2017年06月24日

第86回:「演示実験にはどのような効果があるのか」by 安田

授業中にポケットから小道具を取り出して、楽しそうに実験を見せる教員と、目を輝かせながら実験を見る児童・生徒・学生たち。こうした活き活きとした状況を、児童・生徒・学生として、もしくは教員として体験をしたことのある方は、(この記事を読んでいる方の中には)多いのではないでしょうか。

教室・講義室で教員が行う演示実験の方法は、300年以上の歴史を持つ伝統的な教授法であり[1]、小中高大の各教育段階で導入されています。演示実験では、現象を明快に示すために単純な実験器具を用いることが望まれますが[2]、説明の詳細・難易度を調整することで、初等教育から大学教育まで幅広く同じ実験器具を扱うことができます。そのため、特に明快で単純な演示実験は、小中高大に共通の財産になることもあります。

演示実験の長い伝統と広い普及の一方で、その効果について十分な知見が蓄積しているとは言えないでしょう。「演示実験は本当に効果があるのか」という問いに対して、説得力のある説明を行うには、演示実験の機能[3]に対応した具体的な効果を明らかにした上で、実証的な研究に基づいた知見が必要です。ネガティブな例ですが、「演示実験を一度見ただけでは、何も習得することができない」ということは、これまでに多くの物理教育研究者らの研究によって結論づけられています[4]。もちろんすでに、一度見せるだけに止まらない演示実験の方法として、「仮説実験授業[5]」や「Interactive Lecture Demonstration(ILD)[6]」などの方法が、開発されてきています。そして、系統化された演示実験の順序の検討、およびその効果を検証するための研究も始まっています[7]

演示実験の好例や知見が蓄積すれば、それらを検索できるデータベースがあると、便利です。このような試みは、これまでに国内でもありましたが、まだ発展する余地は十分に残されています[8]。その第一歩として、演示実験の「達人」がつながるネットワークの構築が求められるのではないでしょうか。

[1] C.Taylor, The Art and Science of Lecture Demonstration, Taylor & Francis, New York, 1988, p.11-12.
[2] R.Ehrlich, Why Toast Lands Jelly-Side Down, Princeton University Press, New Jersey, 1997, p.8.
[3] 物理学講義実験研究会のサイトを参照
具体的な演示実験の機能として、「学生の興味関心を惹く」「得られた知識や体験を学生の記憶にとどめる」など。
[4] D.M.Majerich, J.S.Schmuckler and K.Fadigan, Compendium of Science Demonstration-Related Research from 1928 to 2008, Xlibris Corporation, United States, 2008, p.13. “Namely, students will fail to learn from an event when exposed to it only once.”ただし、興味付けの効果については、言及されていない
[5] 例えば、板倉聖宣・上廻昭・庄司和晃「仮説実験授業の誕生」仮説社、1989年。
[6] D.R.Sokoloff and Ronald K. Thornton, Interactive Lecture Demonstrations, Active Learning in Introductory Physics, John Wiley & Sons, United States, 2004.
[7] 物理学講義実験研究会、準備中。
[8] 米国ではPhysics Instructional Resource Association (PIRA)が、9000点を超える演示実験をデータベース化し、公開している。また、60機関以上の米国の大学には、演示実験の知見を共有するための独自サイトがある。
 Physics Instructional Resource Association(PIRA)のサイト
PIRAのサイトの中でも、次の2つのページは特に利便性が高い。
 PIRAで集積された講義実験をまとめた「PIRA Demo Bibliography
 米国の各大学にある演示実験サイトのリンク集「Global Web Spider