2017年10月19日

第72回:「猫と語る -その6 雪の夜に」by 青山

昨夜もいつものように,猫のドロンコが私のベッドの上に「コトン」と乗ってきて,枕元でゴロゴロ言い出した.

ドロンコ(以下,「ド」)「あっきー,あっきー」

私はサイエンスニュースで私は作詞家名を「アッキー青山」として以来,彼女は私のことを「あっきー」と呼ぶ.

私「う~~~ん,眠たい.ドロちゃん,まだ夜明け前だよ.」
ド「あっきー,最近,『あいんしゅたいん』のブログがすっかり止まってるじゃない.
あっきーが管理者なんだから,しっかりしなくちゃ.ぐっすり寝てる場合じゃないよ.」
私「そうだね.今抱えている仕事だけで,博士論文の審査,新大学院カリキュラム検討,
ハンドブックの記事6ページx2点,新聞の連載100字x6本,『経済物理学2011』研究会提案プレゼン準備,それにブログの執筆... 他にもいくつか忘れているような...ああ,何か絶望的になってきた.」
ド「ほら,寝てる場合じゃないでしょ.じゃあ,私がまたブログ書くの手伝ってあげるから.」
私「ありがと~.で,今度は何を書けばいい?」

そうそう,ドロンコとの会話はいつでもブログに繋がる.

ド「この前(第63回http://jein.jp/blog-einstein/456-blog-63.html)は,『三つの嬉しいこと』を聞いたよね.今度はその反対で『悲しいこと』を聞こうか?」
私「それじゃ,読者さんは離れて行ってしまうよ.建設的で良い話を引き出して!」
ド「それもそうだね,...あ,思い出した,あっきーのラジオ放送の話でもしたら?たしかウェブにも載ってたでしょ.」
私「ああ,昨年(2010年)の10月31日の放送ね.このサイト(http://radio.sci.kyoto-u.ac.jp/)に一部分掲載されているよ.でも,あ~~~,聞きなおすと顔が赤くなる(汗).」
ド「あはは,じゃ,聞かなきゃいいのに.それに24時-25時の放送なんだから,視聴者は約17人位とかじゃないの?(笑)」
私「それはひどい!せっかく頑張って話したのに~.日本の若者全員に聞いてほしいものだよ.」
ド「なんだ,聞いてほしいんじゃない.収録秘話とか無いの?」
私「別に大した話はないよ.収録は10月1日だったかな?1時間番組を1時間半くらいで
採ったよ.無駄な部分とかを削っただけで,あれがほとんど話した全部かな.でも,初めてのラジオ局で,面白い体験だったよ.あの『吉田君』の正体はね...いや,ばらしたらいけない.ただものじゃないことは確かだ.それと声が良いと褒めてくれた.オープニングでしゃべっている佐藤弘樹DJにも勝る美声...」」
ド「ふ~~~ん,じゃ次!」

自慢話になりそうだったせいか,さっさとスルーされてしまった(笑).

私「そうそう,前に紹介した我々の本 "Econophysics and Companies: Statistical Life and Death in Complex Business Networks" (Cambridge University Press) の評判が少し聞こえてきた.我々の共同研究者の一人がドイツの研究所を訪れた際に,向うの研究者がいくつも付箋をつけたあの本を持ってきて『この本は数学的な所もしっかり書けていて良い』と言っていたそうだ.残念ながらどの部分を指してそう言ってくれたかは聞きそびれたけど,少なくとも私の書いた部分は,相当しっかり,注意深く論理的に書き込んだつもりだし,他の部分についても著者皆で徹底的に議論して,練った内容だから,それがよかったのかも知れない.」
ド「それは大事だね.とかく社会や経済についての本は社会の興味を引くように,いい加減に書きたてるものもあるって聞くからね.」
私「(この猫,どこでそんなことを聞いてくるのだろう?)」
ド「で,次の本はどうするの?」
私「うん,もう一冊,英語で出すよ.その内容の組み立てと分担はもう決めてあって,この4月から本格的に執筆だ.」
ド「よっしゃ,イケー!次!」

やけに忙しい猫だ.ちょっと,こちらから揺さぶりをかけてみよう.

私「ねぇ,ねぇ,ドロちゃん.君のことも少し聞かせてよ.」
ド「ニャーに?」
私「猫のジローが1年前に亡くなったでしょ.10年以上も一緒に暮らしてきたのに,ドロちゃんは寂しそうにしていないけど,どうして?」
ド「うぅ,何で突然にその話題...」
私「ホントに分からないんだ,ジローが居なくなって,僕は寂しくてしょうがないし,彼が腎臓を患ってから半年もずっと点滴に通ったりして,その間のことを思い出すと,彼が可哀そうで可哀そうで,今でも時々,ふと涙が出る.ドロちゃんは全然気にならないの?」
ド「(あっきー,ペットロス症候群だわ.私が何とかしてあげなくちゃ!)」
私「ジローの物は,彼がよく好んで入っていた籠とか,彼のケープとか,写真とか,色々あったけど,全部捨てちゃった.それで僕の痛みは軽くなると思ってたけど,この前,ケータイに一枚だけ,彼の写真が残っているのを見つけたよ.ほら,ここに....」
ド「どれどれ,ホント,アニーちゃんの茶色とジローちゃんの白黒の色の対比が面白い写真だわ.なつかしいなぁ~(微笑).大学で野良猫だった私をあっきーがこの家に引き取ってくれて,初めてジローに会ったときを思いだすわ.初めての人間との共同生活,右も左も分からない私を世話してくれたっけ...」
私「(...涙...)」
ド「あっきー,悲しんでもしょうがないじゃない.ジローの体を作っていた分子原子は地球上に散らばって今の世界の一部になっているし,彼の脳神経回路の設計図は永遠に失われたわ.確かに彼の療養生活は大変だったし,かわいそうだった.でも,彼は健康なときには私たちとたくさん遊んで,快適で幸せな暮しをしたし,病気になってもあっきーがきちんと世話をしたんだから,何も後悔することはないし,今,何も悩み思う必要もないのよ.」
私「それはそうだけど... いつもの家政婦さんがこの前『ジローちゃんの夢を見ました.あっきーさんは科学者だからこんなこと信じないでしょうけど,ジローちゃんは嬉しそうにじっとこちらを見ていて....』なんて話すもんだから,うるうる来てしまったよ.」
ド「わかった,わかった.そのジローを想う気持ちを背景にして,今ここに居る私達を大事にして,一緒に楽しく暮らして!」
私「うん,うん.その通りだ.その通り.」

せっかく攻勢に出たつもりが,かえってドロンコに説教されるはめになってしまった.

ド「もう夜明けだわ.あっきー,頑張っていっぱい良い仕事しなくちゃ.さあさあ起きて.」
私「おっけ~~,でも眠たい.むにゃむにゃ.」

ふと気付くと窓の外は薄明るくなってきている.昨夜も雪が降ったのだろうか,この時間にしてはやけに明るい.「猫達は?」と思って寝室を見渡すと,ドロンコ,アニー,マリオンの三匹はそれぞれにヒーターの入った猫つぐらに収まって静かに寝ている.

やれやれ,私は夢を見ていたのだろうか?
それともドロンコは本当に....