2017年07月28日

第16回:「 新型インフルエンザ騒ぎから、何をまなぶか」by 宇野

6月になって、町からマスク姿が急にへったが、5月半ばから大阪にはマスク姿があふれていた。5月20日頃は、通勤時間帯は8割がマスクをしていた。5月17日をすぎると、大阪・京都ではマスクが手に入らなくて、九州支店に頼んで送ってもらったと聞いた。同時期、京都に着くと町中ではその割合は少し減ったが、それでも通勤時は半数以上がマスクをしていたし、通勤電車ではマスクをしましょうと言っていた。5月27日に東京に学会でいったが、東京の方はそれほどでもない。1、2割だろうか。

さて、この間の対策についても議論がある。国会で厚労省職員が検疫をパーフォーマンスと言ったそうである。私自身はこの言い方には多少抵抗もある。少なくとも5月初めの時点では、その毒性もよくわからなかったというのがあるので、これはまあ、しかたないかもしれない。実際連休中にアメリカから帰ってきた友人は、空港で陰性だったが、10日間自宅待機だったらしい。本来水際作戦は、感染の蔓延を遅らす(国際的な流行ではそこで、完全に止められるとは、思っていない。)ための対策で、その間に国内の診療体制を整えるべきものである。その視点がどこまで伝わっていたかである。その後渡航歴のない、感染者が見つかった時点で、大きく対策は方向転換されるべきものである。(でもこの感染者も、診察した通常との違いに医師が疑いをもたなかったら、見過ごされていた可能性が高い。)マスコミは、名前は出てこないが、学校が特定されるような形で詳細に追いかけた。この報道を見ていて、二昔前、エイズ患者が見つかった(長野)、初めて亡くなった(神戸)、などの騒ぎを思い出した。この頃、最初は駒込病院の感染症外来に自分の性行動に不安があるヒトが、列をなしたが、報道が加熱するにつれ、HIV感染の本当にリスクが高いヒトが、来られなくなった経緯がある。

5月21日には、日本感染症学会新型インフルエンザ対策ワーキンググループからの提言がだされた。その内容は以下からなっており、内容的にも的確であると思われた。

  1. 過去の我が国における新型インフルエンザ流行の実態から学んでください
  2. 新型インフルエンザは、いずれ数年後に季節性インフルエンザとなって誰で
    も罹患しうる病気です
  3. 新型が流行すると青壮年層の被害が甚大となるのには理由があります
  4. 流行初期から一般医療機関への受診者が激増します
  5. 重症例にはウイルス性肺炎よりも細菌性肺炎例や呼吸不全例が多く見られます
  6. 一般予防策ではうがい、手洗い、マスクが効果的です
  7. 医療従事者の感染予防にはサージカルマスク、手洗い等が効果的です
  8. 全ての医療機関が新型インフルエンザ対策を行うべきです

そもそも今回の騒ぎが大きくなったところに、このインフルエンザが新型インフルエンザで、日本の行政が高病原性鳥インフルエンザを想定した2月17日にだした「新型インフルエンザ対策ガイドライン」しかなかったというところにある。5月23日には京都の感染対策に係っている方から、7月に予定している公開講演会も今だったら中止だと、聞いた。不特定多数が集まるかららしい。6月に予定している学術集会はときくと、特定の人だから大丈夫だろうとのこと、要するに、行政の判断の基準は、新型インフルエンザであるかぎり、そのマニュアルに沿って動くしか無いらしい。でもそんな危機管理でいいのということになる。今回過剰な対策は、経済的も含めマイナスも多いということで、大阪府知事が国にかみついた経緯もある。この時ばかりは、拍手を送った。危機管理にあって、刻々変わる情勢に対応した現実的な判断は益々要求されるだろう。関東に感染が広がってからは、まあ冷静な対応に移っていったようである。
今回の新型インフルエンザは幸いにして、H1N1型であり、弱毒性であった。JAIDSという私が加入しているHIV関係のメイリングリストでは、6月17日頃から通常のインフルエンザと同様、普通の医療機関でも診療できる体制に変えるべきとの意見が出て来ていた。このメイリングリストのレベルの高さをさすがと思いつつ、このメイリングリストの意見交換をながめていたしだいである。さて、ただ、今回のインフルエンザで亡くなった症例を検討してみると、糖尿病や喘息患者、妊婦など、免疫不全のひとが、多かったということである。このメイリングリストでは世界中でHIV感染者がこのインフルエンザで亡くなったという報告がないのに、ハイリスク群に入っているのはおかしいとの議論もあったが、一般的には感染のハイリスクには違いないので、注意することに超した事はない。感染症対策のなかで、ハイリスク群と通常リスク群との対応の差はあってしかるべきである。

今回の一連の議論で、感染症学会の提言でも触れられてなかったことに、ウイルス感染とインターフェロンシステムのことである。治療薬についてタミフルとリレンザしか語られなかったところに、感染症の専門家に、免疫学、それも自然免疫についての知識の欠如を思った。
私達の体は、ウイルス感染を受けた時に、まず最初に感染を受けた上皮細胞や免疫細胞はインターフェロンを作って、周辺の細胞がウイルス抵抗性に変える。その結果、容易に感染が広がらない。この反応は数時間後からおこる。体がインターフェロンをはじめとした炎症性サイトカインを作っているとき、からだがだるく、熱が出てくる。この時は無理をしないで休み、体がこのようなサイトカインを十分だし、ウイルスの感染の広がりを押さえるとともに、続く特異的免疫機構が作動し、ウイルスに対する抗体産生や、キラーT細胞の出現をスムーズにするよう、体力を温存することが望ましい。(以下に少し書いています。)多分、今回不幸にして感染を受けた方は、続く第2波に対しては、抵抗性を獲得しているでしょう。

C型肝炎の治療で使われるインターフェロン1回の投与量1000万単位のインターフェロンを点鼻や経口(トローチタイプ)で投与すれば、1万人に数日提供可能である。副作用もなく、感染予防に有用である。かかっても軽いはずである。インターフェロンの一部研究者は、このようなインターフェロンの使い方を真剣に議論している。
ちょっと今回のインフルエンザも落ち着き、次の第2波対策について考えるとき、感染症対策の最前線にいる方々は、ヒトのインターフェロンシステムへの理解を深めてほしいと思う。