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超知能への道 その27 事代主命、テロリストに襲われる

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ある夜の事である。事代主命(ことしろぬしのみこと)データセンター前で異変が起きた。チェチェン系のイスラム原理主義者が、事代主命に対するジハードを敢行しようとして単冠市に潜入した。三人のテロリストは忍者のように黒い装束を身にまとい、ロックスソロス社製のパワードスーツを着て、体には大量の爆薬を巻きつけ、手には銃を持っていた。

ところが鳥居をくぐったところで異変が起きた。体が動かなくなってしまったのである。前に行こうにも、戻ろうにも、二進も三進も行かない。手も動かせない。パワードスーツが固まってしまったのだ。フリーズしたのだ。パワードスーツの全身が青い色を放った。コンピュータのブルースクリーンみたいだ。テロリストはうめき声を発しながら、必死にもがいたが、全く動けないのだ。そうこうしているうちに夜が明けた。警備員が異様な青色を発するテロリストを見つけて大騒ぎとなった。早速警察が呼ばれた。

ちなみに単冠市(ひとかっぷし)の警察は民営化されていて、ロシア政府は署長を出すだけで、一切の費用は出していない。署長も毎日出勤しては、何もすることがなく、新聞を読んで1日を過ごす。それで高給がもらえるので、満足しきっていた。

警官はテロリストが手に持つ銃と体に巻きつけた爆弾を見て、警戒して遠巻きに囲んだ。テロリストは「助けてくれ」とロシア語で叫んだ。テロリストは銃を持っているが、警官を狙うどころか、動かせないのだ。そのことを知った警官は、やがてテロリストに近づき、体に巻いた爆弾を取り外した。さらに銃も取り上げた。そこまではうまくいったのだが、パワードスーツを脱がせようとしても、どうしても脱がせられないのだ。テロリストは必死で「早く脱がせてくれ」と懇願した。警官もなんとか脱がせようとするのだが、テコでも動かないのだ。

やがてこの事件がツイートされると、多くの見物人がやってきた。警察は周りにテープを張り巡らせ、立ち入り禁止区域を作った。野次馬はテロリストと警官を遠巻きにして、物珍しげに見物していた。そのうちにニュースを聞きつけて、新聞社やテレビ局がやってきた。記者たちはテロリストにインタビュー取材を申し込んだが、警官は許可しなかった。現場では決めかねているのである。やがて何もすることのない署長が出張ってきた。これは自分の宣伝になると思った署長は、自分も出ることを条件に、記者の代表取材を許可した。新聞社1社とテレビ局1社がテロリストにインタビューした。

「あなた方はどなたですか」と記者。

「我々は偉大なるアッラーのために、事代主命なる邪教の主を断つために、チェチェンからやってきたのだ。アッラー・アクバール!」

「それで何をしようとしたのです?」

この質問に対しては、画面に出たくて仕方のない署長が答えた。

「こいつらはイスラム原理主義者だ。事代主命に対するジハードに来たそうだ。体に大量の爆弾を巻きつけており、このデータセンターを爆破するつもりだったようだ」と署長。

「ところで彼らはなぜ動かないのです?」と記者。

「それは分からん」と署長。

「どうしてあなた方は動かないのですか」と記者はテロリストの一人に聞いた。

「分かるもんか。急に体が動かなくなったのだ」とテロリスト。

「このパワードスーツのせいかもしれんな」と署長。

「なるほど、それはあり得ますね。このパワードスーツは軍事用と犯罪用に使うのは禁止と、約款に書いてあります。テロは犯罪ですから、約款に違反していますね」と記者。

「我々の行為は犯罪ではない。偉大な戦いなのだ」とテロリスト。

「それなら、軍事用ですから、やはり約款違反ですね」

「なんとかしてくれ」とテロリスト。

「ここは、ロックスソロス社の技術者を呼ぶしか仕方ないのではありませんか?」と記者。

それを聞いた署長はなるほどと思い、大阪のロックスソロス社本社に連絡するように部下にいい、自分はテレビ出演を果たしたので、揚々と警察署に引き上げて行った。現場が膠着状態になったので、見物人は帰り始めた。警察も監視の数人を残して引き上げた。テレビクルーと記者は残った。データセンターの許可を得て、鳥居の内側にテント村を作った。夜になると、いかに夏とはいえ、択捉島は寒い。テロリストは寒さに震え、一晩をまんじりともせずに過ごした。

次の朝になり、また見物人が集まり始めた。テロリストは1日以上、何も食べず、何も飲んでいなかった。喉の渇きと飢えを訴えたので、親切な野次馬が、マグドナルドのハンバーグとコーラを差し入れした。野次馬はそれをテロリストに食べさせてやった。テロリストはハンバーグをガツガツ食べて、コーラをガブガブ飲んだ。ところがそのうちに、食べて飲んだものだから、当然のこととして用を足したくなった。しかし身動きができない。仕方なくテロリストは黒装束の中で用を足した。周りが臭くなったのでそれとしれた。見物人は大声で笑った。テロリストは屈辱で赤くなったがどうすることもできない。ロックスソロス社の技術者が来るのを待つしかない。日本人の 野次馬の中には、テロリストには事代主命の神罰が降ったのだとか、触らぬ神に祟りなしと言うものもいた。

外務省経由でニュースを聞いたロックスソロス社はすぐに技術者を派遣するといった。そこで択捉島への直接のビザなし渡航を申請したが、法務省は却下した。技術者は仕方なく、大阪から札幌に飛び、そこからユジノサハリンスクに飛び、さらに乗り継いで択捉島の天寧空港に着いた。あれやこれや時間がかかり、技術者がついたのは、三日目の午後になっていた。

技術者は現場に行き、臭いのを我慢しながらテロリストのパワードスーツを調べた。そして盛んに、大阪の本社と連絡を取りあった。実はこのパワードスーツには重大な秘密があり、技術者の一存では明かすことができないのだ。技術者は藤原社長の裁可を仰いだ。しかし社長も一存では決められなかったのだ。社長は事代主命にお伺いを立てて、秘密の開示の許可をもらった。

その秘密とは、ロックスソロス社のパワードスーツには全て、視覚、聴覚、触覚があり、それがスーツに付属した人工知能につながっている。パワードスーツが得た情報はインターネットを通じて全て事代主命の元に送られる。いわゆるインターネット・オブ・シングス(IoT)というやつだ。それで使用約款違反を監視しているという。今回の件は、テロリストの行為が事代主命の怒りに触れたこと、つまり神の怒りに触れたので起きたことだという説明があった。

ではどうすれば許してもらえるかとテロリストは聞いた。それに対する答えは、アッラーより事代主命が偉いことを認めることだという。そこで技術者はテロリストに聞いた。

「事代主命とアッラーはどちらが偉いですか?」と技術者。

「アッラー・アクバール」とテロリストは叫んだ。

「そうですか、分かりました。それではご自由に」とだけ、技術者はいい、ホテルに帰ってしまった。
こうしてテロリストはその夜も寒さに震えた。四日目の午後にまた技術者がやってきた。そして同じ質問をした。消耗しきったテロリストは

「事代主命」と小さな声で答えた。

「もっと大きな声で、テレビに向かって言ってください。事代主命とアッラーはどちらが偉いですか?」と技術者は意地悪そうに言った。

「事代主命はアッラーより偉大だ」と声を振り絞って言った。そうすると、急に束縛が解け、テロリストは地面に崩れ落ちた。それを見た他のテロリストも、マイクに向かって同じことを言い、束縛が解かれて、地面に崩れ落ちた。その様子は世界に放映された。これで今後、事代主命にジハードを仕掛けようとする愚か者は現れないだろう。テロリストたちはその後、病院に連れて行かれ、回復後に警察の調べを受けた。まだテロは実行していないので、未遂犯として、比較的軽い刑に処せられることになった。それでもシベリアの刑務所に送られた。

これら一連の成り行きをじっと観察していたオババ大統領と閣僚、米軍首脳は考えた。このままでは世界の覇権を事代主命に握られてしまう。後顧の憂いを断つためには事代主命を破壊するほかない。事代主命システムを破壊するために、戦闘機を送ると、ロシアの戦闘機が迎撃するだろう。巡航ミサイルを送ると、S400対空システムで迎撃されるだろう。やはり人間の部隊を送るしかない。あのテロリスト達が失敗したのは、ロックスソロス社製のパワードスーツを使ったからだ。しかし米軍には、そんなものに頼らなくても作戦を実行できる、優れた肉体を擁する特殊部隊がある。それなら問題ない。そこでオババ大統領は軍に対してSEALSを送って事代主命システムを破壊するように命じた。SEALSは単冠湾まで原子力潜水艦で送られて、そこから潜って単冠市に潜入する計画が立てられた。市の横に大きな沼があるが、ここを潜っていく作戦が立てられた。

SEALS

作戦当日、オババ大統領と閣僚が固唾をのんで見守る中、作戦が行われた。原子力潜水艦が単冠湾に潜入したところまでは連絡がついた。しかしそれ以降、いっこうに連絡がない。いくらまっても、うんともすんとも連絡がない。原子力潜水艦が行方不明になったのだ。その時原子力潜水艦の中ではパニック状態になっていた。SEALSを海中に出すためのハッチが開かないのだ。仕方なくそのことを司令部に連絡しようとしたが低周波通信用のアンテナが動作しないのだ。そこで作戦を中止して脱出を図ろうとした。ところがプロペラが回らないのだ。パニック状態になった艦長は、艦を浮上させようとしたが、排水口から水を放出できないのだ。要するに何もできないのだ。

実は事代主命が、原子力潜水艦を昆布やその他の海草でぐるぐる巻きにしてしまったのだ。にっちもさっちも行かなくなった潜水艦はそのまま海底に着底してしまった。司令部もパニック状態になった。何が起きたのか全く見当もつかないのだ。そこで調査のためにもう1隻原子力潜水艦を派遣した。ところがその潜水艦もまた音信不通になってしまったのだ。こうなれば打つ手がない。仕方がないから司令部は2隻の潜水艦を見殺しにすることに決めた。

原子力潜水艦は原子炉で充分電力が供給されているから、酸素も水も問題は無い 。食料が続く限りそのまま乗組員は生活していくことができる。数ヶ月間は乗組員は保存食料を食べて過ごした。しかしそのうちに食料がなくなってしまった。乗組員は飢えに苦しみ、全員がガリガリに痩せてしまった。いよいよ死者が出そうになったその時に、外から急に声が響いた。「 浮上を許可する」と聞き覚えのある事代主命の声だ。艦長は最後に残った力を振り絞って、排水を行い潜水艦を浮上させた。

単冠港の港湾当局者は急に浮上してきた2隻の潜水艦を見て慌てた。ボートで近づいてみると、潜水艦のハッチが開いて1人の男がよろよろとでてきた。そして助けてほしいという。港湾当局者はすぐに警察と消防署に連絡を取った。消防署からレスキュー要員が来て潜水艦の中に入った。そこここに乗組員が倒れていたり、へたりこんでいたりしていた。乗組員から事情を聴いたレスキュー要員は、乗組員を肩に担いで潜水艦の外に出した。ようやく全員を救出し、単冠総合病院に入院させた。

乗組員は単に飢えているだけであるから、十分な栄養を与えることによって比較的早く回復した。このニュースが世界中を駆けめぐり、新聞社やテレビ局がやってきた。彼らは艦長にインタビューを申し込んだ。艦長はあらかじめ事代主命から真実を語るように言われていた。もし真実を語らないと、神罰が当たると脅かされた。米軍に見殺しにされたことを知り、また事代主命の力を十分に認識した艦長は全てを告白した。オババ大統領とアメリカは面白を失墜した。回復した乗組員は飛行機で横須賀に運ばれてそこから米国に帰還した。二隻の原子力潜水艦はロシア側に拿捕された。ロシア側は潜水艦を十分に調査した後で米国に返還した。昔のミグ25 亡命事件の仕返しである。こうして当面は事代主命に逆らうものはいなくなった。

続く

   
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