2017年04月24日

JEINET活動報告

2011年度科学普及員研修会報告

<”科学を広めたい”を応援する 2011年度 科学普及員研修会(通称:JEINET)報告>

2011年度、NPO法人あいんしゅたいん(以下、「あいんしゅたいん」)では、物理学会京都支部の活動の一つとして、「科学リテラシーを持ち、世に広く科学を普及して行く人」を要請することを目的とした科学普及員研修会を開催した。
この研修会は1年間にわたり、およそ月1回のペースで開催され、延べ23人の人がコースを修了した。科学普及の対象として、大きく「子供」と「大人」に分けられることから、子供に科学を知ってもらいたいと思う人のための「理科実験コース」と、世に広く科学リテラシーを広めたいと思う人のための「科学のウソ突破コース」との2コースを実施した。

NPO法人あいんしゅたいんの概要

あいんしゅたいんは、元物理学会長の坂東昌子氏を理事長とし、物理・生物・地球惑星などの理学系の各分野の退官教員、若手研究者などによって運営されるNPO法人である。もともとはポスドクの就職支援を中心に活動を行っていたが、昨今の社会情勢を鑑み、現在は広く一般市民への科学啓蒙活動にも力を入れている。今回の「科学普及員研修会」もその一環として位置づけられる。

科学普及員研修会開催の背景と概要

今日の生活は科学技術によるところが大きくあるにも関わらず、世間では科学リテラシーの欠如が指摘されている。子供の理科離れが問題となり、大人においても、科学的思考、科学知識に基づいた判断がなされずに問題収束に至らないような事態が多々起きている。例えば2011年3月11日に起こった東日本大震災とそれに続く福島原発問題に関する行政の対応、科学者や市民の反応が良い例である。
この様な状況を憂い、あいんしゅたいんでは2011年度、前年度より続けている小学生とその保護者を対象とした科学実験教室「親子理科実験教室」と、「東日本大震災にまつわる科学ー公開討論会」を開催し、それと合わせて、本稿の主題である「科学普及員研修会」を開催した。「親子理科実験教室」と同時開催したコースを「理科実験コース」、「東日本大震災にまつわる科学ー公開討論会」と共に開催したコースを「科学のウソ突破コース」と呼んでいる。両コースとも、それぞれのイベントをより深く理解し、その内容を元に、議論、知識の伝達ができるようになることを目的とする。
両コース共に、資格認定制度を設けた。研修生に対し、最後に科学普及にまつわるプレゼンと、レポート提出を課しており、その評価に応じて、佐藤文隆氏(あいんしゅたいん名誉会長)を審査員長としてあいんしゅたいん理事、物理学会京都支部長などを委員とする評価委員会から延べ18名が資格認定を受けている。プレゼンは両コース合同で行われ、4回に分けて研修者発表会が開かれた。
また、このプレゼンとレポートに関して、メンター制度を設け、研修生をサポートした。メンターは物理学会で募集し、結果7名の協力が得られ、制度を利用した研修生は延べ5名であった。

研修会プログラム

先述の通り、科学普及の方法は、対象が子供か大人かで随分と違いがあると考えられることから、対子供を想定した「理科実験コース」と対大人を想定した「科学のウソ突破コース」を用意した。

► 理科実験コース

  1.通常講習(全7回)
    講 師: 坂東昌子(あいんしゅたいん)他
    主 催: NPO法人あいんしゅたいん
    内 容: あいんしゅたいん及び京都大学理学部主催の親子理科実験教室を見学。また、その際の教授方法や内容への理解を深める為に坂東昌子氏による講義を受ける。
  2.夏期集中講習(全4回)
    講 師: 杉原和男(元京都市青少年科学センター主任)
石川隆(東京大学理学系研究科)
    主 催: NPO法人あいんしゅたいん
    内 容: 講師による講義・演示実験、研修生による実習が行なわれた。テーマは杉原氏が「電磁誘導」、石川氏が「光の性質」。
  3.特別講習(全1回)
    講 師: 網倉聖子(サイエンスEネット)
安田淳一郎(岐阜大学教養教育推進センター)
    主 催: 物理学会京都支部、科学教育若手研究会
    内 容: 本研修制度が目指す科学普及員のモデルケースである網倉氏のサクセスストーリーを聞く。また網倉氏が自身の主催する実験教室で行なっている実験のデモンストレーションを見る。
安田氏による放射線の講義と霧箱実験の見学。

 

► 科学のウソ突破コース

   通常講習(全7回)
    講 師: 坂東昌子(あいんしゅたいん)他
    主 催: NPO法人あいんしゅたいん
    内 容: あいんしゅたいん・物理学会京都支部・基礎物理学研究所主催の「東日本大震災にまつわる科学ー公開討論会」を聞き、その後、解説講義を受け、ディスカッションを行う。

各コースの内容と実施時の様子

理科実験コース

理科実験コースでは、親子理科実験教室で行われている内容(2011年度は電磁気がテーマであった)を中心に、科学の基礎となるような原理や知識、それらに対する客観的視点を、子供たちにどう伝えていくかを研修生に考えてもらうことが目的であった。
研修生としては、親子理科実験教室の保護者を想定していたが、それ以外にも、科学が好きな小中学生、教師を目指す高校生、親子理科実験教室でTAをしている大学生、現役の教師や大学教員、その他、主婦や自営業、NPO職員など多様な立場からの参加があった。また、本コース参加者15名のうち9名が女性であった。
本コースは、月に1回行われる親子理科実験教室を見学し、各回における実験内容のポイントを坂東昌子氏の講義によって確認をする、という形式で行われた。また夏期には集中講習、冬には特別講習を行った。
夏期集中講習では、講師として杉原和男氏(京都パスカル・元京都市青少年科学センター)、石川隆氏(東京大学理学系研究科)を迎え、講義と演習という形で、研修生自身に手を動かして実験してもらう場を用意した。
杉原氏は、エジソン電球が作られた頃の電気事情や、エルステッドが直線電流による磁場を発見した話など、歴史事項を交えつつ、電気そのものや電磁誘導についての講義、実演、実習を行って下さった。特筆すべきは、杉原氏が自作の大電流電線(S-Cable)を用いて行った実演及び実習である。杉原氏の指導の下、研修生たちはS-Cableでエルテッドの実験を再現した。さらには、音楽プレーヤーから電流という形でS-Cableに流した音楽情報を、S-Cable周りの磁場をコイルで捉えて電流に戻しスピーカーを通して再現することで、直線電流とその周りの磁場が密接に連動していることを、身をもって体感した。これは、研修生に大変に受けが良く、子供のようにはしゃぎ、実験に夢中になる研修生が少なからず見受けられた。
石川氏は、光にまつわる講義と実演を行って下さった。分光器を用意して、数種のLEDや、日光、ナトリウムランプなどを、研修生たちに見てもらい、光の色と波長の関係についての講義を行われた。また、光の偏向、旋光性を知ってもらうために、ショ糖などの水溶液を通過した光を偏向版を通して見せるなどの実演も行われた。更には当時は節電ムード真っ盛りでLED電球が巷で騒がれていた事もあり、LEDの性質も解説や、光通信装置の紹介などもして下さった。杉原氏の協力により、全研修生に簡易分光器が配られたため、研修会終了後も、それを用いて、色々な光を観察した研修生もいたようである。この石川氏の講義に刺激され、夏休みの自由研究で、改良した簡易分光器を自作し、身の回りの光を観察した研修生(小学生)もいた。
また、夏期講習では一部時間を割き、第一回研修生発表会を開いた。このときは、1名が自作の惑星モデルについて発表を行い、これに刺激され、ある別の研修生(中学生)はこの後、天文検定を受けている。
この夏期講習により研修生間の交流が深まると共に、「科学をもっと深く理解したい」「どのようにすれば子供たちに伝わりやすいか、もっと真剣に考えて行きたい」と、熱心になる研修生が数多くいた。「夏期講習が大きな刺激になった」という旨の感想が複数の研修生から寄せられている。
特別講習では講師として網蔵聖子氏(サイエンスEネット)を迎え、教員等の教育関係者でなかった網蔵氏がどのように科学普及に携わるようになったか、現在どのように子供向けの実験教室を行っているか、を実演を交えてお話しいただいた。研修生の中には教育関係者ではない人が半数以上いたこともあり、網倉氏のサクセスストーリーは、将来科学普及を自らの手で行ってみたいと思っている研修生にとってはモデルケースとなり得る。研修会修了後に、いずれは自らの手で科学教室を開けるようになりたいと言った研修生が数名見受けられた。網倉氏のケースに勇気付けられた所は大きかったようだ。
また、この特別講習は科学教育若手研究会の協力によって実施されており、メンバーである安田淳一郎氏(名城大学助教)による霧箱実験の実演と共に、公開講座として行われた。サイエンスE ネット、京都府科学の祭典などで宣伝した結果、研修生以外からの参加が9名あった。
さらに、特別講習では網倉氏と安田氏による講演の後、第三回研修生発表会を開き、5名の発表が行われた。

科学のウソ突破コース

科学のウソ突破コースは、情報過多の現代において、疑似科学に惑わされず、デマ拡散に加担せず、身近なことから社会のことまで科学に基づいた議論を周囲の人と展開していける人を育成することを目的としている。今年度は2011年3月11日に起こった東日本大震災とそれに続く福島原発事故による社会の混乱を踏まえ、その中で賢く生き抜く術を身につける事を目標とした。
研修生としては、放射線やエネルギー問題に興味のある大学生4名を除けば、40代以上の子を持つ親の世代、孫をもつ世代がほとんどであった。未曾有の災害に対して、被害を受けなかった関西とはいえ、特に放射線に関する情報を求める人が多かった。また、ジャーナリストの立場からの参加が1名あった。なおこのコースには当初11名が登録した。
研修会は「東日本大震災にまつわる科学ー公開討論会」を傍聴し、その後、坂東氏による解説を聞きディスカッションをする、という形で行われた。全7回のうち(「東日本大震災にまつわる科学ー公開討論会」と共通)、1回が地震をテーマとし、他6回は福島原発問題を発端とするテーマであった。うち、エネルギー問題についてが1回、原子力導入の歴史についてが1回、事故原因に関するものが1回、残り3回が低線量放射線に関するもの(福島の線量の現状、ICRPの防護基準、生物・免疫学的見地からの健康リスク)であった。
本コースでは扱っているテーマの科学的基礎が難しく、また「親子理科実験コース」の夏期講習や特別講習のように研修生が主体となって動くような場が少なかったこともあり、消化不良の研修生も複数見受けられた。
なお、第6回目においては、公開討論会中に研修生の発表の場が設けられ、3名の研修生(大学生)が発表を行った。

研修生発表会

研修生発表会は両コース合同で行われ、4回に分けて開催された。発表時間は10分、質疑応答は5分であった。発表にあたっては、パワーポイントの使用や簡単な実験の実演を奨励した。研修生によってはパワーポイントを使用したことがないといったケースもあったが、メンター制度などの利用により、ほぼ全ての研修生がこういった発表補助ツールを利用した。
理科実験コース受講者による発表内容は様々であったが、主に次のパターンに分けられる。まず、あるテーマについて子供向けに授業を行う事を想定して発表を行うパターン。次に、これは現職の教育関係者においてであるが、実際に自分が行った教育に関する工夫や考察を発表するパターン。そして、これは保護者の場合であるが、子供と夏休みの自由研究などを行い、その際の指導方法や子供の反応などを交えて発表するパターンである。
科学のウソ突破コース受講者においては、それぞれが自分の立場や経験を踏まえて、東日本大震災および福島原発事故に由来する問題に対する提言を行うパターンと、興味あることを調べ考察し、その内容を発表するパターン(現地調査、アンケート調査などを含む)とに分かれた。
以下に発表タイトルを記載しておく。

理科実験コース 科学のウソ突破コース
 惑星模型の作成とその利用  技術屋として
 雲のでき方  薬剤師の立場から
 地磁気のこと  飯館村からのSOS
 神山天文台とLLP京都虹工房における天文の普及活動  放射線の危険性とは何か
 子供と一緒に火山灰の不思議を感じたい  放射能のこと ー私の考えー
 光の性質  How to Estimate the influence of Radiation ?
 生涯学習における実験デモンストレーション  正しく恐れよう! ー低線量放射線の影響ー
 大学の初年次教育、大学院教育、そしてアメリカの大学  基準値20mSv/yはどのように決まったのか
 電気の力 ー子供たちと取り組んだ夏休みの自由研究ー  宇宙太陽光発電 ー原子力エネルギーの代替案ー
 科学普及員研修会に参加して  
 虹以外で虹をさがしてみよう  

研修生には様々な立場の人がいたため、発表に慣れた人から人前で話すのは初めてといった人まで色々であった。中には、随分と緊張した研修生もいたようだが、後に「いい経験をした」「達成感を感じた」などの感想が寄せられている。また、評価委員からのコメントを受けて、「改善していきたい」と意欲を見せた研修生も多かった(特に、教育関係者などで実践中の研修生や実践したいと考えている研修生に多かった)。

評価システム及びサポートシステムについて

1.評価方法

両コース共に、4回以上の出席をコース修了条件とした。各回で書いてもらったアンケートと感想の提出回数でカウントしている。
コース修了者のうち、研修生発表会における発表と、それを元に作成してもらったレポートに対する評価に応じて四段階の資格認定を行った。認定資格は次の4つである。

グレードⅠ: プロフェッサー [Professor]
グレードⅡ: アドバイザー [Adviser]
グレードⅢ: ティーチングアシスタント [Teaching Assistant]
グレードⅣ: アシスタント [Assistant]

高校生以下はジュニア部門とし、同じく4段階の資格認定をした。評価はレポートよりも発表に重きが置かれており、評価項目は以下の通りである。

● 発表内容(正確さ、独創性、構成)
● 発表方法(話し方、パワーポイントの使用方法)
● レポート内容(正確さ、独創性、構成)

なお、関東や九州などの遠方からの参加のため、発表会日程の都合がつかず発表できなかった研修生、及び資格認定に至らなかった研修生には修了証を発効し、2012年度以降のあいんしゅたいんのイベントの場において何らかの発表を行った時点でそれに対する評価を行い、その結果に応じて資格認定を行う。

コース修了条件: 研修会への4回以上の出席
資格認定課題: 各コースのテーマに沿った発表(10分+5分)とレポート
科学普及の場を想定した模擬講演、または実際に身内等に行なった普及活動の報告、もしくは開発教材の提案

 

認定資格 発表 レポート
内容 方法 内容
プロフェッサー 独創性・正確さ・発展性があり、構成も良く分かりやすい 聞き取り易く、パワーポイントなど補助ツールも使いこなし分かりやすい 独創性・正確さ・発展性があり、構成も良く分かりやすい
アドバイザー 独創性・正確さ・発展性があり、構成も良いが、背景知識に改善の余地がある 聞き取り易く、パワーポイントなど補助ツールも使いこなし分かりやすい 独創性・正確さ・発展性があり、構成も良いが、背景知識に改善の余地がある
ティーチング
アシスタント
構成は良く、最低限の正確さは担保されているが、独創性・発展性・背景知識などにおいて不充分な点がある 聞き取り易く、パワーポイントなどの補助ツールも使用できている 構成は良く最低限の正確さは担保されているが、独創性・発展性・背景知識などにおいて不充分な点がある
アシスタント 内容に限り最低限の正確さは担保されているが、独創性・発展性・背景知識・構成において改善の余地が多くある 聞き取り易く、パワーポイントなどの補助ツールも基本的には使用できているが、改善の余地がある 内容に限り最低限の正確さは担保されているが、独創性・発展性・背景知識・構成においても改善の余地が多くある

2.評価委員会

評価委員会は、あいんしゅたいん名誉会長の佐藤文隆氏を委員長とし、物理学会京都支部長の石田憲二氏、あいんしゅたいん理事長の坂東昌子氏、副理事長の松田卓也氏、常務理事の米原俊憲氏、基礎科学研究所(あいんしゅたいん附置機関)主管の竹本修三氏、大阪大学大学院工学科助教の真鍋勇一郎氏、東京大学宇宙線研究所特任助教の伊藤英男氏らによって構成されている。評価委員のうち4名以上が各研修生発表会に出席し、各研修生の発表に対して評点及びコメントをつけた。その後、2012年3月に評価委員会を開いて、提出されたレポートと発表の評点を基に最終的な資格認定を行った。結果、プロフェッサー2名、アドバイザー8名、ティーチングアシスタント3名、アシスタント2名、ジュニアプロフェッサー1名、ジュニアアドバイザー1名となった(両コース延べ人数)。

<科学普及員認定証見本>
 
審査員長からのコメントが挿入されていることが特徴で大変好評であった

3.メンター制度

研修生の中には、発表をしたことがない、レポートのまとめ方がわからない、パワーポイントの使い方を知らない、といったがケースが存在した。そのサポートのため、希望する研修生にはアドバイスを行うメンターをつける、というメンター制度を取り入れた。メンター制度の立ち上げは科学教育若手研究会のメンバーである、前直弘氏(あいんしゅたいん常務理事・関西大学特任助教)、安田淳一郎氏(名城大学助教)、山田吉英氏(福井大学講師)、及び本稿著者の廣田が行った。
また、物理学会を通してメンターを募集したところ、上記四人以外にも、轟木義一氏(千葉工業大学助教)、中野美紀氏(神戸大学/大阪産業大学非常勤講師)、日下和信氏(元大阪キリスト教大学教授)がメンターを引き受けて下さった。
研修生によるメンターの申込後、マッチングが行われメンターが決定されると、後は研修生と担当メンターで都合をあわせてメールや直接会うなどの方法でアドバイスが行われた。また、研修生が遠方で直接会うのが困難であり、かつ「パワーポイントの使い方」といったメールでは不十分な指導が必要な場合には、SkypeやPC遠隔操作フリーソフト(個人使用のみ)のTeamViewerなどを用いて指導を行った。

実施実績(再掲、まとめ)

これまでに述べた実施実績を以下にまとめておく。
2011年度は、本制度により両コース合わせて延べ26名が研修会に参加し、うち23名がコース修了、18名が資格認定を受けた。このうち3名が高校生以下であり、高校生以下の研修生にはジュニア資格を設けた。以下に認定資格の内訳を示す。

認定資格 人数
プロフェッサー 2
アドバイザー 9
ティーチングアシスタント 3
アシスタント 2
ジュニアプロフェッサー 1
ジュニアアドバイザー 1

認定資格のうち、プロフェッサー及び、アドバイザー取得者に対しては、今後は実地訓練を経た後、科学普及員として活躍していく事が望まれる。また、ティーチングアシスタント、及びアシスタント、また資格認定に至らなかった研修生については、科学知識、科学的思考の強化をしていくことが必要である。しかし、今の段階においても、科学カフェを企画するなど、普及活動の企画運営側として普及活動を実践していくことが期待される。

研修会がもたらした効用

1.研修生への効用

今回参加した研修生の多くは、もとより科学普及に興味があり熱心であったが、そこに今回の研修会が起爆剤となり、プロフェッサー、もしくはアドバイザーの資格認定を受けた研修生の中には「科学普及を近い将来に実施しようと思う」と前向きな姿勢を見せてくれた人が複数おり、中には構想を練り始めた人もいる。これは本制度が正に目指すものであり、今回の実施は一定の効果があったものと言える。
また、副次的な効果としては、次のようなものもあった。

  ●  研修生のうち現役教育関係者の中には、今回の研修会の中で行われた演示実験や解説方法の工夫を実際の授業現場や、生涯学習の講演会の場に持ち込み実戦した研修生が複数いた。
  ●  研修会の発表やレポートのための調査によって結ばれた縁から、すでに小さな科学カフェを開いた研修生もいる。「理科実験コース」において「地磁気のこと」を発表した研修生は2012年の3月に荒木徹氏(京都大学名誉教授)を招いて小さな講演会を開き、「地磁気センターニュース」にエッセイを寄稿している。
  ●  他の研修生による「惑星模型作成とその利用」の発表に刺激され天文検定を受けたり天体望遠鏡の製作にとりかかったりした研修生(中学生)もいる。

このように研修会をきっかけに、「科学普及をやってみたい」「科学そのものへの理解を深めたい」という思いを更に強め、行動に移し始めた研修生が多数いることは運営側にとっては大変にうれしいことである。これらの点だけをとっても、研修会は成功したと言えよう。

2.研究者サイドへの効用

本制度は広く一般への科学普及を目指すものである。その主要な内容は市民が各人の立場を活かして科学普及をできるようサポートすることである。しかしそれと同時に、科学を本業とする研究者サイドへも次の点において効果が期待される。

  ●  メンター制度を通じた、若手研究者の科学コミュニケーションへの興味の喚起とコミュニケーション能力の向上
  ●  若手研究者のキャリアパスの拡大。若手研究者がその専門性を活かせる場としての「科学教育分野」の開拓
  ●   評価委員会での審査員の經驗を通じた、シニアスタッフの科学普及へ興味の喚起

なお、今回の実施においては7名のメンター登録があった。以下にメンター登録者(敬称略)を列挙しておく。

中野美紀(神戸大学/大阪産業大学 非常勤講師)
日下和信(元大阪キリスト教大学教授)
安田淳一郎(岐阜大学教養教育推進センター准教授)
前直弘(関西大学理工学部特任准教授)
山田吉秀(福井大学教育地域か学部講師)
廣田誠子(京都大学理学研究科D1)

「科学教育分野」の開拓という点においては、今回の「理科実験コース」特別講習およびメンター制度は、科学教育若手研究会メンバーが企画から運営までを主体的に担っている。科学教育若手研究会は主に物理学で博士号を取得した若手研究者を中心とし、その他、教職員や、大学院生等から構成されるグループである。これまでに若手研究者が行なって来た科学普及活動は主にトップダウン的に行なわれたものが多く、今回のように、若手研究者が企画の立ち上げから担っている事が画期的であると言えよう。今後、本制度やそれに類する制度によって、若手研究者の活躍の場が広がっていくことを期待したい。
また、研修生発表会に出席した審査員の面々からは、「面白かった」「優秀な人が埋もれている」といった声も頂いており、科学普及への関心を少からず深めてもらったのではないかと思っている。

今後の展望と改善点

1.改善点

今回の本制度実施は、第一回であったこともあり、手探り状態での開催であった。そのため、研修会の授業内容や、構成、評価方法などには、改善の余地がある。

 1)講習会の構成の改善

A)研修生が主体的に活動する実習をメインとしたプログラムを組み立てる

今回の実施において、最も大きく研修生に作用したプログラムは「親子理科実験コース」の夏期集中講習であった。この夏期集中講習はその他の講習と違い、研修生自らが実際に手を動かす事のできた場であり、その結果、ディスカッションも多いに盛り上り研修生の理解は深まった。このことを鑑み、通常講習においても、研修生が主体的に活動できる場を作ること望ましい。
そこで、次回実施時には、今回の通常講習のような「抱き合わせ型」の研修会を行なうのではなく、親子理科実験教室の見学や公開討論会の聴講とその理解を深めるための講義とは別の日に行なう事を考えている。

B)集中講座を増やす

夏期集中講習が有用であった理由は、先に挙げた研修生の主体性の担保のみならず、「非日常性」や「ある程度まとまった時間を同じメンバーで過ごす」といった「集中講座」ならではの特徴も挙げられる。これらは、主に、研修生間の交流も活発にする効果があったと考えられる。研修生間の交流の活性化はその後の通常講習への研修生の熱意に大きく作用しており、次回実施時には、集中講座を増やすことはとても有意義であると考えている。

 2)科学的基礎の修得が必要な研修生への指導の強化

今回、各研修生が前提として持っている科学知識や思考力はまちまちであったが、現行のプログラムでは全ての研修生を科学普及員に相応しいレベルまで向上させる事は難しい。
しかし、少なくとも今回の研修生たちに見た「熱意」は大したものであり、そのモチベーションの高さは見過ごすには惜しいものであった。今回の実施では8割以上の研修生がコースを終了し、そのうちの8割がなんらかの資格認定までこぎつけている。人前での発表等、初めての経験にもめげずに、最後までやり遂げた研修生が何人もいる。また、関東や九州など遠方からの参加も複数あった。これまで科学に親しむ機会がなくても、また科学は難しいからわからないと思い込んでいても、もしくは生まれ育った時代背景から社会風潮として科学と疎遠であっても、科学の重要性を感じ、「科学を理解したい」「科学を世に広めたい」と思っている人が少なからずいるということは、社会にとって、とても良いことなのではあるまいか。
今後は、このような研修生に対し、何かしらの対策が必要である。可能であれば、「科学を理解するための基礎講座」のようなプログラムを実施することが望ましい。また、そのような余力が無い場合にも、他組織による有益な一般講座などの案内ができるよう、情報を収集しておく必要がある。ちなみに、「基礎講座」を行うのであれば、はじめのテーマは「統計学」が良い。なぜなら、そのような研修生の多くに欠けている概念に「定量的な見方」があり、データが示された際にどう見たらよいかわからないように見受けられたからである。

2.今後の展望

 1)科学普及員研修実践講座の構想

今回の実施はいわゆる「基礎講座」といして位置づけられる。従って、今回複数のプロフェッサー及びアドバイザーの資格認定が行なわれたが、これらの資格取得者に対しては、今後実地訓練が望まれる。従って、今後は「科学普及員研修実践講座」の開催が望ましい。現在、NPOあいんしゅたいんを中心に、その構想が練られている。更に実践編を終えた研修生には、NPOあいんしゅたいんでの他のイベントにおいて、講師、講師の補佐やティーチングアシスタントとして参加してもらう可能性も考えられる

 2)主婦向けの科学普及員講座の構想

今回の研修会では、既出であるが、女性が過半数を超えていた。3月の評価委員会で議論になったことであるが、女性の中には、高等教育を受けたものの結婚後家庭に入り、たとえ仕事を持っていても男性ほど社会との接点がないケースが数多くある。このような女性の中には優秀な人材がまだまだ埋もれている可能性がある。また「科学普及」においては、一般にコミュニケーションに長けているとされる女性は有利である可能性もある。更に、女性の社会進出が随分と進んだ現在ではあるが、女性は家庭にという風潮も残っており、このような理由で社会と疎遠になっている女性においては、機会さえあれば社会に対して何か行ってみたいという欲求を膨らませている事も多々あるのではないだろうか。このような女性のために、NPOあいんしゅたいんを中心にお母さんを対象としたイベントの構想も出ている。今後、このような人たちを上手く社会に動員することを考えていかなければならない。

最後に

私は今回、この「科学普及員研修制度」にあいんしゅたいんの側から関わらせて頂き多くのことを学ばせていただいた。それは研修生に混じって学ばせていただいた科学普及の事もあるし、企画を運営していく上での事もある。
科学普及に関することでは、研修会内容のみならずメンターなどもさせて貰ったが、これも大いに勉強になった。研修生の皆さんと過ごす時間は私にとっても楽しいものであり、大変なこともあったがやってよかったというのが感想である。
また制度実施に関することでは、私は配布資料の準備や、研修生へのお知らせ、提出物の取りまとめなどの事務作業を主に担当させていただいたが、手際よく進めていくためには工夫もいるし、経験もものを言うし、また周囲の協力でぐっと仕事が楽になる、ということを理解した。事務作業に慣れておらず、要領が悪く、評価委員会の方々、あいんしゅたいんの方々、研修生の皆さんにはご迷惑をおかけしたことも多々あった。至らない私を温かく見守ってくださった事に、ここで感謝の意を表したい。
この「科学普及員研制度」は物理学会京都支部を中心に科学教育若手研究会、あいんしゅたいんの協力の下、実施された。坂東昌子氏をはじめとするあいんしゅたいんの方々(理事の皆さんはもちろん、特に事務の方々には裏で大きく支えていただいている)、講師として来てくださった杉原和男氏、石川隆氏、網蔵聖子氏、また特別講習の企画運営を担って下さった科学教育若手研究会の前直弘氏、安田淳一郎氏、山田吉英氏、そして佐藤文隆氏や石田憲二氏、真鍋勇一郎氏をはじめとする評価委員の方々、他メンターを引き受けて下さった轟木義一氏(千葉工業大学助教)、中野美紀氏(神戸大学/大阪産業大学非常勤講師)、日下和信氏(元大阪キリスト教大学教授)らのおかげで本制度は確立した。本制度を利用し今後科学普及に携わるであろう制度第一期生の皆さんの今後の活躍を期待したい。
最後に、この「科学普及員研修制度」に携わる機会が与えられたことを、運営側の皆さんにも、研修生の皆さんにも、また私があいんしゅたいんに関わるきっかけを与えて下さった吉川研一氏(同志社大学生命医科学研究科教授)にも感謝しつつ、以上で報告を終わる。

廣田誠子(京都大学理学研究科物理学教室)