2024年03月19日

東日本大震災 ー 放射線の影響3

始めに

このスライドは、3月末に発表した「東日本大震災 ー 放射線の影響」からその後の勉強の成果を取り入れ、より分かりやすいものへと推敲を重ねたもので、7月3日の「シリーズ 東日本大震災にまつわる科学 ー 第1回公開講演討論会」で発表しました。

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2011年3月11日地震、津波、原発事故以降、原子力に関わる研究者、医者、その後の放射線の影響についてのコメント、数々あれど、一番、的確だと思ったのは福島わたり病院の斉藤紀医師の言葉でした。斉藤氏は広島で被爆者の治療に当たってこられた医師です。
先生は、晩発性障害は必ず克服できる、この後の時間の過ごし方が問われていると言われました。


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放射線による晩発性障害はこれからの対応の仕方で結果が変わってくる、と言われた先生の発言に私は感銘をうけました。特にがんの生き甲斐療法に関わってきて、心の状態と免疫機能との関係についての研究に関わってきた私には、この間にお聞きしたどなたの言葉よりも共感を覚えました。
このスライドでは、何故晩発性障害は克服出来ると斉藤先生はいわれたのか、またその克服法の科学的根拠についてお話しましょう。


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放射線障害には高容量の放射線を短時間に浴びたときに数週間以内に起こる急性の直接的な影響と、低線量を長期に浴びたときに起こる影響が考えられます。
急性障害は特に白血球や精子など、分裂中の細胞に放射線の影響が大きく現れます。福島の原発事故の最前線で働いている人達は高容量の放射線を浴びる危険性と背中合わせで、現在の危機的状況を収拾するために奮闘しておられるわけです。特に白血球は他の細胞に比べても放射線による障害を受けやすく、この場合健康な人からの骨髄移植により救命できる場合もあります。
しかしながら、200mSv(0.2シーベルト)以下では急性の放射線の影響はないとされています。一方、ガン治療の最前線では、ガン細胞を死滅させるために、局部的ではありますが、5から10シーベルトの放射線を照射して、ガン細胞を死滅に追いやろうとしています。

福島の原発事故に際し、多くの人に取って問題なのは、低容量の放射線の影響です。今までに報告されている範囲では200mSv以下では、直接的な身体への影響はないと考えられています。
ただ、これ以下の線量でも発ガンのリスクが上昇する可能性が心配されています。他にも影響があるかもしれないという不安もあります。そこで、ここでは、低線量放射線の影響について、現在の知識を整理し検証してみましょう。


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前のスライドで説明したように、一度に大量の放射線を浴びた場合と、低容量の放射線を長期にわたって浴びた場合では、身体への影響は異なります。
私達の身体は、放射線障害に対する修復機構をもっていますので、低容量の放射線を浴びた場合には、総計同じ放射線量でも急性障害とは結果が異なります。また一回の放射線照射でがんが出来るわけではありません。
私達の身体は、容易に遺伝子の傷ついた細胞をはびこらせないための、何十もの抑制機構を持っているのです。


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このスライドでは低線量放射線の生物への作用について検証していきましょう。特に、
一度曝びた放射線は致命的か? 一度曝びた放射線でどの程度がん化が起こるのか? がん化の他に影響は? 一度曝びた放射線による障害は克服できるか?
という観点から検証していきたいと考えます。


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生体が獲得してきた放射線の作用からの防護システムについて、段階的に調べていきましょう。

1)DNA鎖単鎖切断 → 修復システム
2)DNA二本鎖切断 → 修復システム
3)修復しきれない変異細胞 → アポートシス(apoptosis)
  静かなる細胞死にいたる:特徴は炎症がおこらない
4)変異した細胞が即がん化するわけではない!がん化には長いプロセスがある。炎症はがん化を促進する。
5)変異した細胞を除去する最後の砦:免疫システム

に分けて検証しましょう。


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今、地球上で生きている生命体は、放射線から身を守るシステムと獲得してきた生物であるということを紹介します。


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約40億年前、地球上に生命が誕生しました。地上には太陽の紫外線が照射し、宇宙線も強くて、最初の生命体は海の中で誕生しました。
その後、光合成によりエネルギーを作り出すことの出来る植物細菌が出現すると、徐々に地球上に酸素が増えていきました。
その後出現したのが酸素を取り入れ、より莫大なエネルギーを生み出す生物です。酸素というのは生体に取って、とても有用なものである反面、実はとても危険なものなのです。当然、生体は酸素の害を消去するシステムも併せて進化させました。


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放射線が遺伝子の本体であるDNAにあたり遺伝子を傷つけるというのが、がんの始まりとしてとても恐れられています。
実際は放射線が直接的に障害する場合もありますが、多くは体内の水分子に放射線が当たり、活性酸素が発生してそれにより、DNAが傷害するケースが大部分です。
一方、通常は傷つけられたDNAは、すぐさま酵素により損傷部位が取り除かれ、修復されます。


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放射線障害の70%は、活性酸素によると先に説明しましたね。
実は、活性酸素は、私達の身体では日夜生成され、消去されているのです。また、紫外線や大気汚染物質、たばこは生体内で活性酸素を作りだし、DNAや細胞成分に損傷を与えるのです。
そういった意味では、放射線の害もタバコの害も多くの色々な変異原の作用も、対比して比較できるのです。


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活性酸素というのは、実は悪役ばかりではないのです。私たちの身体はそれを活用することもあります。
例えば細菌を退治するのに、白血球は活性酸素を出して細菌を殺します。その一方生体自ら出す活性酸素は、色々な疾患の原因ともなるのです。でもこのことは、生物が細胞の中のミトコンドリアというところで酸素呼吸をするようになった宿命ともいうべきものなのです。なにしろ無酸素呼吸に比べて、一分子のブドウ糖から19倍ものエネルギーを取り出すことができるのですから。
従って、今生きている生物は、この活性酸素の害を消去するシステムも併せてもっていないと、生き残ってはおれないのです。


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放射線、活性酸素の害から身を守るために生体が築いてきた防御システムについて紹介します。


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放射線障害に防御機構についてはラッセル等によって明らかにされました。
このグラフは同じ量の放射線を一度に照射した場合と、1-14ヵ月に分けて照射した場合の突然変異率を調べたものです。延べ300万匹にも及ぶマウスを使った研究で明らかになりました。同じ線量でも分割照射すると突然変異率が低下するということは、修復機構があることを示していると考えられます。
これらの研究は、一ポイントのデータを得るのに何万匹ー何十万匹というマウスが使われました。というのは突然変異というのは全部におこるわけではありませんで、それを明らかに使用と思えば、多数のマウスを扱わないといけないのです。

現在、放射線照射による染色体異常は、受けた放射線の量に比例するという説をもとに、低線量放射線の影響が推察されていますが、これはマラーの法則に基づいています。
後になって明らかになったことですが、修復機構を持たないショウジョウバエを使ったがために、このような結果が得られたのです。

一方、ラッセルの実験結果からは、一度に大量の放射線を浴びた場合に比べて、同じ量でも分割して放射線を浴びた場合は、その影響が1/3位に低下する事を示しており、多くの研究者に受け入れられています。


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前のスライドでも述べたように、放射線が遺伝子の本体であるDNAにあたり直接的に障害する場合もありますが、多くは体内の水分子に放射線が当たり、活性酸素が発生してそれにより、DNAが傷害するケースが大部分です。
一方、通常は傷つけられたDNAは、すぐさま酵素により損傷部位が取り除かれ、修復されます。単鎖切断という対となるDNAの一本鎖が傷ついた場合には、ほぼ100%修復されます。このような修復は、なんと1細胞あたり、多い時には50万回も起こっているとされています。


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では、2本鎖が切断されたときは?特殊なDNA修復酵素で傷ついた部位を繋ぐ場合(非相同末端結合)とDNA複製が終わった特定の時期(S〜G2期)、即ち対となる2本の染色体が対合(隣り合って存在する)する時期に、対応するもう一方の染色体の遺伝子を鋳型として修復するケースです。
ヒトの染色体の例ですが、対となる染色体が性染色体を別として、一対で存在しますね。相同国換えによる修復の場合は精度高く修復されます。
このように、傷ついたDNAの大部分は日夜修復されているのです。


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それでも、修復しきれなかった遺伝子は残ることもあります。
細胞は分裂し倍加するその過程で、その異常を常にチェックしています。特に重要なのは、チェックポイントと呼ばれている部分です。チェックポイントを通過出来なかった変異細胞は、アポトーシスという、細胞死への道をたどるのです。そこで重要な役割を果たしているのがP53という遺伝子です。
この遺伝子はがん抑制遺伝子として見つかりました。

この遺伝子が失われると、変異した遺伝子のチェックが出来なくなり、がん化の第一歩が進みます。実際、がん細胞の多くではこの遺伝子が失われています。


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アポトーシスというのはしいて言えば細胞の自殺です。問題があれば、細胞自身が自殺してしまうメカニズムもまた、私達の身体には備わっているのです。
アポトーシスでは細胞の内容物が外部に放出されませんので、周辺には炎症が起こりません。一見理不尽にも見えるこのシステムも、生体が生き残っていくための、重要なシステムなのです。


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これはマウスの実験ですが、X線の照射時期により胎児への影響は異なってきます。受精後早期の放射線の影響は、誕生日前死亡即ち流産という結果となり、妊娠後期のX線照射は奇形に繋がります。

低線量放射線を被曝した妊婦の方の心配は想像しがたい物がありますが、生体のメカニズムとして、ほんの限定された器官形成期をのぞき、胎児への影響は、ほとんどありません。
一方妊娠早期の放射線は、流産という形となる場合もあります。ただこの場合、胎児の方に何らかの異常がある場合は、自然流産という結果となります。
実際、自然流産児の染色体を調べた結果ではその50%以上に、突然変異が認められたという報告もあります。これは変異細胞を残さないための、生物のシステムとも言えるのです。


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これは、p53遺伝子を失ったマウスと正常マウスに、早期と器官形成期にX線を照射したときの影響の図です。
P53遺伝子がないとアポトーシスが働かず、結果として異常のある細胞が除去されず、奇形をもったマウスが高頻度で産まれます。このように、異常細胞を除去する手段として、アポートーシスというメカニズムもまた、重要な働きをしています。


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さらにがん化の過程について紹介しましょう。
変異した細胞が即がん化するわけではありません。がん化には長いプロセスがあり、炎症はがん化を促進するということについてお話しましょう。


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これは日本のがん統計です。日本においてはがんによる死亡は約3割を占めています。また、実際ヒトは80歳以上にもなると、がんを持っているケースも多くなります。


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これはがんの要因別リスクです。
実際のがんの要因としては圧倒的にタバコや食事に起因するものが大きく、放射線は紫外線を含めても2%程度です。もちろん実際のがんはこれらの原因が複合的に関連しているでしょう。

がんリスクを語る時、実際は放射線の影響より、タバコや身近な食べ物の影響の方がずっと大きいということを理解して下さい。皆さんは、かんにならないために、緑黄色野菜を食べると良いとか、タバコは止めましょうとかいいますね。


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低容量放射線の影響として、一番心配されるのは発がんのリスクの上昇です。
ただ、この場合、同様の放射線を浴びた全員に、同じようにがんが生じるのではありません。実際は多くの要因がからまって、がんになるので、ここではがんの要因となるようなものを、がん貧乏くじとして表現しました。

くじはたくさん買えばあたる確率があがりますが、1枚でもあたることもありますよね。特に、免疫機能を低下するような要因、過度のストレス、恐怖、絶望もまた、がん貧乏くじの札となることを理解ください。


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がんは1日でできて、短期間で命を脅かすほと大きくなるのではありません。多くのがんは20年以上前にその芽が出来ていたことになります。
何故そんなにかかるのか、それはがんといえどもそう簡単に増えられない監視システムを私達はもっているからです。このがんの成長を少し抑えるだけで、私達ががんで死ぬことなく一生を送ることも出来るでしょう。

これが、晩発効果は克服できる、放射線をあびてからの生き方が問われると、言われる所以です。


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これはがん化のプロセスとそれを抑制する様々なメカニズムを図示しました。

放射線、たばこなどにより発生した活性酸素を除去するシステム、DNA修復システム、変異細胞をアポトーシスに導くシステム、また、がん化には二重三重にがん遺伝子の変異が起こる必要があります。
さらに、がんは免疫監視機構でも排除されます。また炎症はがん化に促進的に働きます。

このようながん化を抑制するシステムの強化こそ、大事ですよね。


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福島原発からは保安院の発表によると、3月11日から4月12日までに大気中に放出された放射性のヨウ素131とセシウム137の総量を、原子炉の状態から推計したところ、ヨウ素の量に換算して37万テラ・ベクレルに達したと発表しています。内閣府原子力安全委員会も12日、周辺で測定された放射線量をもとに推計したヨウ素とセシウムの大気への放出総量は、3月11日から4月5日までで63万テラ・ベクレル(ヨウ素換算)になると発表しています。
この量は、チェルノブイリ事故に比べて1割前後であると言われています。チェルノブイリでは事故後、広島・長崎のような白血病の増加は、認められなかったとのことですが、子供の甲状腺がんの比率が上昇したことが報告されています。
原発事故で大気中に散布されたヨウ素は、雨に溶けて地中にしみ込みます。これを牧草地の草が吸い取り、牛がそれを食べるという食物連鎖で、放射性ヨウ素が濃縮されていったのです。

そこで、今回も、幼児に対する甲状腺がんのリスクが懸念されているわけです。日本における食品に含まれる放射性ヨウ素の暫定規制値は、甲状腺等価線量で50mSv(ミリシーベルト)を超えないように決められています。


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何故甲状腺がんが危険な尾でしょうか。
放射性ヨウ素を取り込んだ、ヨウ素がたくさん出来ると甲状腺は内部被ばく状態になります。その結果、甲状腺の細胞が障害を受け、甲状腺の機能低下や甲状腺がん、につながるというわけです。
子供の方が、代謝も活発で甲状腺ホルモンをより多く作っていますので、その影響は強くでてきます。


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ヨウ素の必要摂取量は1日150μgとされています。
大陸地帯では以前からヨウ素欠乏症が問題になっていました。実際、アメリカや中国ではわざわざ食塩にヨウ素を添加しています。その結果、ヨウ素欠乏症を減らすことができたと言われています。

ところが日本では、海産物を取っている関係で、十分にヨウ素は足りている状態にあります。諸外国からみるとむしろ取りすぎだとみられています。
チェルノブイリ周辺の人達は、もともとヨウ素欠乏症の状態であったことが知られています。そして放射性ヨウ素に汚染された牛乳を事故後も、子供達は飲みました。その結果、甲状腺に放射性ヨウ素が取り込まれ、それが子供達の甲状腺に障害を与えたのです。

日本では事故後早くに汚染が懸念された牛乳は出荷停止になりました。従って現時点で、チェルノブイリの二の舞を心配する必要はないと思われます。今まで同様に、昆布だしの入ったわかめの味噌汁や酢の物を食べる程度で、十分量のヨウ素を摂取できるでしょう。


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さて、この間多くの方が、低線量放射線の影響について語ってこられました。そして、がん化や突然変異の原因となると。
しかしながら、多くのかたは生物本来の持つ修復機構についてはあまり言及されていません。何故でしょうか。

研究の歴史を調べてみると、このようにがん化のプロセスやDNA障害や修復の機構についての研究は、実は比較的新しい研究です。特に、放射線によるDNA障害の修復機構については多くの場合あまりご存じなく、言及されているように私は思っています。
そういった意味では、皆さん勉強不足なのです。実際これらの研究は、ここ10年に大きく進展しました。


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放射線の影響としてがん以外に、加齢炎症の報告があります。
スウェーデンのNOVA研究では、CD8,CD4比に加えて、2年以内に亡くなったヒトのIL-6やCRPが高かったことが明らかにされています。つまり老化し、死期が近くなると血中のIL-6,CRPは高くなるという報告です。


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免疫機能とヘルシーエイジングという観点からの研究は、ナイーブTの低下が免疫機能の低下、加齢炎症が疾病や死に至る免疫リスクとされています。


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広島・長崎の被爆者についての研究でも、IL-6,CRPは加齢と共にもちろん上昇することが明らかにされていますが、また被曝した放射線量と相関性が認められることも、ごく最近報告されました。
また図の上で、心筋梗塞履歴のあるヒトについて "●" であらわしています。このように、がんだけでなく、放射線は加齢炎症についてもわずかながら促進的に影響する可能性が報告されています。


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このように、放射線はその後の環境要因や感染履歴と相まって、T細胞の恒常性の変化や慢性炎症に影響を与え、老化を促進する可能性もまた、最近の研究では示唆されています。


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近年、活性酸素が色々な疾患に関連することが明かとなっています。放射線の影響も、活性酸素の影響と見なすことが出来るなら、当然、活性酸素による、これらの疾患発症抑制のノウハウを役立てることができますよね。


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一方、抗加齢医学は、活性酸素による害を消去する食品を明らかにしています。
カロテノイドやポリフェノールはその代表的なものです。またビタミンのC,Eも強い抗酸化作用を持っています。これらはがんの抑制にも重要な役割を果たします。

実際、米国では1990年よりデザイナー・フード計画を実施し、機能性野菜や果物胚芽成分の摂取を進める一方、動物性脂肪・蛋白質、塩分制限を推奨しました。その結果、1993年頃から米国ではがん患者、およびその死亡率が低下傾向にあります。

このように、食生活の変化は、がんや老化という晩発効果を阻止するにも有効であることが明らかにされています。この経験は、放射線障害を消去する食生活として、ぜひ参考にしていただきたい物です。


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では、福島原発事故の近くにおられる方々に、一番必要な施策は何でしょうか。被災者に寄り添った医療ではないかと私は思います。
実際、福島では、3月11日以降どのような行動をとったか、診察所見、検査所見を記録し、保存する体制を整えたとのことです。


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現在の福島の多くの地域の放射線量は、あまり健康には影響のない量ではないのではと推察されます。
しかしながら、前述のようにがん化や老化と関連する疾患のリスクは、比較的少ないであろうと推察されるものの、更に何か影響が出てくるかもしれません。今必要なことは被災者によりそって、健診していく体制ではないかと思います。

従って、3月11日以降、どこで何をしていたか、その時の様子はどうであったか、体調できになることがなかったかなど、記録することはとても重要なことです。


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変異した細胞を除去する最後の砦は免疫システムです。免疫力が低下するとがんリスクが上昇するのでしょうか。答えはyesです。


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私達の身体を守るシステム免疫機構を概説しましょう。
大きく分けて、日常的に免疫監視を行っている非特異的免疫機構と、数日から数週間たって作動する特異的免疫機構があります。


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非特異的免疫機構のなかで、ナチュラルキラー細胞というのは、日夜出現するガン細胞(変異細胞)を除去するのに働いています。
右のグラフからわかるように、NK活性の低い人は、11年の間にがんになった方が、活性が高かった人に比べて高率であったことが報告されています。
左と下の写真は、ヒトのNK細胞ががん細胞を攻撃している写真です。


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ナチュラルキラー細胞というのは、ストレスにとても弱く、恐怖や絶望はこの活性を低下させます。
一方、笑いや生き甲斐をもつということ、心理的サポートはプラスに働くことが明らかにされています。また食事やある種の乳酸菌の摂取も、NK細胞を始めとした免疫細胞の活性化にプラスとなることも明かにされています。


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これはルイ・パストゥール医学研究センターにおける、これまでのインターフェロン産生能、ウイルス感染抵抗性試験の各種疾患における結果をまとめたものです。
健常人でも幅は広いですが2000以下の方はほとんどありません。ところが糖尿病、癌、結核、C型肝炎、HIV感染者には高い割合で認められますね。骨髄異形成症候群の患者さんは、特に低いですね。骨髄異形成症候群の方は数年以内に白血病になる可能性が高いのですが、何よりも感染症に弱い方なのです。

インターフェロンを作る能力は、ウイルス感染抵抗性のよい指標となります。


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これはC型肝炎の方々のインターフェロン産生能の経時的変化ですが、多くのかたが低下傾向を示しておられます。また低下してきて発がんが認められています。
つまりC型肝炎のかたは、徐々にインターフェロン産生能が低下して、肝癌になると言う経過が高頻度で観察されるのです。


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これはC型肝炎で肝がんになったかたとなっていない方でインターフェロン産生能の経時的結果の中央値を比較したものです。明らかに肝癌発症群では低値であることが示されています。
このように、インターフェロンを作る能力といった、非特異的免疫機構の一翼の低下もまた、がんの発生の抑制力の低下と関係しているのです。


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これは宇野のインターフェロン産生能の個人史です。
40代の始めまでは鉄欠乏性の貧血でやや低く、その後貧血の改善で上昇しましたが50代前半はあまり高くありません。更年期だったかもしれません。その後比較的高値で推移しています。ところどころ低下していますが、この時は風邪をひいたり尿道炎にかかったりしたときです。個人的には体調が気になるとき測定しています。
しかしながら、なんと言っても一番低いのは、京大の動物学教室でネズミの世話をしていて、蛇に出くわした直後です。

その日は一日どきどきしていたのを、今でも思い出します。このように、恐怖というのは免疫機能を極端に低下させます。地震・津波・放射線、免疫機能に影響しないわけはありませんよね。そのストレスが長期に及ぶならなおさらです。


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放射線の影響は多少過剰気味に言ってよい、その方が正義だと考えているヒトがおられるようです。
しかしながら、私はエイズパニックを経験しました。その際に、京大のウイルス学の大先生は、 「そりゃ、一匹でも見つかれば、キスでも理論的にはエイズに感染する可能性はありますよ」と答えました。これは研究者としては一見厳密な答えのようですが、現場では混乱を巻き起こしました。
実際蚊の吸った血の中にウイルスが見つかったとなれば、感染者と同席するのはどうもという意見が出て、患者を孤立させました。また、学校現場では子供のことだから、けがもするし、けんかもするし鼻血も出す。感染しているリスクの高い血友病のヒトは、陰性証明をだしてもらわないと学校へ来てもらっては困る、と一部の学校では言いました。他の子供を守ると言うため、一部の教師はそれが正義だと考えたのです。その結果登校出来ないヒトが出てきました。

患者さんとの接点のある医者や研究者はこれではだめだと気づき、感染が成立するにはバケツ何杯分ものだ液が必要だし、一回に何十万匹もの蚊にさされることが必要ですよといいなおしました。そして危険度に応じて、これは非常に危険とか、まずもってありえないとか、それは絶対ないとか、言葉を選んでしゃべるようになりました。
私も、この頃、エイズ教育の場で、ヒトの免疫のバリアーについてお話し、手に一滴ぐらい感染者の血がついた位では感染しないと、生体防御機構について話をしてまわりました。
この経験を通じて、私は、リスクを過小に言うのも、過大にいうのも無責任であると考えるようになりました。

現在、東京あたりでも放射線がこわいからと、子供を外に出さない、給食の野菜は食べるなと言う親がおられると聞いています。
過剰な心配は、免疫力を低下させ、かえってがんのリスクを上げます。また、運動不足や抗酸化作用の強い野菜不足もまた、がんのリスクをあげるのです。
過剰な心配は、本末転倒だと私は思います。


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福島の原発事故の影響は、数ヶ月から数年のスケールで様々な影響が及ぶと考えられます。時々刻々問題点は変わっていくでしょう。私達が今まで経験をしたことの無い問題も含まれていると考えられます。
正確な情報に基づき、対応を考えていきましょう!無用な心配をして、免疫力を低下させたり、偏った食事の方が危険なこともあります。希望をもって、この困難を克服していきましょう。


このスライドを利用される方へ


東日本大震災、そして福島原発事故を目の当たりにして、幸い関西にいてこれらの影響をほとんど受けなかった私たちが「今何をすべきで、私たちに何ができるか」を議論した結果、研究者や科学教育に関心の高いNPO法人あいんしゅたいんの会員を中心に「情報発信グループ」を立ち上げました。

「日本大震災 ー 放射能の影響」シリーズは、同グループが発信する情報の1つです。急きょ作成したものですので、今後も皆様のご意見を取り入れつつ、よりよいものへと更新していく予定です。

従って、人にこの資料を紹介するときは、ダウンロードした資料を送るのでなく、リンク先を紹介するようにしてください。1週間もたてば、状況は変わります。私達も出来るだけ新しいデータをもとに適切な資料を作りたいと考えています。
http://jein.jp/ をチェックの上、最新版を使ってください。また、このファイルの一部を取り出して使用しないでください。本来の意図と違った形で、使われるのを懸念しています。


あいんしゅたいん情報発信グループ【担当責任者:宇野賀津子(常務理事)・坂東昌子(理事長)】