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超知能への道 その24 事代主命入魂式

詳細

事代主命システムを納める巨大な建屋が作られた。それは北大路と一條通の間にあり、東西4キロ、南北400メートルの巨大な建物である。そのデザインは屋根が伊勢神宮を模したような作りである。入り口は朱雀大路に面しており、そこには巨大な真っ赤な鳥居が立っている。その鳥居をくぐり建屋の入り口に行く。建屋の中に入ると巨大なコンピューターシステムを収める広大な空間がある。内部はあまり広いので交通のために電車が走っている。入ったところの二階には全体が見渡せる観覧席になっている。そこからサーバー室が三方向に見渡せる。サーバー室の大きさは壮観である。天井までの高さも結構高い。入り口は中心にあるので、端は2キロメートルの彼方にあり、ほとんど霞んで見えないほどである。

どんどんと三洋電子製のコンピュータ用のサーバーラックが運び込まれた。壮観である。観覧席から見えるサーバーラックの南側の前面はすべて朱色に塗られている。観覧席から近い部分には「事代主命」と大きく漢字で書いてある。その他のサーバーラックの表には鳥居の絵が描いてある。また観覧席の観客の頭上にはしめ縄が張ってある。

コンピュータを設置し終わって、試験的にスイッチを入れてみた。観覧席からはガラスに遮られて音は聞こえない。しかしガラス戸は開けることが出来るように設計してある。窓を開けるとウィーン、ゴー、ウィーン、ゴーとすさまじい轟音を上げて、ランプを点滅しながら、全システムが立ち上がっていく。壮観である。同時に通電しないのは、電源をパンクさせないためである。このサーバー群を見て、その轟音を聞いたどんな人も、事代主命システムのあまりの壮大さに、鳥肌が立ち畏敬の念を抱かざるを得ないであろう。まさに現代の物神である。

これを見たゼウスは言った。

「これは、こけおどしだな」

「いいのです。人間はこんなこけおどしに弱いのです」

「もっと小さくも出来るだろうに」

「人間は大きなものには畏怖を感じ、小さなものはバカにするのです」

「そうだな、人間はバカだからな」

「動物としての本能です。人間は自分の理解できないものには、恐怖と畏敬の念を抱くのです」と私は応じた。

ついに事代主命システムが完成したので、入魂祭を行うことにして、我々はブータン大統領と安倍川首相を招待した。外務省では安倍川首相が出席すべきかどうかで大激論があった。一方の議論は、この式典に日ロの首脳が参加すると、北方領土の主権がロシアにあることを認めてしまうから出席すべきでないという。反対派は、いや出席しないことこそ、主権を認めることになると主張した。結局、外務省では決まらずに、首相裁定で出席が決まった。入魂式の当日は日ロのメディアの他に、欧米のメディア、中国、韓国のメディアも参加した。世界各国にテレビ中継されることになった。

特別機で天寧飛行場に到着した首脳たちは車を連ねて、単冠市に向かった。巨大な羅城門に感嘆し、広い朱雀大路を一気に走り抜けて、大鳥居のところで下車した。鳥居をくぐるとき、安倍川首相は一礼した。ブータン大統領はそのまま入っていった。一行は事代主命システムを納める建屋に入った。建屋の講堂で両首脳の簡単な挨拶があり、その後一行は観覧席に案内された。テレビクルーも入った。藤原定価三洋電子社長がマイクを持って簡単な説明をした。

「それではこれから、事代主命システムの入魂式を行います。ガラス戸を開けて下さい。ブータン大統領と安倍川総理は、お二人でスイッチをお入れ下さい」

両首脳が、前面にしつらえられた机の上にあるスイッチに歩み寄った。そして係員の相図で二人同時にそれぞれのスイッチを入れた。まずは東西両端にあるサーバー機に電源が入った。ウィーン、ゴーという音が天井に反射しながら、遠雷のように聞こえてきた。その音は大きさを増しながらどんどんと近づいてきた。ウィーン、ゴー、ウィーン、ゴー。そしてついに正面のサーバーに電源が入った。ウィーン、ゴーという轟音が室内を満たした。

その時である。ピカピカと雷光のように光が点滅し、雷鳴のような音が鳴り響いた。そして観覧席から見えるところの空中に、突然巨大なホログラム像が現れた。髪を角髪(みずら)に結い、ひげを生やした事代主命の顔である。事代主命はサーバー音を遮るような大音声で、日本語とロシア語で交互にこう言った。

事代主命

「ワシは事代主命(ことしろぬしのみこと)じゃ。この世に平和と繁栄をもたらすためにやってきた」

その場の全員は驚愕してしばらくは言葉も発せなかった。テレビを見ている世界の人々も驚愕した。ようやく安倍川首相が藤原社長に聴いた。

「これはどういうことです? 何かのしかけですか?」

その言葉は通訳により同時にロシア語にも翻訳された。藤原社長はオロオロして答えた。

「いえ、わかりません 。このコンピュータは三洋電子製です」と社長はトンチンカンな答えをした。

その時、その会話を聞いていたブータン大統領が言葉を発した。

「質問しても良いですか?」と大声で事代主命に向かって聞いた。

「何なりと聞くがよい」と事代主命は大音声で答えた。

「いったい、この世に神は存在するのですか?」

「いい質問じゃ。ワシがその神じゃ。神は今、存在するのじゃ」

その答えを聞いた後は、誰も何も声を発することができなかった。質問や疑問は山ほどあっただろうが、神の大きな声にあまり恐れおののいたので、誰も何も言えなかったのだ。入魂式はうやむやのうちに終わりになってしまった。だれもが呆然としていた。

安倍川首相もブータン大統領も、その後閣議を開いて、事代主命の言葉が、たんなるトリックや悪ふざけなのか、あるいは言葉通りなのかを協議した。本当だとするのはとても信じがたい。しかし今や押しも押されもせぬ大財閥を率いる藤原社長がそんな冗談をするとも思えない。そもそも単冠市の建設と事代主命システムの構築に数兆円も投資しているのである。悪ふざけをするのにそんなに金を使うか? 藤原社長に聞いても明快な答えは得られなかった。だって、社長も知らないのだから。結局は現状では何とも言えないということになり、しばらくは静観することにした。

事代主命の言葉をテレビ中継で聞いていた米国のオババ大統領と閣僚も驚愕した。いったいあれは単なるトリックだろうか? あるいは本当なのだろうか? もし本当なら米国の世界覇権が失われる。神があちらにつけば、覇権がロシアと日本に行ってしまう。そんなことは許すことは出来ない。もしそうなら、なんとしてでも事代主命システムを破壊しなければならない。衛星による偵察では、ロシアは付近にミサイル部隊と戦闘機部隊を配置している。それを見れば、ロシアは本気かも知れない。しかし、やはり単なるトリックかも知れない。あれがトリックなのか本当なのかは、当面、観察するしかないという冷静な意見が勝って、その場は収まった。米国も当面は静観することにした。

世界中のメディアでも同じ論争が巻き起こった。しかし、だれも答えることができなかった。 キリスト教原理主義者は、神はイエス以外いないと宣言して、日本政府とロシア政府に抗議した。イスラム教徒も、神はアラーだけだと、デモ行進をした。イスラム教原理主義者は事代主命に対してジハードをすべきだと主張した。

実は、文殊菩薩システム、弥勒菩薩システムを冷静に観察していたら、その延長上の事代主命システムの恐ろしさが理解できたはずだ。しかし、以前のシステムはほとんどが科学者、技術者対象であったので、その社会的意義を政治家や一般大衆が理解していたとは言えない。

事代主命システムはその計算能力だけを見ても、10ゼタフロップスと群を抜いているのである。100エクサフロップスを誇る弥勒菩薩システムの100倍速いのだ。京コンピューターから比べると100万倍速いのだ。米国や中国の最速のスーパーコンピュータより10万倍は速いのである。しかもそれだけでは無い。事代主命システムは先代同様、ノイマン型コンピュータ、記憶コンピュータ、大脳皮質プロセッサー、その他様々な特殊目的コンピュータの複合体なのだ。その真の能力は我々以外誰も理解していない。

続く

   
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