2017年12月18日

第10回:「バーチャル研究所の提案・・・定年退職研究者のために」by 松田

定年後も研究を続けようという、定年退職研究者にとっての大きな悩みは、所属、スペース、研究費の欠如です。とくに所属の問題を解決するために、バーチャル研究所の設立を提案します。

定年退職研究者は、月々なにがしかの対価を支払い、バーチャル研究所、例えば「京都科学・文化研究所」研究員という肩書きを得て、論文にその所属と住所を書くというアイデアです。バーチャル研究所は、京都大学近辺の部屋を借りて、そこで小さな会議やセミナーが出来るようにします。郵便物の転送も請け負います。研究スペースと、研究費は研究者自身で解決していただきます。このようなアイデアが、どれほどのニーズがあるのかを知りたいと思っています。 

まず自己紹介をします。私は神戸大学・理学部・地球惑星科学科を2006年に定年退職した、松田卓也といいます。専門は宇宙物理学です。日本天文学会の理事長をしていました。今は、疑似科学を批判的に研究する会、ジャパン・スケプティックスの会長を務めています。大槻義彦先生が初代の副会長で前会長は安斎育郎先生です。 

神戸大学退職後は、同志社大学の嘱託講師、甲南大学の非常勤講師として、教養としての天文学、物理学、相対性理論の初歩を教えています。また大阪にあるJTBカルチャーセンターで月に1回、天文学の講座を持っています。大学の学生さんの目的は、いかにして効率的に単位を取るかであり、カルチャーセンターの生徒さんの目的は、いかにして払った授業料の元を取るか、です。おもしろい講義をすると生徒さんが増えて、それに比例して収入も増えます。大学の非常勤教員は、学生がそこそこ居れば良く、常勤教員はどんなつまらない講義をしてもクビになることはありません。逆におもしろい講義をしても報われません。学生の数が増えるだけ、大変になるだけです。 

研究面では、まだ神戸大学時代からのつながりで、博士課程院生や、すでに博士を取った人たちと一緒に研究をしています。神戸大学と自宅で週に一度のゼミをしています。自宅では団地の集会所を借りることがあります。問題点は、神戸と京都が遠いので、私にとってもみなさんにとっても、交通費と時間がバカにならないことです。そこで最近、スカイプでゼミをすることを始めました。夜の10時になると、みんなでパソコンの前に集まり、わいわいとやっています。これだと、どんなに離れていても(外国でも)問題ありません。 

研究テーマは、宇宙物理学における数値流体力学シミュレーションです。そのために用いる数値流体力学計算法を開発しています。退職あたりから、すでに3種の計算法を開発しました。いずれも、従来の概念にとらわれない画期的な手法であると自画自賛しています。具体的に言えば、流体力学方程式のかわりにボルツマン方程式やBGK方程式を、粒子法を用いてモンテカルロ法で解くことにより、連続流体の流れをシミュレートするというものです。モンテカルロ的粒子流体力学法と命名しました。特長は、陽的法でありながら、時間刻みに関するクーラン条件に規定されず、非常に安定であるということです。この常識に反する事実を、学会で斯界の権威者に納得してもらうのに苦労しました。また多数の計算結果のアンサンブル平均を取ることで精度が向上するという、普通のスキームにはないユニークな特長も持っています。境界条件の適用がフレキシブルというのも、差分法にはない特長です。計算は主として私やゼミ生のパソコンで行いますが、大規模計算になると、国立天文台、京大・基礎物理学研究所のスパコンを使わせていただいています。 

というわけで、定年退職しても研究を続けることが出来るのですが、一般的に言って、定年退職研究者にとっての最大の問題は、1)所属、2)スペース、3)研究費のなさです。所属とは、論文を書いたときに書く住所のことです。所属がないとか、連絡先が自宅であったりすると、まず信用がないし、うさんくさく思われます。レフェリーにアマの疑似科学者と間違われて、論文をリジェクトされる可能性もあります。レフェリーといえども、権威主義に犯されていますから。そうでなくても、郵便物の受け場所がありません。学会に行くにも、コンピュータの使用申請をするにも、所属というのは必須です。私は幸いにも、神戸大学でまだ机をもらっているので、そこは何とかクリアーしています。 

スペースに関しては、私は理論系の研究者で、それほどの場所は取りません。(実験系研究者にとってはスペースと実験器具は禁止的に重大な問題でしょう)。私は、普段は自宅の居間が研究場所です。しかし、ゼミをするとか、あるいはパソコンを自作しようなどとすると、とたんにスペースの問題にぶち当たります。大学などの常勤研究者は意識していないでしょうが、研究室があること、つまりスペースをただで与えられているというのは、驚くほどの特権です。同じ程度の広さのオフィスを、大学のあるあたりで借りようと思ったら、年間100万円程度はかかるでしょう。光熱費、電話代、インターネット接続にかかる費用などを考えたら、常勤研究者のフリンジ・ベネフィットは更に大きくなります。 

研究費に関して、私にとって一番の問題は旅費のなさです。相手先が出してくれる場合はよいのですが、そうでないと、ただでも少ない年金の中からそれを捻出するのは痛いものがあります。国内旅行はともかく、海外旅行になると大変です。もっとも、研究費に関しては、例えば名誉教授でも科学研究費を申請できるようになったとか、大学もその事務をやるようになったとかということもあり、まだなんとかできるでしょう。 

というわけで、定年退職研究者にとって、所属、スペース、研究費の悩みがあることを述べました。この中で最大の問題は所属だと思います。その問題を解決する一つの手段として、バーチャル研究所構想を考えました。この研究所を例えばNPO法人知的人材ネットワーク「あいんしゅたいん」付置「京都科学・文化研究所(仮称)」と呼ぶことにしましょう。定年退職研究者は、これに所属して、論文を投稿する場合とか、学会に参加するときに、その所属を使用します。研究所のオフィスとして、京都大学近くの部屋を賃貸します。そしてそこには郵便ボックスを置き、研究者は郵便物を取りに来るか、郵便で転送を依頼することも出来ます。研究所には狭いながらも会議室を備え、会員の主催する小さなセミナーや会議を行うことが出来ます。コピー機、コンピュータ、ネット接続をそなえ、封筒などの事務用品も用意します。パートの秘書か事務員を雇うことも考えられます。研究所の役割は一義的には所属の提供です。研究員の主たる研究場所や研究費は、自前で調達していただく必要があります。 

研究所に必要な費用を概算してみました。例えば、家賃が10万円程度として、水道光熱費、パートの人件費を考えると、最低でも月に20万円はかかると思われますので、年間240万円は必要です。さらに初期費用として、敷金、権利金、家具什器などの準備に、さらに100万円は必要でしょう。研究所にかかる費用は、研究員で分担して負担することを原則にします。もし会員数が20名とすると、研究所の発足時は年会費が12万円、つまり月1万円です。入会金は5万円と言うことになります。会員数が40名なら、上記の半額になります。 

問題は上記のようなバーチャル研究所構想に対するニーズが、定年退職教員の間にどれくらいあるかということです。ご興味のある方は私に連絡して下さい。また当NPO法人に加入していただけると、ありがたいです。一緒にバーチャル研究所構想を推進していただける方を募ります。

連絡先:tmatsuda312 at yahoo.co.jp