2017年08月23日

第71回:「"のだめカンタービレ"から見る指揮者像」by 松田

私はつい最近まで「のだめカンタービレ」なるものを知らなかった。私は夜になるといつもYouTubeを見ているのだが、特に音楽番組が好きである。そこでどういうきっかけか忘れてしまったのだが「のだめカンタービレ」という映画に行き着いた。これはもともと二ノ宮知子による漫画であり、後にテレビドラマ、テレビアニメになった。クラシック音楽をテーマとした話である。

ピアノ科に在籍しながら指揮者を目指すエリート音大生千秋真一は、同じ音大のピアノ科に属する「のだめ」こと野田恵と知り合う。そしてお互いに成長していくという青春物語である。ちなみに野田恵さんとは実在の人物である。この漫画、アニメ、映画は、若者にクラシック音楽の楽しさ、すばらしさを知らせたという大きな功績を残したとされる。

映画「のだめカンタービレ」では、上野樹里・玉木 宏という若い俳優がのだめ、千秋の役を演じている。私は彼らのことをこれで初めて知った。上野樹里はとてもかわいく、玉木宏はとてもかっこよい。この映画の中で千秋は

「ブラームス・交響曲第一番」
「ベートーベン・交響曲第7番」
「チャイコフスキー・バイオリン協奏曲」

を指揮し、

「ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第2番」

を弾いている。私はこのところ、これらの曲を何度も聞いた。聞き所だけを短時間にまとめたもので聞きやすい。

演奏はプロの音楽家が行っているのだが、玉木の指揮姿は堂に入っている。玉木によるとブラームス交響曲第一番に関しては、PCで千回は聞いたという。また腕が腫れるほど指揮の練習をしたという。映画では千秋の指揮する曲を聴いている「のだめ」が、感動のあまり涙するが、それも演技ではないという。リハーサル以外は曲を聴かずに、本番に望んで感動のあまり泣くのだという。

カルロス・クライバー

ベートーベンの交響曲第3番「英雄」を聞こうと思った。いろいろ探しているうちに、クライバーのものに出くわした。こちらは実在の天才的指揮者である。1930年ベルリン生まれのドイツの指揮者で2004年にスロベニアでなくなった。父も世界的指揮者エーリヒ・クライバーであったが、ナチスと衝突してアルゼンチンに移住した。カルロスはスイスのチューリヒ工科大学を出たが、やはり指揮者になった。

クライバーは指揮やレコーディングの回数が極端に少ない。カラヤンの死後、ベルリンフィルの常任指揮者にとメンバーたちにより推薦されたが、クライバーは興味を示さなかったとされる。ウイーンフィルとのレコーディングの時に、曲のある部分を「テレーズ、テレーズ」というリズムで弾くことを要求したのに、オーケストラは「マリー、マリー」としか弾けなかったので、指揮棒を折って帰ってしまったという。かなり変人であったようだ。

リハーサルは入念を極めていて、通常の倍の時間をとるという。ところがいざ指揮棒を振ると、その姿は踊りのようであり、それ自身が芸術である。オペラを振ったときは、カメラは歌手ではなくクライバーを撮していたという。その流麗な指揮姿は、次のビデオで見ることができる。

ベートーベン・交響曲第7番第4楽章 コンセルトヘボウ管弦楽団

パーヴォ・ヤルヴィ

またベートーベンの交響曲第3番「英雄」を探しているうちに出くわしたのが、この指揮者だ。ドイツ・カンマーフィルとの共演というのだが、正直言って、私はどちらも知らなかった。この人も父親は有名な指揮者ネーメ・ヤルヴィという人だという。この世界にも二世議員に似た二世指揮者というのがいるのだなあと思う。彼はシンシナティ交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、カンマーフィルの音楽監督を務め、パリ管弦楽団の音楽監督にもなるという。世界でもっとも忙しい指揮者だという。知らなかったなあ。

そういった雑知識は後で仕入れたもので、私は純粋に彼の「英雄」を聞いて感動した。2006年に横浜のみなとみらいホールで演奏したもので、録音もよい。第1楽章を聞いてみる。テンポは速い。カラヤンより速いのではないか。しかし最初から最後まで緊迫感に包まれた名演であった。演奏の途中で観客の咳が入っていたが、YouTubeの書き込みでは、殺してやりたいと、物騒なことが書かれていた。それほどすばらしい演奏であったと書き込みをした人物は認めているのである。

ベートーベン交響曲第3番「英雄」第1楽章

グスターボ・ドゥダメル

やはり「英雄」を探していて、グスターボ・ドゥダメル指揮、ベネズエラ・シモン・ボリバル・ユース・オーケストラというのに出くわした。調査したところではドゥダメルは現在29歳の新進指揮者で、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラとはベネズエラの高校生を主体としたオーケストラだそうだ。こちらはヤルヴィ、カンマーフィル以上に知らない。元政治家で経済学者のホセ・アントニオ・アブレウの提唱でエル・システマという組織が、ストリートチルドレン、麻薬密売、強盗などを経験した子供も含むものたちを更正させたり、放課後に音楽活動をして犯罪から守ったりという目的で、ベネズエラに200もの青少年オーケストラを作った。その中から選抜されたのが、このオーケストラであるという。

ところが聞いてびっくり玉手箱である。その完成度の高さには圧倒される。ドゥダメルは天才だと思う。オーケストラもプロに引けを取らない。クラウディオ・アバドやサイモン・ラトルも客演している。そしてベートーベンの5番、7番、マーラーの5番をドイツ・クセラモフォンでレコーディングしているという。

ベートーベン交響曲第3番「英雄」第3楽章
残念ながらYouTubeには第3楽章しかアップされていない。

ドゥダメルをウイキで調べると2004年にグスタフ・マーラー国際指揮者コンクールに優勝し、2009年にはタイム誌のThe 2009 TIME 100に選出されているという。結構有名なのである。

映画「ウエストサイド物語」からバーンスタイン作曲の「マンボ」

実に楽しそうではないか。これが本来の音楽が持つ力であろう。やはりラテンアメリカだなあ。それにしてもこれだけ大編成のオーケストラをまとめ上げる力とカリスマをドゥダメルは持っているということだ。