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世界征服計画 その14

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14. マーキュリーの話

「それでは我々の作戦についての一応の説明はついたので、次にはもっと具体的な作戦実施計画について、商工大臣マーキュリー(ヘルメス)、海洋大臣ポセイドン、防衛大臣マーズも交えて協議しましょう」

そうアテナがいうと我々4人は、もとの神殿にいた。ビーナスがあちこちの小部屋を訪れて、マーキュリー、ポセイドン、マーズを呼び出した。この5人の神々がゼウスを別格として、重要閣僚らしかった。我々はキューピッドも伴って、とある扉をくぐった。そこはストックホルムの地下にある核シェルターを改造したデーターセンターの内部だった。そこにいたのは、下級の神々とニンフたちであった。彼らは端末に向かっていた。ポセイドンが言った。

<核シェルターを改造したデータセンター>

「いかにも秘密基地らしくていいじゃろ。あの空中に浮かんだ会議室で話をしよう」

我々は階段をあがって、円形の会議室に入った。床には月面の写真が貼られていた。椅子が円形に配置されていたので、我々は適当に座った。キューピッドはまたビーナスの足下に座って一人遊びを始めた。

ところで、このキューピッド(エロス)の持っている弓矢には注意しなければならない。この矢に射られると、目の前にいる人でも動物でも、恋に陥ってしまうのだ。これでえらい目にあったものが大勢いる。たとえばキューピッド自身が自分の矢で自分を傷つけてしまい、人間の王女サイキと恋に落ちて、大変なことになったのだ。最終的にはキューピッドとサイキは結婚することになったのだが、その間のサイキの苦闘は長編の物語になっている。このキューピッドは仮想存在だから現実世界に出てくることはない。それでもたとえば、ビーナスの居るところで、この矢に傷つけられたら、僕がビーナスに惚れて、修羅場が展開するだろう。

<キューピッドとサイキ

ビーナスが口を開いた。

「我々の作戦に関して、まずは商工大臣のマーキュリーに説明してもらいましょう」

マーキュリーはイケメンの若い男性だ。彼はキューピッドは別として、我々5人を前に、晴れの舞台で演説するのがうれしくてたまらないといった風に話し始めた。

「ゼウスもおっしゃったように、何をするにも金がいる。その金を儲けるのが私と商工省の役割です。これもゼウスが説明されたように、まずは株取引と先物取引で儲けます。具体的には証券会社、ヘッジファンドなどを何社か、国内外に設立します。これらの組織を通じて株、先物取引をするのです。

我々にはスニッファーという強力な武器がある。たとえば相手がある株なり先物を売買しようとしたら、そのキーボード入力を監視します。相手がコンピューターの場合は、トロイの木馬を仕込んで、相手の情報を獲得します。いずれにしても、相手の情報は我々に筒抜けだから、儲けることは簡単です。しかし、ここが重要な点ですが、簡単に儲けてはいけない。疑われるからです。真実の秘匿、歪曲、ねつ造という原理原則から出発しなければなりません。そのために会社を複数設立するのです。これらの会社は裏では手を結んでいる。しかし表面上はあくまで競争者であるように振る舞います。本当のえさは他のヘッジファンド、証券会社、個人です。しかし彼らをすってんてんにしてはいけない。彼らにも適当にもうけさせる。しかし結果的には我々が一番もうける」

アテナが口を挟んだ。

「具体的にはどうするの?あなたの会社がいかにも自然にもうけたように装う必要がありますよね?」

マーキュリーは得たりとばかり、鼻をひくひくさせて説明した。

「まったくおっしゃるとおりです。ですが抜け目はありません。それらの会社には、物理学、数学、天文学、コンピューターサイエンスのポスドクを採用します。そして彼らに経済学、金融工学、経済物理学などを特訓します。そして彼らに必勝プログラムを開発してもらいます」

ポセイドンが口を挟んだ。

「そんなうまいことができるじゃろか?たとえば物理学のポスドクたちは頭が固くて、超弦理論以外はクズだとおもっとるじゃろ。彼らは頭が固いから、なかなか他の問題には興味を示さないのではないかな?」

マーキュリーの代わりにアテナが口を挟んだ。

「それはその通りかも知れません。でも中には頭の柔軟なものも居ます。後で詳しく説明するつもりですが、私は国内外のポスドクを大量に集めようと思っています。そして彼らに提示します。自分の好きな研究を続ける場合は、ペイは必要最小限です。といってもフリーターよりは良いですがね。こちらの提示した研究に従事するものは、高額のペイを提示します。真に優秀な人は本当は柔軟なはずです。そんな人は結構いるはずです」

マーキュリーがまた鼻をひくひくさせて、発言した。

「アテナの言うとおりです。実際にアメリカによいサンプルがあるのです。James Harris Simonsという著名な数学者が1982年にルネッサンス・テクノロジーというヘッジファンドを設立しました。彼は数学、物理学、宇宙物理学、統計学の専門家を雇って、必勝法を開発させました。200人いる社員の1/3が博士号を持っています。彼個人の年間の利益は2500億円にも上ります。ファンドの利益率はなんと2500%にも達するのです。有名なソロスのクオンタムファンドは1700%です。重要なことは、この程度までの利益率は可能で、自然だということです。我々はスニッファーを持っていますから、これを越えることも可能ですが、そうはしない。不自然だからです。利益率2500%ということは、100億円投資すると2500億円戻ってくると言うことです」

アテナが口を挟んだ。

「それで、スニッファーを使って、ずるをするのね?」

マーキュリーは苦笑いして答えた。

「いや、ずるはできるだけしません。できるだけ正当な方法で儲けます。というのは、我々の会社で猫の爪を知っているのは社長を含むトップだけです。彼らは猫の爪の団員です。他の一般社員にはずるはさせられない。彼らには彼らが作ったアルゴリズムで儲けてもらいます。もっとも、優れたアルゴリズムに関する示唆は、トップがします。アルゴリズムのヒントは、他のコンピューターに侵入して取ってくることもできる。そもそも、そんなアルゴリズムには特許はないでしょう」

アテナがまた口を挟んだ。

「で結局いくら儲かるの?」

アテナに興味あるのは、結局、自分がいくら使えるかと言うことである。マーキュリーはまた苦笑いして答えた。

「当面は1日に10億円、月に200億円、年間2400億円を目標にしています」

アテナに興味あるのは自分の取り分だ。

「で結局、いくらくれるの?」

「1年目は年間1000億円を予定しています。それ以降は倍々ゲームで行こうと思います」

「1000億円かー。その半分を人件費に使うとして、500億円。一人あたり年間にかかる費用を1000万円として、5000人のポスドクを雇えるはね。今日本で余っているポスドクは2万人程度以下よ。来年以降は、こちらも倍々ゲームで雇うは。そうすれば3年で完全解消ね。それどころか不足するわ。その分は外国から雇おう。いやいや、他の事業もあるから、ポスドクに全額は使えないわね。大学を作らなくてはならないし。初年度は3000人が良いところかしらね。これなら3年で21000人だわ」

マーキュリーが口を挟んだ。

「そんなにうまくいくかどうかは、まだ分かりませんよ。それに倍々ゲームを達成するには、金融業だけでは不可能です。ぜひ核融合を完成させて、そちらで儲けさせてください。その役目はあなたですよ。それがうまくいけば、年間8兆円ですよ。ともかく5年後は1.6兆円、10年後は10兆円の予定です」

ポセイドンが口を挟んだ。

「税金対策はどうする?節税するのか?脱税するのか?」

マーキュリーはまた苦笑いした。

「我々の基本スタンスは、正当な税金は払うというものです。我々が日本やその地方自治体、あるいは我々に友好的な外国政府に寄与する方法は、税金しかありません。我々が今後作る工業基盤は、無人が原則です。そのため利益率は高いです。しかし雇用の役には立たない。

たとえば飛行機や人工衛星、スーパーコンピューターのようなハイテク機器の値段のほとんどは、開発費であり、その大部分は人件費です。しかし我々は、この開発を我々の持つ圧倒的な知識力・技術力で、ごく少数の人間で急速に進めます。そうすると、飛行機も人工衛星も原価で買えます。材料費だけです。ほとんどただです。人を雇わないわけにはいかないが、開発費はほとんどただです。たとえば100億円の人工衛星が1億円程度です。それを外部には100億円で売れば、坊主丸儲けです。もっともその内情は外部には秘密です。税金に話が戻りますが、我々は不必要な納税はしない。そのためにも、海洋大臣の計画する海洋国家大和、および島嶼国家の構想は重要です」

ここでビーナスが発言した。

「それでは、ここで海洋大臣ポセイドンの話を聞きましょう」

続く

   
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