2017年07月24日

第63回:「科学におけるプロとアマ」by 保田

先日、ある新聞記事に目がとまりました。「科学のプロアマ『玄人はだし 呼びこむ工夫を』(尾関章、朝日新聞7月15日)」と言う論説です。英誌ネイチャーに掲載された超新星に関する論文の著者の一人に、山形市の豆菓子メーカーの社長である板垣公一さんが名を連ねたと言うニュースを紹介し、基礎科学における「アマチュア」の活躍の重要性と期待を述べる内容でした。

この記事を見て、ある体験を思い出しました。
2006年の初め、当時・西はりま天文台の研究員だった森淳さんの協力で、彗星と生命の起源とのつながりをテーマにした科学映像を制作していた時のことです。同じ時期に、たまたま森さんがホストを務める第36回彗星会議が西はりま天文台で開催されると聞き、取材をかねて特別に出席させてもらいました。
彗星会議 は、文字通り彗星について議論する集まりで、1971年から年に一回開催されてきた歴史ある会議です。

初めて参加した僕がまず驚いたのは、参加者の肩書きでした。おそらく百名近くいた参加者のうち、大学や研究機関からの「プロ研究者」よりも、いわゆる「アマチュア天文家」の方が圧倒的に多かったのです。さらに驚いたのが討論の様子。アマチュアとプロが対等どころか、時にアマチュアの方がプロよりも偉そうに語っているのです。ワーキンググループの討論では、アマチュア天文家がプロの研究者にむかって、「その方法ではだめですよ。」とか、「僕はこうしますね。」等、「専門家」として対等以上の立場で意見を述べています。プロの研究者側は、「アマチュア」からの意見を大いに尊重し、参考にしていることが伺えました。会議全体は大変熱気があり、発言は積極的・オープンで、何よりも皆が楽しそうに議論している様子が印象的でした。

彗星観測は歴史的にアマチュアが活躍してきた分野です。今でこそ彗星発見も大きな天文台が関わることが多くなったようですが、地道な観測が重要であることは変わりありません。今も「アマチュア」が多く活躍しています。発見だけではなく、彗星の軌道計算でも世界的権威のアマチュアの方がいます。自分のホームページで軌道計算結果を公開し、そのデータは国内外の研究者が参考にしているそうです。

彗星会議の光景は、それまで漠然と「科学者・研究者=プロ」だと思っていた僕にとって、とても衝撃的でした。

以前、佐藤文隆さんが「科学者が職業となったのはせいぜいここ100年くらい。」と言われていました。確かに昔の科学者の経歴を調べると、牧師だったり行政官だったり、本来の職業は別にあって、科学はあくまでも「趣味」としてやっている人が多い。つまり、昔は科学者は「アマチュア」だったのですね。


近年、科学が職業となったことにはもちろんメリットはあると思いますが、本来自由であるべき科学に不要なしがらみができてしまった、と言うことはないのでしょうか。科学的活動に対して報酬(=税金)をもらうようになったプロの科学者は、従来の枠組みを壊す新しい発見や、政策とはあわない技術、とても地道な、いつ役に立つかわからない観察記録など、「本家・本筋」とは異なることがやりにくくなり、創造的な活動が生まれにくくなっていると言うことはないのでしょうか。

プロ科学者が、もし日々の「仕事」に疲れ、科学への探究心が薄れているのなら、アマチュアだった時のわくわくするような気持ちを思い出して欲しいと思います。

板垣さんや彗星会議など科学の裾野の活動が広がり、「アマチュア」科学者が「プロ」科学者に良い刺激を与え、それが何かまた新しいステップへつながることを期待します。あいんしゅたいん参与の手塚さんが、「誰でも少しずつ研究者」と絶妙な表現をされているように。

それは、研究と科学普及を両立するべく日々努力されていた、森淳さんの願いでもあったと思います。