくなるのか?

野菜など植物が硬いのは細胞壁のためである。細胞壁には多量のペクチン質を含んでいる。このペクチン質が細胞の接着剤の役割を果たしている。調理の際に加熱するとペクチン質が分解したり解けたりするために柔らかくなる。ただし加熱温度が60度程度だと、逆に硬くなる。野菜が柔らかくなるには90度以上になる必要がある。反応の速度定数は温度に依存するので、100度が120度になるだけで柔らかくなるまでの時間が圧倒的に短縮される。

たんぱく質では逆に加熱すると硬くなる。しかし圧力鍋で長時間加熱すると柔らかくなる。

調理の物理的、化学的研究を分子ガストロノミーとよぶ。料理の過程で食材がどのように変化するかを分析して科学的に解明する。1992年にイタリアのシシリー等にあるエリチェという町で科学者と料理の専門家が集まって研究会を開催したのがはじめとされている。ちなみに私はエリチェで開かれた宇宙物理学の研究会に2度参加した。エリチェは山の上にあり、石畳がしかれた中世風の町である。その修道院に寝泊りして研究会は行われた。

   
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