2017年05月25日

目に見えない放射線?(ブログ その64)

「放射線は目に見えないのでこわい」という声を耳にします。
目に見えないものは怖いのでしょうか?バスが今どこまで来ているか教えてくれる掲示板、ラジオやテレビを伝わってくる電波、みんな目に見えません。
でも、携帯電話やテレビラジオが聞こえることで、電波がそこに存在したことがわかるのですね。また、遠すぎて見えない時は望遠鏡を使って、小さくて肉眼でみえないときは顕微鏡を使ってみています。
目には見えないけど何かそこにあるということは、いろいろの道具を使って測ることができるのです。その道具が、うまく対称物が出す光と反応してくれれば、そこにある物がみえるように工夫できるわけです。
「気配」といったものも実態があるので、それを見える手段を見つけて人間はいろいろなものを測ってきたことは、「生物は季節の気配を感じるか?」で触れました。

さて、「放射線をどうして測るのか」ですが、それにもいろいろな道具があります。
しかし、その道具を使って測ったとしても、今よく使われている放射線の「単位時間当たりの放射線量(もう少し正確にいうと実効線量:単位シーベルト/時間)」という量をすぐ測れるサーベイメーターは、どうやって測っているのか、気になったのでご紹介します。これは当ホームページで、会員メーリングリストで質問されたのですが、専門家ですら知らなかった話です。
これを知ったきっかけは、さる6月10日に行われた、日本物理学会主催「物理学者から見た原子力利用とエネルギー問題」でのやり取りからです。この中で、日本原子力研究開発機構J-PARCセンターの柴田徳思さんが、「放射線防護の立場から」というお話をされました。この時のお話の内容は、こちら にあります。
日本の放射線量の規制値をどのように決めたのか、そしていつ決めたのか、そして今はどうなのか、混乱を極める中で整理が必要ですね。

ところで話は変わりますが、さる6月10日に行われた、日本物理学会主催「物理学者から見た原子力利用とエネルギー問題」に出席しました。
この中で、日本原子力研究開発機構  J-PARCセンターの柴田徳思さんが、「放射線防護の立場から」というお話をされました。よくまとまっていて参考になります。
ただ、よく注意しないとわからないのですが、この解説の22ページには、放射性ヨウ素は「等価線量」の制限値、24ページには放射性セシウムは「実効線量」の規制値が示されています。どうして2つの線量を使い分けているのでしょうか。これがわかれば、実は線量の違い、どういう防護を考えているかわかるってことですね。(これは、「放射線Q&A」に解説をいたしますので、そちらを見てください。)

さて、それでも満足できない人がいると思います。ここではその人たちに私が疑問に思ったことをお聞きしたので、ここでメールでやり取りした結果得た柴田先生の解説をご紹介します。

<Q&A 柴田徳思日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター教授に聞く>

坂東: 柴田様、先日は物理学会でのシンポジウムで、放射線防護の概略のお話を聞かせていただきありがとうございました。とても勉強になりました。
ところで、前々からよくわからなかったのですが、実効線量や等価線量の違いがはっきりしてくるに従って肝心のことがわからなくなりました。どこにも定義が出ていないので困っています。
外部被ばくですが、現在あちこちで線量調査が始まっています。市販の測定器の場合、大体単位はその値は、「シーベルト(Sv)/時間」で表示されます。
そこで、質問です。この場合、実際に線量は、実効線量ですか?等価線量ですか?これは、等価線量か実効線量かどちらでしょうか?
また、放射線を人間にあててその影響の度合いを示すはずの等価線量や実効線量が、測定器で直接測れるのではないと思うのですが・・・?
すみませんが、この点教えてもらえないでしょうか?
こういうのはやはり専門の人に直接お聞きする方が確実だと思い、お忙しいとはわかっているのですが、お伺いすることにしました。それに、正直お忙しい方の方が、けっこうすぐにお返事がもらえるのも事実です。
どうも、物理屋にとっては意味不明な量が出てきて大変ですね。
柴田: 放射線防護に関係する線量または線量率(単位時間当たり)には3種類あります。
● 等価線量H:放射線がある組織に与えた単位質量当たりのエネルギーD(吸収線量ともいう単位はGy)と放射線荷重係数wRの積、つまりH=D・wRで単位はSvです。
● 実効線量E:全身被ばくした時の各組織(T)の等価線量HTに各組織の組織荷重係数wTかけたものを全ての組織について加えた量です。つまりE=ΣwT・HTです。単位はSvです。
●1cm線量当量:実効線量は測定できないので、実用量として半径30cmで組織等価の物質でできた球に、一様な放射線を照射したときの深さ1cmのところの値が実効線量を安全側でほぼ表すので測定に用います。単位はSvです。
坂東: 柴田様、早速お返事いただき、お忙しい中ありがとうございました。
等価線量と実効線量は把握していましたが、この3番目の「1cm線量当量」というのを知りませんでした。大変勉強になりました。ありがとうございます。まだ新しい線量当量ってものがあったのですね。
ところで、「1cm線量当量」は、実際に実験して決めるのですね。つまり人体は半径30cmの組織が同等(前に聞いた時には放射線医学の話しのときには、人体は水と同じと聞いていましたが、もう少し精密なのですね)であるとして、この人体モデルに照射して測定値をきめるというものですね?
そうすると、実効線量で用いる組織係数のきめ方は、とてもややこしそうでしたが、半径30cmの球の中に詰める内容物は国際的に決めら
れていて、標準値があるということと解釈していいでしょうか?
柴田: 半径30cmの球の中に詰める内容物は国際的に決められていて、標準値があるということです。これらの値はICRUという国際機関が決めています。
坂東: 30㎝の球というのは、結局人体に似せて内容を詰めて、人体の模型を作っているのですね。それで放射線を当ててみて実際に測って値を決めているのですか?
そうすると、その内容物はどこかできちんと決めているのですね。そうすると、次は1cm線量当量率を測るには、どうするのですか?
柴田: 放射線を測るサーベイメーターは1cm線量当量率を測定できるようになっています。
したがって、測定された値は1cm線量当量率ですが、一様なガンマ線(エネルギーは 混ざっていてもよい) の場としての線量を測っています。その場所で人が被ばくした時の実効線量を表わすのです。
坂東: まだよくわからないのですが、そうすると実測するのですか?
柴田: 1cm線量当量は、実測でなく計算で求めています。30㎝の球の1cm内部の線量を測定しようとすると測定器による乱れが生じるからです。
30cmの球に一方向から強度が一様に、異なるエネルギーのガンマ線を照射した場合の計算で求めます。
結局、すべて計算シミュレーションによって取り扱われています。人体の場合も一方向から一様な強度で一様なガンマ線を与えた計算をするのですが、人体の前方からの値を用いています。
後方からガンマ線が来る場合は多少違ってしますのですがこのようにしています。
坂東: 結構ややこしいですね。そうすると、本当に30㎝球を作って実験しているわけではないのですね。でもまあ、それおよその見当はつきました。
ここから等価線量を求めることになりますね?
柴田: 等価線量を求めるには、ガンマ線のエネルギースペクトルを与えて、ある組織が受ける吸収線量を計算する必要があります。
坂東: なるほど、人体に近い模型を作ってそれで試して、換算表を作っておくということですね?
先日のこちらの検討会で聞いた話では、吸収線量から等価線量や実効線量になおすには、組織加重係数の決め方が複雑で、しかも最後には、ICRPの委員の主観も加味してきまっているという話だったので、難しいものだなと思っていたのですが・・・。
柴田: 僕は、標準測定器を定めて、エネルギーごとのガンマ線の応答を実験的に求め(組織等価物質で作れば実効線量とひどくは違わないと思われる)実効線量を安全側に評価できるように検出器の材料を定めたものを作って用いるのが良いと思っています。
坂東: そうですよね。それだと、結局、人間にあたった時に、入ってきた放射線(ガンマ線)のエネルギーがどれくらいかを調べて、それに応じた実測値を、サーベイメーターで表示すれば、まあ、人体にあてたときの線量がほぼわかりますね。
よくわかりました。ありがとうございました。