2017年11月25日

放射線Q&A ー 等価線量も実効線量も物理量ではない・・・グレイからシーベルトへ

放射線Q&A ー 放射線被ばくの影響・・・グレイ・シーベルト 受ける方」からの続き

「さあ、そろそろ私たちが浴びる被ばく線量の計算をしないといけませんね。これは人間が放射線を浴びたときの影響の大きさを表す数値だと思うんですが、その数値の単位がシーベルトなんですねよね?そしてシーベルトという単位を用いて表される数値の名称が「実効線量」や「等価線量」なんですね?」
「そうです。ただ注意が必要なのですが、結局実効線量や等価線量も吸収線量のように物理量ではありません。つまり、人体への放射線の影響は様々な症状として現れるわけですが、その症状によってどれだけ損害を受けたか、というのは人によって受け止め方が異なります。ICRPはそれを出来るだけ客観性を保ちつつ数値化していますが、そこに主観が入ります。」

 
「主観?等価線量、実効線量などが物理量でないことは今の説明で分かりましたが、それでは主観的で信用できない量なのですか?」
「いえ、そういう意味ではありません。これから説明しますが、これらを決めているのは、2つの加重係数です。ところがそれら加重係数の値を決めるのに、まだ人間を使っては測定できない部分があります。例えばラットの実験や細胞を用いた実験の結果から、人間の場合を推定せざるをえません。ですから、等価線量や実効線量そのものが、そのまま「ある個人」が放射線を浴びたときに受けるダメージを正確に表しているとはいえないのです。物理量というのは、条件が同じであれば、誰が観測しても同じ、同じ現象を導くような量のことです。つまり、100人が1000人同じ結論に至る、という客観性が重要なのです。」
   
「なるほど、そういう客観性が科学の大切な精神を表しているのですね。」
「客観性を保っている数値、という意味が分からない人も居るかと思いますので、例を挙げます。例えば水の温度です。体感温度、つまり熱いか冷たいかという感覚というのは人によって異なりますから、これは主観が入った量であり物理量とは呼べません。それに対して、ある物理現象を用いて作られた温度計で水を測った温度(仮に50°Cとする)は、客観性を持っている。何故なら、人の想いとは関係なく物理現象によってのみ温度計の針は動いており、人為的な悪戯をしない限り、針が50°Cを示していれば、誰にとってもその水の温度は50°C。くどくなりますが、このように人間の主観が入り込まずに物理現象によってのみ決まる量のことを物理量と呼ぶわけです。話が少しずれましたが、ここからまず、実効線量と等価線量がどのような量で、どのような違いがあるのかをはっきりさせましょう。」
   
「はい、よろしくお願いします。そこをしっかり見ておかないと、どこが違うのかもよく分かりませんから。」
「まず実効線量および等価線量は、先に説明した通り防護のための量なので、人体が実際にどれだけ放射線を浴びたかという話をするのはナンセンスです。」
   
「ということは、実際に浴びた量がどうこう、ではないわけですね。要するに、もし私たちが「ある場所」に行った際にどれだけの放射線を外部から浴びることになるのか、もしくは「ある食品を摂取」した際にどれだけの放射線を内部から浴びることになるのか、それらの予想値が分かっているという前提で、どのように自分の身を守れば良いのか、その指針にするための量、ということでしょうか?」
「はい、その通りです。ですから、そこから出発しましょう。そして、その予想値を「吸収線量」と呼びましょう。これは何度も言っていますが、物理量です。だから、上述の「ある場所」に行けば如何なる人も同じだけの吸収線量を外部から浴びることになり、「ある食品」を摂取すれば如何なる人も同じだけの吸収線量を内部に浴びるという前提で話を進めます。その上で、実効線量や等価線量という量を考えます。」
   
「えーと、吸収線量は、物質(人体含む)が放射線を浴びた場合に吸収するエネルギー、言い換えれば人体が放射線から与えられたエネルギーを表したもので、明確に物理現象だけで決まる量ということですね。だから、そこに主観が入り込むことはないので完全に客観的に決まる、すなわち物理量ということですね。」
「その通りです。ところが、人体への影響を表す実効線量や等価線量はそうはいかなかくなります。すぐに分かるのが、先に挙げた症状に対する損害の受け止め方を数値化する段階で主観が入ります。またそれだけではなく、一体どの放射線を浴びたのか、どの臓器が浴びたのか、全身が浴びたのか、さらには一気に浴びたのか、分割して浴びたのかなどによって、影響の受け方(つまり症状の出方等)が違うわけです。放射線防護を行なうためには、これらの影響の違いを考慮に入れて、人体の受けたダメージを数値化しなければならないわけです。」
   
「臓器の違いによっても影響の現れ方が違うんですね。」
「そうなんです。同じ吸収線量であっても、影響の受け方は放射線に弱い臓器であるかどうかなどに依存してしまうわけです。」
   
「でも臓器の違いは複雑そうな気がするので、まず放射線の違いによる影響の現れ方の違いについて説明して貰えますか?」
「浴びた放射線の種類によって影響の現れ方が違うというのは、端的に言ってしまえば、同じ吸収線量であっても放射線を浴びた個所で発生する活性酸素の量に違いが出るということです。例えば直径が大きな弾丸と小さな弾丸を同じコンクリートの壁に向かって撃ったとします。小さな弾丸は貫通力が強いので奥深くまで刺さっていくかもしれませんが、コンクリートの壁は穴が深く開くだけの話でそれほど破壊されません。それに対して、直径が大きな弾丸は大きな分だけコンクリートの壁から抵抗力を受けるので、深く刺さることはありません。しかしそれとは逆に、コンクリートの壁は小さな弾丸の場合よりも破壊されてしまいます。これと同じで、例えばベータ線とアルファ線を比べた場合、ベータ線は小さな弾丸に対応し、アルファ線は大きな弾丸に対応します。つまりアルファ線の方が破壊力が大きく、すなわち活性酸素(活性酸素については7-1を参照)を生み出す量が多いということを意味します。活性酸素を生み出す量が多い理由は電離作用が大きいからなんですが、これ以上は話が逸れていくので、電離作用に関しては別のところで説明することにしましょう。」
   
注: 「加重係数」は、ICRPの1990年勧告までは「荷重係数」と表記されていました。現在の最新勧告である2007年勧告から「加重係数」と表記することになっています。ところが日本の放射線防護に関わる法令は1990年勧告に準拠しており、それ故インターネットで検索する際、「荷重係数」という表記の方が多くヒットするようになっています。


放射線Q&A ー 人体への影響 - 1. 確定的影響(非確率的影響)」へ続く (文責:伊藤英男・廣田誠子・坂東昌子)