2017年07月24日

マリー・キュリーと放射線(ブログ その76)

放射線を最初に発見したのはレントゲンです。目に見えないとてもエネルギーの高い「光線」のようにまっすぐに四方八方に放射状に出る線(ray)が放射線です。最初に発見された放射線は謎の線、つまりX線と名付けたのでした。

ところで、問題です。放射線といえば、α線、β線、γ線というのが、代表格としてあげられることは、福島原発以後、多くの人が耳にするので、知られるようになっています。ところで、初めは区別のつかなかったさまざまな放射線を、その性質によってきちんと区別し、α線、β線、γ線と名前を付けたのは、誰だか知っていますか?

実は物理学者でもほとんど、このことを正確に知っている人が少ないことを最近発見しました。実はマリー・キュリーなのです!膨大なウラン鉱石のなかから、放射性元素を始めて分離したキュリー夫妻の功績は、ベクレルと共に、1903年ノーベル物理学賞を受賞したことでよく知られています。でも、マリーが、単独で、その放射線を磁場を当てることで分離し、放射線の詳細な性質を突き止めた功績は、あまり多くの人に知られていないのですね。実をいうと、私も知りませんでした。これを知ったのは、湯浅年子博士ラボラトリ・セレモニーが開かれたときでした。ちょうど、春頃から2010年3月にかけて、A型、H1N1亜型というインフルエンザウイルスが世界的に流行したときでした。5月21日、本来なら、高エネルギー研究所で開かれるはずだった会場が、つくば国際会議場に変更となりました。湯浅年子博士(1909-1980)は、キュリー夫妻の娘の夫、フレデリック・ジョリオ=キュリーに物理学を学び、フランス国立科学研究所の研究者としてその人生の大半をフランスでの研究に捧げた物理学者です。日本初の国際的に活躍した女性物理学者としても知られています。湯浅さんは、日仏学術交流を進めたことでも功績のあった人で、この流れを受けて、KEKとフランス国立科学研究所・フランス原子力庁は、国際研究連携を続けています。私はそこで、「物理と女性」という題で、お話をさせて頂きました。その様子は「湯浅年子さんをめぐって-女性としての人生」でもご報告しました。

ところで、この後の懇親会で、尾立晋祥先生(東京理科大)が、「先回の湯浅年子記念シンポジウムでは、大変興味深いお話、特に、女性の物理学者は、特徴があるというお話、をお聞きいたしました」といわれ、「あまり無理しないで自然な姿勢で研究すればいい」というコメントを頂きました。大変興味深いコメントでしたので、私はさらにおききしたくなりました。人文科学では、男性とは異なった視点で、社会を見たり、歴史を振り返るというタイプは女性には多く、ジェンダーという視点から、女性に焦点をあてた研究も多くあります。さらに、自然科学でも、生物学などは、自然への探求のモティベーションが「生きているものへのいつくしみ」のようなものがあって、環境問題や予防医学の分野で活躍する人が目立つことを感じてきました。それに対して物理学には、そういう傾向がどうしても薄く、あまり差が見られないとずっと思っていたのです。そうしたら、「そうかな。僕はマリー・キュリーもけっこう女性らしさの出た仕事をしていると思いますよ」とおっしゃったのです。「??」、と私は訝った顔をしたら、「あ、いや、ポロニウムやラジウムの分離、あれはご夫君と一緒にやったこともあり男性的な仕事だけど、α線、β線、γ線の分離は女性らしい仕事ですよ」といわれたのです。

え?それは知らなかったな。ということで、この証拠を探してみたくなったのでした。

それから、2011年、2年がたちました。そして思いもかけぬところからマリー・キュリーの博士論文を見つけることができたのです。それは、この春のことです。石川隆さん(東大理学部)と話していた時、何気なくこの話になり、「どこに掲載されているかわかったらいいんですけどね」といったのです。そしたらどうでしょう!リサーチ力のある石川さんが東大の図書室で見つけてくださったのです。そしてコピーをくださいました。

そうなのです。マリーの博士論文に見事に、よく見るα線、β線、γ線の分離した図が載っていたのです。すごい!粘りがちですね!この見つけていただいた論文の一部のコピーを、ご紹介したいとお思いました。石川さん、ありがとうございました。

そのエッセンスのところをお見せします。

キュリー夫人DT

放射線の解説をするとき、この事実を知らず、ラザフォードとかフェルミだと思っているらしいことがわかって、一度、言っておこうと思った次第です。

ところで、つい最近、実はそんなことはよく知られていたことらしいことを発見しました。佐藤文隆さんの講演で図のようなフランスの紙幣にあるキュリーの肖像を紹介されました。そこにはちゃんとドクター論文と同じ図があるではありませんか。知らなかったのは、私だけだったのかもしれません。でも、マリー・キュリーの博士論文をみると、彼女の性格がよく表れていますね。