2024年03月28日

第22回:「『科学としての科学教育研究会』を終えて」by 青山

本NPO法人が大きく関わってきたこの研究会が終わりました.
世話人代表の坂東昌子理事長をはじめ,保田さん,前さん,山田さん達が一生懸命働いて,充実した研究会になりました.

最後の日の夜,「あ~~~色々なことを学んだなぁ~」と疲れきってベッドに入った私はすぐに寝入ってしまいました.しかし真夜中になって,居候猫のドロンコ(♀,推定12歳)が「ことんっ」とベッドの枕元に乗ってきたのに気付き,目が覚めました.

私 「おお,ドロちゃんか.寂しくなったの?撫でてあげようか.」
ドロ 「ううん,アッキーがうなされてるから,観察に来たの.」
私 「あはは,そうか.いや,この三日間色々な話を聞いて,頭がパンクしそうだったから,それで夢でも見ていたのかも知れない.」
ドロ 「どんな話があったの?」
私 「いや,猫には分かるまい.人間界は複雑だよ.」
ドロ 「そんな!私だって,こちらにお世話になる前は大学で野良猫暮しをしていたし,結構,色々なことを知っているわよ.」
私 「あはは,そうだね.何から話してよいか....沢山,有益で感心した講演があったし,疑問に思う講演もあった.全部がごっちゃになってぐるぐると頭の中を回っている感じだ.」
ドロ 「それは困ったね.じゃあ,アッキーは何か話したの?」
私 「いや,総合討論で少し発言した位だよ.」
ドロ 「じゃあ,それだけでもまとめておいたら?」
私 「そうだね.たとえば,ある発言で,『大学の研究者は研究に専念するばかりで,教育の現場から遊離している』というのがあった.」
ドロ 「ホントにそんなこと言う人がいるの?シンジラレナ~イ!」
私 「いや,僕の曲解かもしれない.とにかくそんな風に聞こえてそれには反論したよ.僕は一回生向けの講義をしている.この10月にも「力学続論」が200名近くのクラスを二つ持って,汗をかきながら,いつも悩み,工夫をしつつ,講義をしていく.工夫を重ねた教科書も書いた.そういう教育現場を足場として,科学教育を考えているってね.」
ドロ 「はいはい.」

そんな会話をしていると,水を飲みに起きてきて,ベッドの横を通りかかった雄猫のジロー(推定19歳)が声をかけてきた.

ジロー 「夜中にうるさいなぁ.何を語りあってるんだい?」
私 「ごめんごめん,ちょっと頭を整理していたんだ.」
ジロー 「整理?その割には熱くなってたみたいだが.」
私 「いやだって,『研究は教育のためにある』なんて,とんでもない意見まで出たのを思い出すと...」
ジロー 「まあまあ,落ち着いて.大学の外の人達にも理解されたいなら,言いたいことを簡潔にまとめてみたら.」
私 「おっけー.僕にとって『研究』と『教育』は自転車の両輪だ.前輪は後輪のためにあるわけじゃないし,後輪は前輪のためにあるわけでもない.両方がうまく協調して,自転車は倒れずに進む.」
ドロ 「でも,最先端の研究内容が一回生に教える内容とはずいぶん離れているもんね.私はよく中庭で学生さんたちからお弁当のおかずを分けてもらいながら,ぐちを聞いたもんだっけ...」
ジロー 「ドロちゃん,遠い目!でもあの台風の日『危ないから家へおいで』ってここに連れてきてもらってよかったじゃないか.僕も君という仲間が出来て嬉しかったよ.」
私 「昔話はそこまで.元の話に戻るとね,研究の内容が教育の内容に直接に繋がるわけじゃなくて,研究で得た物理の考え方,学問の在り方への思い,もっと広く言うと,真実を求める科学的な態度が,教育へと反映するわけだ.研究をしていないと,教科書にあることをそのままうのみにして教えてしまうだろう.でもそうじゃない,学問は生きている,その生きる現場に足場をしっかりと得て,教育をしているんだよ.」
ドロ 「なんか抽象的ね.」
私 「うう~~~ん,例は一杯あるけどね.たとえば力学で万有引力の法則を教える.これからケプラーの三法則を導くのは,適切な数学的能力があれば自分で勝手にやればできる.講義ではもちろんそれを丁寧に解説するけど,一方で,万有引力の法則が今現在,どこまで実験で確かめられているか?余剰次元,つまり我々が知っている時間と空間が成す4次元時空とは違う次元方向へ力がはみ出るせいで,万有引力の法則が短距離でよく知られた逆2乗則からずれている可能性がある...などという話をすると,眠たそうにしていた学生達の目が輝き始めるんだ.そんな風に学問を生きたものをして捉えて,学んでいくことは極めて重要だよ.」
ジロー 「でも学生が皆,研究者になるわけじゃないんだし.」
私 「そこそこ.これは何も学者を育てるわけじゃない.技術者や他の様々な分野で活躍する人達に,科学というものの姿をっかり捉えて,必要な時には批判的に科学を見据えて,有益な活動をしてもらうための基本的な教育が,まさにこれなんだよ.とえば,カッシーニの地球のSwing-byの問題なんかは日本では全く取り上げられなかったけど,私の講義ではちゃんと説明したしね.」
ドロ 「わかった,わかった.でもワタシ,眠たくなってきたわ.アッキーはこういうことになると,くどいなぁ.今夜はここまでにしましょう.」
ジロー 「それがいい.明日はまたちゃんと夜明けには起きて,猫缶の美味しいのを出してくれよ.そうじゃないと,お腹の上を歩いちゃうよ.」
私 「ああ,わかった.おやすみ.むにゃむにゃ,Zzzzz...」

翌朝,目が覚めて,寝ぼけまなこで昨夜の会話を思い出していたら,ふと気付きました.猫って,ふつうは話をしないはずだったけど... そこで,それを家政婦さんに話していたら:

家政婦さん 「ちょっとご主人,なに言っているんです?朝から猫みたいにミァーミァーばっかり言って!ふざけないでください!」

[続く]