2017年07月28日

NHKにモノ申す・・・トンデルの論文を巡って(ブログ その80)

さて、私の当初の疑問の2)の問題について考えてみます。

2)スウェーデン、ベステルボッテンで、チェルノブイリ以後、ガンになる住民が1年あたり34%増えたという報道はどういう根拠があるでしょうか?この議論に関しては、トンデル博士にわざわざインタビューしています。ですので、まず、トンデルらによる論文

Martin Tondel, Peter Lindgren, Peter Hjalmars
Increased Incidence of Malignancies in Sweden After the Chernobyl Accident
—A Promoting Effect?

AMERICAN JOURNAL OF INDUSTRIAL MEDICINE 49:159–168 (2006)  

を見てみましょう。実はこのタイトルからわかるように、そもそもタイトルのさいごに「?」がついていますね。この論文はここから見ることができます。

この中の結論めいた文章の表現も「An excess for thyroid cancer or leukemia could not be ruled out.」とあって、なかなか微妙です。

さて、このトンデルの論文は、「自然放射線量より少ない低線量被曝でがん罹患率が増えた」例として頻繁に引用されています。1986年のチェルノブイリ事故以後の疫学調査の結果です。コホート(固定追跡調査集団)は、スウェーデンの汚染された行政区に2年間居住していた1,305,939人。チェルノブイリ由来のセシウム137降下量が分かっているので、チェルノブイリ事故によって増加した放射線が推定できます。(自然放射線量からどれだけ過分に被曝したかというエクセス被曝量の推定方法としてこういう方法を用いることもできるというのは興味深いですね)。スウェーデンをはじめとして、北欧諸国は福祉の行き届いた国々なので、住民の健康に関する調査が行き届いています。そこで、住民の癌罹患率の増加(excess)分を、1988年から1999年まで、3年間毎にまとめてグラフにしたわけです(図参照)。これによると初期段階(1988-1991年)では、「悪性腫瘍発症の増加とチェルノブイリ事故による放射性物質の降下は関連があるかもしれない(possibly related to the fallout ・・・)」と記述しているのです。しかし、「悪性腫瘍促進の可能性のある第2のピークを含めて、明確な結論は現時点ではだせない」としているのです。これが、確固とした証拠にできるでしょうか?そんなことは著者自身も主張していないのですが、実際にこれを引用している人たちはきちんと理解していないように見えます。

しかし、それだけでは、単に、表現の仕方の問題ですので、読み手の気持ちの問題と言わ れればそうかもしれないと思います。しかし、私たちは、生物医学の方々とのネットワークを持っています。この問題を議論していた時のことです。

低線量放射線検討会を立ち上げた宇野さんとは、頻繁に議論をしていますが、ある日、ルイパストゥール医学研究センターで彼女と議論していたら、藤田先生(前所長)が入ってこられ、「この論文の著者は医者じゃないね。間違っている」と言われました。「被曝以後数年以内に発癌などしない。この図(上の図)をみると被曝から数年のうちに癌死亡率が有意に上がっているとしている。そうなら、被ばく時にはすでに癌細胞は成長していたということになるよ」と言われたのです。「被曝が原因の癌細胞は10年から数十年後に発癌に至るというのが、がん専門家の常識ですよ。」といわれたのです。

がんの成長については、「がん予防の基本・がんの予防シリーズ2」(田哲也 財団法人 安田記念医学財団2011年3月)に詳しくあります。特に、最近ホームページにアップされたルイ・パストゥール医学研究センターのパストゥール通信、2012新春号には、より読みやすい藤田晢也生の解説記事、「がん予防の基本・がんの予防シリーズ2」がでています。これは、放射線とがんの特集です。ついでながら、宇野賀津子理事の「白河市における放射線から健康を守る学習会 奮闘記」もでております。

このようにして、宇野さん経由での医学者とのネットワークが持てたおかげで、トンデル論文を単に上っ面だけで読まず、より中身を理解できたのです。このお話は宇野さんが12月17日の講演会でも紹介されました。

それから、12月17日の講演会に来てくださった、一瀬昌嗣さんからは、いろいろ、これに関する論文をご紹介いただきました。なかでも、レビュー論文のS.Hassler et al.(2008)のご紹介をお伝えしましょう。

その他、一瀬さんのブログにこれらの詳しいデータがまとめられています。

疫学統計の詳しい議論は、次のこちらこちらサイトに詳しく解説があります。一瀬さんが紹介してくださいました。

これに関して牧野さんの反論や、奥村さんの解説もあるようです。

なお、トンデルの論文に関しては、ここで紹介した以外にもっと古い論文もあります。それを引用している人もあります。トンデルの論文を引用して間違った議論を展開している組織もあるので、ご注意ください。宇野さんたちが、トンデルの論文の日本訳とともに、詳細に立ち入って検討したものを今準備されています。

どうか皆さん、特に科学者と称するみなさん、科学者として発信するときには、しっかり元論文を検討し、異分野交流もしながら、正しい情報を発信してください。

NHKもしっかり勉強している科学者を見分け、鵜呑みにしないで情報発信していただきたいと思います。というか、私的な情報発信ならいざ知らず、公的な情報発信者が、こんなことでは、罪が大きいと思います。

次のブログでは、セーラさんの発言にも関係して、「統計」ということについて考えてみたいと思います。

今、この情勢の中で、ツイッターで反論しただけでは、正式に報道機関がまともに対応するとは思えません。正確なデータをだして、疑問に答えさせることが必要です。私は、やはり正式な公開質問状を出す必要を感じています。皆様のご支援をお願いします。