2024年03月29日

原子力Q&A ー 原子炉を運転しているときと休止している状態では、どこが違うのか?

「原子炉を停止すれば安全ですか?」
「原子炉は燃料を抜かない限り冷却することが必要です。ただし運転しているときと停止時とでは発熱量が違いますので、冷却する労力では桁が違います。」
 
「それではまず、運転しているときの熱エネルギーはどれくらいですか?」
「今の原子力発電の規模として、標準的な電気出力、例えば100万kWの場合を考えてみましょう。原発の熱効率はほぼ30%だといわれています。」
   
「へー? 100万キロワット時の電気エネルギーを作るのに、その3倍もの熱エネルギーがいるのですか?」
「そうですよ。だいたい、熱エネルギーを利用している場合、これを熱機関といいますが、効率はほぼ30%を超えられません。これは熱エネルギーの性格による制約です。とはいえ、これは原子力発電に限ったことではなく、火力発電でも同じです。水を沸騰させてその蒸気圧を使って、あるいは蒸気を発生させず水の圧力を上げて、それでタービンを回して発電する仕組みの場合は逃れることはできないですね。」
   
「そうか、たしか公務員採用試験の問題に、「次のエネルギーのうち、他のエネルギーに変換するのに最も効率の悪いのはどれですか」という問題があって、答えは熱エネルギーだったなあ。でも、火力発電ならわかりますが、原子力エネルギーは熱エネルギーではないのでは?」
「いえいえ、水を温めているという意味では、火力の代わりに原子力を使っているだけで、今の原子炉はやっぱり熱エネルギーにいったん変えているという意味では同じです。」
   
「原子力エネルギーっていうから、もっと効率がいいかと思っていたんですけどねえ。」
「今のところ、蒸気機関と同じ方法の延長ですね。ですから、百万キロワットの原子力発電所では、300万キロワットの熱エネルギーを出していることになります。その反応はウランの核燃料を核分裂させている反応です。この核分裂エネルギーが出ているのですね。」
   
「そうすると、その核分裂を停止すれば、熱エネルギーは出ないことになりませんか?」
「ふつう火力発電の場合には、その燃えている石油を消せばいいわけですね?原子力発電の場合には、だから原子核分裂を止めればいいと思うかもしれません。ところがそうはいかないのです。」
   
「でも、普通の火力発電でも、消したからといってすぐ消えるわけではありませんね?時間がかかりますよね?」
「ええ、それはそうですが、その、時間のかかり方が稼働している場合とは全然違うのです。例えば、100万キロワットの原発の場合、出る熱は300万キロワットですかが、停止後1時間で、約3万kW(運転時の約1%)、100日で3000kW(0.1%)、3年で300kW(0.01%)と急激に減少します。」
注:キロワットはよく使う単位ですが、これは1時間当たりの電気エネルギー出力を表します。ですから、出力エネルギーの総量の単位はキロワットに時間を掛け算して、「キロワット時(kWh・キロワットアワー)」という単位であらわされます。最近は太陽光発電システムを導入している家庭も増えてきましたが、3kWのシステムの場合、3時間フルに出力したとすると発電量(電気エネルギー)は9kWhとなります。
   
「その間に地震が起こったら?」
「運転時に地震などが来て、配管破断、電源喪失などで冷却材がなくなれば最悪の場合数分以下で炉心が溶融しますが、発熱量が小さい停止時の場合は、対応する時間的余裕があります。さらに運転時では、制御棒がうまく入るかどうかなど核反応の面でも心配すべきことが多くあり、リスクは格段に違います。」
   
「とはいえ、やはり、時間的余裕があるだけで、危険ですよね?」
「停止時、より安全にするためには、燃料棒を抜いてより安全な使用済み燃料貯蔵施設に移すべきだと考えます。貯蔵施設も福島事故を考えると、危険だとお考えかも知れませんが、専用の施設であれば、かなりの地震が来ても安全に保管できます(少なくとも、原発の中に入れてあるより格段に安全です)。」
   
「なるほど、そうすると結局長く保管するための安全を考えればいいってことですね?ありがとうございました。ただ、どの場合も、「絶対に安全」などということはあり得ないわけですね。」
「もちろんです。「絶対安全」などという言い方は、科学的ではありません。これは原発だけの話ではないのです。「危険か、安全か」という○×式の思考しかしないから、放射線も「原発からくる放射線は1発たりとも危険だ」などというのも科学的でないので。今、原発の再稼働について、さまざまな意見が飛び交っていますが、具体的で科学的な議論をしてほしいと願っています。」