生涯勉強の勧め - NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん

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生涯勉強の勧め

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シンギュラリティと生涯勉強の勧め

本文は京都大学合気道部部誌「大和」に寄稿したものに手を入れたものである。

シンギュラリティとは

私はこの数年、シンギュラリティについて論じてきた。今回もその話をしたい。というのも、これから数十年の未来、具体的には2045年ころに人類史が大きく変わる可能性があるのだ。つまりシンギュラリティが起きる可能性があるのだ。生物が始まって以来、数十億年が経つが、これからの数十年で有機生命体に代わってシリコン生命体が誕生するかもしれない。それを考えると現代の世相をにぎわすニュースやゴシップなどは実はまったくどうでもよい些細なことだ。シンギュラリティほど重大なニュースがほかにあるだろうか?

シンギュラリティとは何か?人によりさまざまな定義がある。人工知能の知的能力が人類のそれをはるかに凌駕するときという定義がある。そのような知的存在を超知能と呼ぶことにする。超知能が高度な知能を備えたコンピュータ、つまりシリコンでできた機械超知能であるのか?あるいは人間の知能をシリコン製のコンピュータで増強したサイボーグなのか?そのようなサイボーグ人間を私は超人類と呼びたい。英語ではポスト・ヒューマンと呼ぶ。

機械超知能であれ超人類であれ、それが出現すると、その高知能により科学技術が爆発的に進展して、社会は大きく変容する。超人類は死をも克服する可能性がある。いわば人間が神になるのである。「神」とはここでは不死の存在を意味する。ギリシャ神話や日本神話にでてくる神々は実に人間くさい。恋愛をしたり嫉妬をしたり。その行動や考えは人間とあまり変わりはない。そのような神と人間を分ける基準は、不死かそうでないかである。人間は死ぬが神は死なない。だから人間が不死になれば、いわば人間が神になるのである。

ホモ・デウス

最近、欧米で評判の高いイスラエルの歴史家ユヴァル・ノア・ハラリはそのような不死の人間をホモ・デウスと呼んだ。ホモとはホモサピエンスつまり人間のことで、デウスとは神のことである。ちなみにユヴァル・ノア・ハラリの前著「サピエンス全史」は人類がなぜ地球を征服できたか、その秘密を明かし欧米で大きな評判になっている。「ホモ・デウス」の邦訳はまだないが、著者による多くの(英語の)講演があるのでそれを聞けばよい。私はキンドルで読んだ。

不死というと秦の始皇帝はじめ、時の権力者が追い求めてきた夢である。しかしそれはいかなる権力者といえども達成できない夢であった。ところが最近になり、医学研究が進んで、不死はまだとしても、老化をとめる研究は着実に進展している。グーグルもそのための会社を設立した。不老不死はビジネスチャンスのある現実的な問題なのである。

マインド・アップローディングという概念がある。これは人間の脳にある意識をコンピュータに送り込むことである。たとえば映画「トランセンデンス」で、瀕死の主人公ウイル博士を妻のエヴリンがスーパーコンピュータにマインド・アップロードするシーンがある。もしこのようなことが可能になれば、人の肉体が死んでも、心・精神・魂といったものは不死になる。いずれにせよ、人類が不死になる可能性が見えてきたのだ。

以下のユヴァル・ノア・ハラリのダボス会議における講演はほとんど神がかっている。

ユヴァル・ノア・ハラリによるダボス会議での講演

ホモ・デウスと不要階級への人類の二系分裂

人間が神になることはめでたいことか?ことはそれほど単純でない。ユヴァル・ノア・ハラリによれば、不死になるにはある種の高額治療、それもとても高額な治療が必要になる可能性があるという。そうだとすると、ホモ・デウスになれるのは、金持ちなど一部のエリート階級だけかもしれない。

マット・デーモン主演の映画「エリジウム」の世界である。 残りの多くの人たちはどうなるのか?ユヴァル・ノア・ハラリによると、多くの人たちは支配層にとって経済的、政治的にまったく無価値な存在「不要階級(Useless class)」になるという。というのも人工知能とロボットの発達により、仕事がなくなるからだ。これを技術的失業という。不要階級というのは衝撃的なネーミングである。本論の目的はあなたが不要階級に転落しないためには、いかに処すべきか?である。結論を先に言えば一生勉強、これが答えである。

ユヴァル・ノア・ハラリによる不要階級

ある試算によれば、2030年ころまでにほぼ半分の仕事がなくなる。2045年には、ほとんどすべての仕事が機械に取って代わられる可能性がある。人類史始まって以来、王などの支配階級は人民を必要とした。労働者・農民それに兵士としてである。平和国家日本のわれわれには兵士という存在が、ピンとこないかもしれない。しかし、徴兵であれ傭兵であれ、歴史的に兵士は社会にとって重要な存在であった。だからナチスドイツでも、そのために教育、医療、福祉などを充実させた。ドイツを世界に冠たる国家にするには労働者と兵士が必要だったからだ。

ところが工場労働、オフィスワークがロボットと人工知能により代替され、戦争がロボット兵士により行われるようになると、一般の人間は「兵士にすら」なれない。日本ではピンとこないかもしれないが、米国では貧乏な青年は兵士になり金をためて、それで学校に行ったりする。兵士というのは重要な職業なのである。ところが近い将来、支配階級は人間の労働者も兵士も必要としなくなるだろう。つまり多くの人々は不要階級に転落するのである。

 

ベーシック・インカムとベーシック・インテリジェンス

不要階級の人たちはどのようにして生きていくのか。仕事がないのだから金がなく生活ができない。そのような状態を放置すると人々の不満がたまり社会秩序が維持できなくなる。そして最終的には暴動、革命が起きるかもしれない。

「エリジウム」はそのような未来の姿を描いている。 仕事がなくても生活できるように、政府が人々に必要最低限のお金を配るというアイデアが検討されている。それをベーシック・インカムという。一昨年、スイスで国民投票にかけられて否決された。時期尚早であったのだ。それでも世界のいろんなところで、ベーシック・インカムのテストがされようとしている。

来たるべきシンギュラリティにむけて、もうひとつの不平等が発生する可能性がある。それは知能格差である。近未来には脳・コンピュータ・インターフェイスを装着することにより、人間の脳と機械超知能を接続できるようになるだろう。するとその人の知能は実質的に非常に高くなる(ように外部からは見える)。現状では金持ちと普通の人の知的能力は本質的な差はない。しかしもし、脳・コンピュータ・インターフェイスが脳にチップを埋め込む様なもので、かつそれが高価なものであれば、貧乏な人は買うことができないかもしれない。未来には金持ちと普通の人の間に、経済格差、寿命格差に加えて知能格差が生じる可能性がある。

現在の社会は大きな経済格差があることが知られている。アメリカが典型であるが、たとえばビル・ゲイツは平均的な人々の百万倍も金持ちであろう。しかし彼が普通の人々の百万倍長生きするわけでも、百万倍賢いわけでも、百万倍幸せなわけでもない。だから普通の人々は彼をうらやんでも、許容している。

しかし近い将来、これら少数のエリートが平均的な人の百万倍長生きして、百万倍聡明なら、平均的な人々とエリートの格差はとんでもないことになる。それをすこしでも防ぐために、私はベーシック・インカムに加えてベーシック・インテリジェンスというアイデアを提案したい。それは政府が国民の希望者全員に、脳・コンピュータ・インターフェイスを支給して、国民間の知能格差を少なくする政策を行うのである。このようにして、シンギュラリティ後の社会は、人々は働かなくても生活でき、かつ高知能になれる。そのような社会がユートピアであるのかディストピアであるのか、それは人々の価値観の問題である。しかし、そのような社会が到来する可能性が高いと私は思っている。

シンギュラリティに向けての心の準備

これを読んだ皆さんは暗澹たる気持ちになるかもしれない。ただし先に述べたようなことは、急に起きるのではなく、10-30年のタイムスパンで変化するのである。でも現役の皆さんは逃れられない変化である。私のタイム・テーブルでは2029年に人間と同程度の知能を持つ汎用人工知能ができる。それまでは特定目的の特化型人工知能が発達して、特定の職業が失われていく。たとえば定型的な事務作業などである。そのために約半分の仕事が失われるであろう。 仕事はなくなるだけではない、新しく生まれても来る。

たとえばホームページ・デザイナーなど20年前は想像もできなかった仕事である。2030年以降はヴァーチャル世界のデザイナーとか建築士などの仕事が生まれるのではないか。それも2045年以降は一握りの人しか仕事が残っていないだろう。つまり現在大学生の皆さんは、今後10-30年で大きな急激な社会変化を見るだろう。そしてその変化に対処法を誤ると不要階級に転落するのだ。

それではどう対処すべきか?ユヴァル・ノア・ハラリも強調しているのだが、これまでの教育モデルは人生の初めの20年が教育、それ以降の40年は仕事、それ以降は退職して余生を過ごすというものであった。ところが今後は、技術進歩があまりに速くなるため、学校で習ったことが10年後には陳腐化して役に立たなくなるだろう。そこで皆さんは絶えず新しいことを学ぶ必要がある。死ぬまで学び続ける覚悟が必要である。一生が教育であり勉強なのだ。

70の手習い

私自身に関して言えば、現在75歳の後期高齢者で名誉教授である。私は宇宙物理学が専門であり、それなりの成果も出した。世間的に言えば「上がり」である。しかし私は70歳にしてテーマを人工知能に変えた。現在の勉強テーマは人工知能を中心として、神経科学、計算論的神経科学、機械学習、コンピュータビジョン、ロボット工学などである。

週に4回勉強会を開催している。そのうちの3回は、私が秘密研究所と呼ぶ鴨川河畔の川端一条にある研究室で毎回5時間のペースで行っている。秘密研究会と呼んでいる。その他、東京の参加者も交えて人工知能のテレビ勉強会も行っている。最近までは大阪大学医学部の学生の要請で、神経科学、計算論的神経科学のテレビ勉強会も行っていた。

私のモットーは月月火水木金金である。この言葉は旧海軍の訓練の合言葉だ。要するに土日なく訓練するという精神である。この言葉を私が使うようになったのは、知り合いの若者がこの精神で勉強するといっていたので、それにならったのだ。その人は、私から見ても狂ったように勉強している。

私は定年退職者であるから、本来は毎日が日曜日なのだが、休日をなくしてしまった。日によるが朝5時か6時に起きると、まずコーヒーを飲んだ後、勉強を始める。具体的には、前記のテーマの英語の分厚い教科書を読むのである。朝食前にできるだけ読み進める。つまり勉強を「朝飯前」にやってしまうのだ。だから朝食は8時、9時と遅くなることが多い。

ビデオ講義と今後の大学教育

研究所では勉強会がない場合、ビデオ講義を聴いている。ユーチューブなどに外国の大学の英語の講義がそれこそ山のように落ちている。
たとえば1時間の講義が14-20回とか、つまり半期分の講義である。ものによっては400回というのもあるが、これはそれぞれが数分と短い。

ビデオ講義はとてもよい。

1)分からないところは止めたり、巻き戻したりできる。
2)途中でトイレに行っても、コーヒーを飲んでも、居眠りしてもかまわない。
3)疲れたら明日に伸ばしたり、気晴らしをしたりすることも問題ない。
4)何度でも聞き返せる。聞き返すたびに理解は深まる。
5)長時間講義ではなく、5-15分にぶつ切りになっている講義も多く、聞きやすい。

ビデオ講義は教科書とともに聴くのが最も効果的である。というのは複雑な式の展開など、講義ではできないし、やれば流れを中断してしまう。やはり本を読むことは重要である。 私はビデオ講義が普及すると、大学の一斉講義は必要なくなると思う。現在は日本語のビデオ講義は少ないので、日本の大学の先生たちは救われている。

将来、日本語のビデオ講義が普及したら、ある特定のテーマに関しては日本で数人の先生がいれば十分だ。つまり下手な講義、工夫のない講義、面白くない講義は「いいね」がつかないので、聞かれなくなり淘汰されてしまう。「いいね」の少ない先生はくびになるかもしれない。しかし先生にとって悪いことばかりではない。同じ講義を週に何度もやる必要がない。毎年、同じ講義をする必要もない。

それでは大学は不要になるのか?一斉講義はなくなるとしても、実験、セミナー、チュートリアル、研究室での先生や上級生、同級生との交流などが主な役割になるであろう。現状のビデオ講義はほとんどが英語である。だから英語のリスニング能力は必須である。英語の読解力も必須である。英語力があるかないかで、接する情報量には10倍の差がある。だから若い皆さんには英語を特に勉強してほしい。

近い将来、コンピュータによる機械翻訳が進んで英語力が不要になるという人がいるが、そんな説にだまされてはいけない。英語にはどうしても日本語に翻訳できない言い回しや概念がある。英語は英語のままで理解しなければならない。

シンギュラリティに向けてのサバイバルガイド

以上の記事を読んで、憂鬱になった人がいるかもしれない。若い皆さんは準備をしておかないと、ほぼ確実に不要階級に転落する。しかし京大生であるからには、将来の変化を見据えて、十分に準備をしておきたい。そのための提言をしておこう。

1) 勉強のテーマそれ自体よりも、一生勉強し続けることを重視しよう。
2) 月月火水木金金の精神で勉強しよう。 
3)早起きをして、朝飯前に勉強しよう。
4)勉強を苦痛と見るのではなく、興味を持ってやろう。数式を見ると快感を感じるようになろう。
5)文系理系を問わず英語、コンピュータに通暁しよう。理系はさらに数学を徹底的にやろう。 
6)ビデオ講義を聴こう。

私の勉強会に参加したい、あるいは自主ゼミを指導してほしいというような方がおられれば、tmatsuda312[at]gmail.comに連絡ください。秘密研究所で待っています。

   
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