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傀儡謡(くぐつうた)・・・川井憲次の世界

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今回からは日本人の作曲家を取り上げる。私は「攻殻機動隊」というアニメの大ファンである。英語タイトルはGhost in the shellという。士郎正宗の漫画であるが、サイバーパンクSFというジャンルに属する。それを元にした押井守監督による劇場用アニメ映画が1995年に公開された。日本での評価はいまいちであったが、アメリカで高く評価され、その後、日本でも評価されるようになった。アメリカの映画監督ワーカウスキー兄弟に大きな影響を与え、映画「マトリックス」にも、いろんなところで取り入れられている。

2030年ころの日本を舞台にした話である。科学技術が飛躍的に発展して、人間はコンピュータチップを脳に埋め込み、インターネットに直接アクセスすることができる。また義手・義足を発展させたサイボーグ技術が進歩して、人間の体のかなりな部分が機械に置き換えられている。それを義体化という。社会はかなり混乱を来しており、テロなどの犯罪を防止する内務省直属の公安警察組織、公安9課「攻殻機動隊」の刑事達が活躍する。「攻殻機動隊」では、少佐こと草薙素子が主人公である。最後に草薙素子は肉体を捨て、ネットと融合してしまう。攻殻機動隊の予告編をどうぞ。

その続編は「イノセンス」として2004年に公開された。私はこのDVDを買って、100回は見ただろうか。エトロフ島の大都会にあるロックス・ソロス社が少女型ガイノイド(アンドロイドの女性形)を作っている。その一つが暴走して殺人を犯す。その事件を捜査しているのが公安9課の刑事バトーとトグサ。舞台は最後にエトロフの沖合の海上に浮かぶ工場船に移り、そこに潜入したバトーとガイノイドの間で壮烈な戦闘が行われる。素子はネットからガイノイドの一つに自分の意識をダウンロードしてバトーを助ける。最後に解き明かされる謎。そのプロモーションビデオをどうぞ。そこで歌われているのは、以前に紹介したアランフェス協奏曲の第2楽章から取ったフォロー・ミーである。

攻殻機動隊は映画版の他に、テレビアニメにもなっている。私が攻殻機動隊の話を大学の講義で話したとき、ファンの学生が講義の後でやってきて、話し込んでいった。テレビアニメは見たかと聞く。私は見ていなかったので、さっそくツタヤの会員になり、ほとんど全巻をレンタルして見た。想像以上に良くできた作品で、日本の暗い未来を描いていて重い。

「個別の11人」というシリーズでは、陽には言われていないが、北朝鮮と思われる国が崩壊して、その難民を日本が引き取り、出島という4つの租界地に住ませている、という世界を描いている。彼らは日本からの独立を求め、ロシアから核兵器を密輸して、それをてこに暴動を起こす。自衛隊が鎮圧に出動して、戦いが始まる。テログループ「個別の11人」、公安9課、内閣調査室、自衛隊、それに米帝入り乱れての複雑な戦いである。米帝が介入して、出島に核攻撃を企図するが、日本側の人工知能搭載ロボット「タチコマ」の自己犠牲により救われる。とても複雑な重い話である。

多くの日本人は、北朝鮮が崩壊すれば気味がよいと単純に思っている、あるいはマスメディアにより思わせられているだろう。しかし現実はそんな単純な話でないことは、このアニメがよく表している。(政治家でない)政府関係者は、そんなことは先刻知っているが、マスメディアによる国民洗脳のせいで、言い出せないのだそうだ。北朝鮮が崩壊したら、日本から北朝鮮に帰国した10万人近い人々とその家族を日本が受け入れねばならないと思う。しかし、日本は国際難民条約に加入しているので、300万人を受け入れなければならないだろうともいう。そのような世界を描いたのが「個別の11人」である。

攻殻機動隊は、人間とコンピュータ(機械)が限りなく融合していく未来を描いている。私はこれを知能増強(Intelligence Amplification=IA)と定義している。それにより人類の能力が拡大、増強されると考えるのである。それにより人類は最終的には超人類に至ると考える。一方、人工知能(Artificial Intelligence=AI)が自分の意識を持つというシナリオもありうる。これは例えば先に述べた映画「マトリックス」の思想である。私はこの問題をさらに突っ込んで議論するために、小説「悪の秘密結社『猫の爪』による世界征服計画」を書いている。興味のある方はそちらを参照されたい。


Reincarnation

さて音楽の話である。攻殻機動隊を初めて見たときに、その不思議な映画音楽に圧倒された。女性のコーラスであり、確かに日本語らしいのだが、何を言っているか全くつかめなかった。最近になって、その歌に興味を持って調べたところ、それを作曲したのは川井憲次という作曲家であることが分かった。その歌詞が追えないのも当然で、古代の日本語で書かれているのだ。その歌詞を書いてみよう。

吾が舞えば        あ(私)がまえば
麗し女 酔いにけり    くわしめ(美女) よいにけり
吾が舞えば
照る月 響むなり     てるつき とよむなり(共鳴する)
夜這いに 神天下りて   よばい (結婚式)に かみあまくだりて
夜は明け         よはあけ
鵺鳥鳴く         ぬえとり(夜の鳥)なく
吾が舞えば
麗し女 酔いにけり
吾が舞えば
照る月 響むなり
夜這いに 神天下りて
夜は明け
鵺鳥鳴く
遠神恵賜         とおかみえみため(遠くの神が恵みを垂れてくださる)
遠神恵賜
遠神恵賜

歌っているのは、西田社中という女性民謡グループである。真ん中の少し太めのおばさんがリーダーの西田和枝さんである。民謡陣のコーラスを強力な打楽器を伴うオーケストラがバックアップする。打楽器を打っている金髪のおじさんが川井憲次である。この音楽のジャンルは何だろう。民謡でもない、雅楽でもない。日本の古代のにおいを漂わせた西洋音楽とでも言うしかない。これが西洋音楽であることは、民謡歌手がリズムをとるのに苦労していることから分かる。川井憲次の創出した新しいジャンルとでもいえよう。

西欧人の評価が高い。とくに「遠神恵賜(とおかみえみため)」の部分では身震いするほど感動するという。コメントをいくつか和訳してみよう。

どれほどすばらしいか、言葉で表現できない。
壮大な芸術を聞いて、いつも幸せの涙を流している。これこそ、人類の魂を永遠にするものだ。
いつも感動する。良くバランスが取れている。名作だ。
息をのむほど美しい。言葉に表せないほどすばらしい。


傀儡謡(くぐつうた)「怨恨みて散る(うらみてちる)」・・・イノセンス挿入歌

こちらはイノセンスの挿入歌「傀儡謡(くぐつうた)『怨恨みて散る(うらみてちる)』」である。歌詞は以下の通りである。意味は分かるであろう。とても重い歌詞である。西欧人は歌詞の意味が分からないから、神の曲だと賛美するが、そんなものではない。

歌詞

一日一夜(ひとひひとよ)に 月は照らずとも
悲傷(かな)しみに 鵺鳥(ぬえとり)鳴く
吾(あ)がかえり見すれど
花は散りぬべし
慰(なぐさ)むる心は
消(け)ぬるがごとく

新世(あらたよ)に神(かむ)集(つど)いて
夜は明け
鵺鳥鳴く

咲く花は
神に祈(こ)ひ祷(の)む
生ける世に
吾が身悲しも
夢(いめ)は消ぬ
怨恨(うら)みて 散る

西欧人のコメント

このコーラスは全く驚くべきものだ。西欧にはこれはない。私は自室でスタンディングオベーションをしたい。信じられない声だ。
すばらしい、天国のようだ。
この音はブルガリアの民謡に似ている。
川井憲次は純粋な音楽天才だ。

多くの人々はこの演奏が神のようだと言っている。私は同意する。しかし歌詞は人々が思うほど幸福なものではない。しかし演奏はいかに暗く病的なものであろうと、注目すべきものだ。

 

 

傀儡謡 陽炎(かぎろひ)は黄泉(よみ)に待たむと

この曲はイノセンスの最終場面でバトーが工場船に突入するときに、延々と10分近く演奏される。手に汗握る戦闘シーンなのだが、この民謡コーラス、和太鼓を中心とする壮大なドラムオーケストラが大きな効果を与えている。この曲の最大の聞き所はなんと言っても和太鼓の茂戸藤浩司(もとふじひろし)の入神の演奏である。和太鼓がこれほどすごいものであることを私はこの音楽で初めて知った。

歌詞

陽炎(かぎろひ)は
黄泉(よみ)に 待たむと

陽炎は
黄泉に 待たむと

咲く花は
神に祈(こ)ひ祷(の)む
生ける世に
吾が身悲しも
夢(いめ)は消(け)ぬ
怨恨(うら)みて 散る

怨恨(うら)みて 散る

百夜(ももよ)の悲しき
常闇(とこやみ)に
卵(かいこ)の来生(こむよ)を
統神(すめかみ)に祈(の)む

 

西欧人のコメント

われわれはこのショーを宇宙船に乗せて、宇宙に人類を代表するものとして送りだそう。
クール、とてもクール。
ワオ、ただただワオ、なんと驚くべき演奏だ。ブラボー。
私はこの曲の力を感じる。確かに優れた演奏で、太鼓青年は全くすばらしい。
すばらしい音楽、神の音とオーケストーレーション。

 

   
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