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ファーウェイ事件と米中覇権闘争

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2018年12月1日に中国の大手IT企業であるファーウェイの副会長兼CFOである孟晩舟(Meng Wanzhou)がカナダで逮捕された。中国からメキシコに行く途中に乗り換えのためにバンクーバー空港に立ち寄ったところをアメリカの要請でカナダ当局が逮捕した。この事件は歴史的に見ても、きわめて大きな意味を持つと私は考える。それは米中覇権闘争の幕開けを告げるものだからだ。今回は米中覇権闘争の世界史的意義を考えるためにファーウェイ事件を取り上げる。

私はこの事件に関心を寄せてカナダのテレビ番組をかなり見た。事件の経緯について少しまとめておく。孟晩舟はファーウェイの創業者の任正非の娘であり、次期会長と目されていた。それがカナダにより逮捕され、米国に引き渡されようとしている。バンクーバーの裁判所は12月11日に保釈したが、現時点では米国に引き渡されるのか、中国に戻れるのかは分からない。

中国は猛烈に反発して報復としてカナダ人数人を拘留した。カナダの言い分は、アメリカの裁判所が逮捕状を出しているので、アメリカと犯罪人引渡し協定を結んでいるカナダとしては逮捕せざるを得ない、これは純粋に法的な問題だとトルドー・カナダ首相も外相も述べた。しかしこれが純粋に法的な問題ではなく政治的な問題であることは明らかで、実際トランプ大統領は政治介入してもよいといって、カナダ側をあわてさせている。

実は事件の詳細よりも、これが米中の世界覇権闘争の一環であることが重要だ。ファーウェイはスマホで有名だが、インターネット通信を中継する地上基地局の通信機器メーカーとしても有名で、実はこちらのほうが重要である。現在の通信規格は4Gだが、2020年には、はるかに高速の5Gになろうとしている。5Gになるとインターネット・オブ・シングスといって、あらゆる電子機器をネットワークにつなぐことができるようになる。この基地局を中国が押さえると、通信の秘密が中国にダダ漏れになるだけでなく、米国と熱い戦争をしなくても実質的に破壊できる能力を中国は獲得できる。この危険性を米国は懸念しているのだ。実は日本の基地局もソフトバンクなどがファーウェイ製品を使っている。

孟晩舟の逮捕を受けていわゆるファイブ・アイズと呼ばれる英語圏の5カ国、つまり米国、カナダのほかにイギリス、オーストラリア、ニュージーランドも5Gからファーウェイ製品をはずす決定をした。この種の通信機器メーカーとしてはファーウェイのほかにフィンランドのノキアとかスウェーデンのエリクソンがあるので、そちらに乗り換えようというのだ。その他の欧米諸国もそれに追随するところが出ている。

日本ではソフトバンクが4Gでファーウェイの通信機器を使っているだけでなく、5Gに向けてファーウェイと共同研究までしていたのだ。ところが米国は今後ファーウェイの製品を政府とし導入しないだけでなく、他国の企業でもファーウェイ製品を使っているところは米国政府調達から締め出すと発表した。そこでソフトバンクはあわてて5Gではファーウェイ製品を導入しないだけでなく、4Gからも撤去していくと発表した。大損害であろう。

ファーウェイ事件の政治的意義を考察する。今回の事件でどちらが正義かを議論することはほとんど意味がない。もし中国を悪と定義するなら、米国も悪なのだ。目くそが、鼻くそを笑うといった類の話なのだ。正義の反対は悪ではなく、別の正義なのだと考えるしかない。

実際、ファイブ・アイズと呼ばれる5カ国の諜報機関はUKSA協定を結び世界の通信をこれまでもずっと盗聴して来た。そのコンピューターネットワークをエシュロンと呼ぶ。日本にも三沢に通信傍受基地があり、日本の情報もエシュロンに盗聴されてきたし、それで現実的な被害をこうむっている。例えば日米自動車交渉で日本の自動車会社の幹部の電話も盗聴された。だから中国がファーウェイを使って盗聴したとしても、それが悪というなら米英も同じことをしているのだから悪なのだ。要するにファイブ・アイズ諸国の言い分は、自分たちは何をしても良いが、中国はダメだというに過ぎない。アメリカでは国家安全保障局NSAが世界の要人やアメリカ市民の通信を傍受してきたことがスノーデン事件で明らかになった。メルケル・ドイツ首相やブラジルの大統領の電話を盗聴したことが明らかになっている。

今回の事件で、ファーウェイという会社は中国共産党の依頼があれば、通信機器にバックドアーという裏口をしかけて通信を盗む可能性があると米国は言う。しかしNSAはすでにグーグルやアップルなど米国のほとんどのIT企業にバックドアーを設けることを密かに命じた。これが明らかになったのがスノーデン事件である。

米国は中国がサイバー攻撃を仕掛けているとして非難して、実際、犯人と思しき中国政府情報機関高官を起訴した。確かに中国はサイバー攻撃で米国の知的財産を盗んでいるであろう。だが米国も例えばスタックスネット事件で、イランにサイバー攻撃をしかけてウラン濃縮用の遠心分離機を破壊したことが知られている。どちらもどちらなのである。

何度も言うが、米国は中国以上にあくどいことをすでにやってきた。だが他国にはやらせない、それだけの話だ。これが覇権国家というものである。ただし私は中国を擁護する気は全くない。中国も覇権国家を狙っているからだ。

翻って、日本はやられっぱなしなのである。日本はきわめて善良な平和国家であると私は思う。たとえれば米中はドラえもんに出てくるいじめっ子のジャイアンであり、英国はずるいスネ夫だとすれば日本は善良で間抜けなのび太みたいなものだ。

まとめ

ファーウェイの孟晩舟CFOがカナダで逮捕された事件は米中覇権闘争の幕が開いたことの象徴的事件である。ただしどちらが正義かを問うことは意味がない。どちらにも自分の正義があり、どちらも相手から見れば悪である。日本はそのあいだで右往左往する、弱い間抜けな善人である。

   
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