2017年11月25日

放射線量率の調査に思う(ブログ その60)

1.レベル7

2011年4月12日、経済産業省・原子力安全・保安院は、福島第一原発の事故を、「レベル7」に引き上げることを発表した(国際評価尺度・INESによる暫定評価)。保安院の発表では、チェルノブイリ事故の550万テラベクレルにはいかないが、放出された放射性物質の放射能が37万テラベクレル(原子力安全委員会は63万テラベクレル)と推定した。数万テラベクレルをこえるとレベル7だという。

3月12日段階ではレベル4、18日にはレベル5だった。当初からデータがあったのなら、どうして今頃引き上げたのか、新たな事故もないままでの唐突な発表であった。

武田ブログ(4月8日 子供の目線に立って)に触れられている放射線量を調べてみたいとデータを調べていて気になった。文科省を含めてデータの説明が全くないのが多いのだ。チェルノブイリと比較してどうなのか、前日と比べてどうなのか、数値が上がったのか下がったのか、数値が上がったとすると何故なのか、事故が再発したのか、風向きのせいか、何も説明がない。子供じゃあるまいし、数値を知らせばいいというものではない。みんながわかるように、また、データの異常な振る舞いが見つかれば、なぜなのか、そういう分析がないのは親切でない。困ったことだ。

また、事故以前の平常値と比べようと思って、例えば2009年の数値を見つけ出したが、これがまた、単位が「ナノグレイ」になっている。一般の人が見ても比べられない(注:グレイはガンマ線で測った場合はシーベルトと同じ値)。換算すると、東京の値は平均して1時間当たり0.03 μシーベルト、鳥取県は0.06μSv、京都府0.04μSvである。これらと比較してみると、福島県内の放射線量率のモニタリングデータの数値は、ほぼ0.1‐0.4μSvに抑えられている。

ただ、初期の段階から突出している箇所がある。例えば4月12日14時の空間積算線量測定結果(原子力災害現地対策本部)のデータによると16μSv、蓄積線量(4463μSv)の飯館村津島小学校[浪江町]が突出している。浪江町を含むこれらの地域が放射性物質の流れのルートなのか、そう思って翌日のデータをみると、理由もないまま津島小学校は測定地点から消えていて、トレースできないのだ。こんな異常な値が出たら、なぜかを追跡してほしいものだ。

2.早野ツイッターから得られる情報

それに比べて、東京大学理学系研究科の早野龍五教授は、ツイッター上で貴重な情報を公開し続けている。客観的で、しかも、丁寧な情報を発信し続ける早野氏には頭が下がる。その中からいくつか紹介することとする。

1)最新の情報から

4月19日までのデータをまとめたグラフが掲載されている。これを見てわかることは、福島以外の区域についてはほぼ収束している。福島だけは注意深く見る必要がある。4月4日までの線量率の変化をみると、「郡山市の線量率が下がらない」とコメントがある。1つ気になるのは、この図で3月20日から23日の間の線量の変化の原因がよくわからない。降雨による影響だけでは、この振る舞いの解釈がつかない。早野氏に聞き合わせてみると、測定値の変化で理解できないことはいろいろあるらしい。測定器の位置を少しずらしたり、測定器の機種を変えたりすると、測定値が急に変化することもまれではないらしい。測定器自身も「一度汚染された後は、それが影響するので、きちんとカバーをかけて測るとか細心の注意がいるという。定点での変化をみるといっても、この程度の誤差はつきものだそうである。高エネルギーの実験のデータから、新しい現象を見つけ出すときの精密さから考えると、意外というか、そんなものかとびっくりしてしまう。まあ、実験の苦労を知らない私の勝手な感想である。

<図1>
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さて、この図1をもっと最近までプロットした図2を見ると、上に述べた異常なふるまいを除くと、4月19日まで続けて記録したデータでは、順調に減少していることが分かる。このデータでは、黄色の部分から外れると、基準値(黄色の領域内)をこすことになる。福島以外の地域では、どれもすでに基準値の中におさまっていることが分かる。

<図2>
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2)雨の影響

3月21日近辺で、どの地域もいったん線量が緩やかに増加している。これは空気中の放射性物質が雨に付着して降下するために起こることで説明できる。早野ツイッターでは、事故前の普段でも雨が降ると放射線量率の値が上昇することを指摘している。図3は、福島の影響が及んでいない浜岡原発付近の過去1ヶ月のデータ(赤が放射線量率,青が雨量)を調べたもので、このグラフを見ると、事故が発生しなくても、降雨によって線量率が1.5倍ぐらい上がることが見て取れる。つまり、平常時でも、放射性物質が付着したチリが雨で落下するのである。「避難指示地域周辺では,雨に濡れないよう御注意」と、警告も発している。これぐらいの忠告を発するのが、「情報発信」するということだと思う。

<図3>
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3)積算被曝量
そうすると、必要になるのは、これが蓄積された時にどれくらいになるかである。それも計算している。さすがにプロだ。このためには核種ごとの半減期を考慮して線量率変化を計算することも必要になる。概算の方法を示したうえで、積算線量の結果を出している(図4)。詳細は ここ に示されている。

<図4>
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<図5>
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年間推定量は、基準値を上回りそうなことが分かる(図5)。

3.飯舘村周辺放射能汚染調査チーム

放射線量の分布は一様でなく、特殊な地域で大変高い値を示している。この原因を究明しているのは、「3月28日と29日にかけて飯舘村周辺において実施した放射線サーベイ活動の暫定報告」(飯舘村周辺放射能汚染調査チーム 今中哲二(代表) 京都大学原子炉実験所・遠藤暁 広島大学大学院工学研究院・静間清 広島大学大学院工学研究院・菅井益郎 国学院大学・小澤祥司 日本大学生物資源科学部)である。当然注目すべき地域を重点的に独自に測定し、核種の特定も含めて調査した。そして、異常に高い線量地域が福島第1原発から飯館村に位置する北西方向へ伸びていることを指摘した。この汚染区域が、山と山に挟まれたくぼみになっていることで、風向きのルートとなったことを確かめている。丁寧な報告が出ていることに感銘を受けた。

この報告は、新聞にも発表され、「IAEA避難基準の2倍 福島・飯館村の放射性物質」『飯館村「人が住めるレベルではない」京大助教らが現地調査(04/14 06:55)』(その他の記事は、こちらこちら)と、ショッキングなタイトルがついて報道された。今回の原子炉事故を、唐突にレベル7に引き上げた原子力安全保安院にも違和感があるが、ここまで危機をあおることもないのでないか。せっかくの献身的な調査であるだけにちょっと残念な気がした。

4.みまもりファームの栽培日記

<図6>

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付け加えておきたいことがある。それは、今中チームのレポートで引用されていた現地レポートである。日日更新されている。5月2日には、「浪江町、飯舘村に降り積もった放射性物質の再拡散について」が掲載されている。丁寧にモニタリングを行い、「天気予報」なみにレポートには感銘を受けた。地図上に測定した地点と線量率の表示がある(図1)。

そこには、福島県の土壌汚染と放射性物質の飛散経路を綿密に調べ、近辺の地形からどこに放射性物質が集中して降下したかまで、写真と共に紹介している(他の写真はこちら)。この膨大が報告をどういう方が、ここまで綿密にグラフに描き、検討を加えていて頭が下がる。

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その昔、ジョン・スノーが、コレラの流行の源泉を追って「感染地図」を、完成させたのを思い出す。まさに、現場でデータをとり科学的考察を加えているのである。

5.米軍機によるサーべィ

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国際原子力機関(IAEA)のフローリー事務次長(原子力安全担当)が、3月30日の記者会見で、「福島第1原発の北西約40キロの、避難区域外にある福島県飯館村の土壌から検出された放射性物質の数値がIAEAの避難基準を上回った」と指摘した。そして、状況を見定めるよう日本側に伝えたことを明らかにした。海外の方がデータをきちんと見ていることにショックを受けたのは私だけではあるまい。
また、朝日新聞3月24日の記事によれば、米軍機による空中測定結果がでている。これと今中氏のデータとはよく整合している。

このような重要な情報が、この地域と密に連絡をとり国として情報発信できなかったのはなぜか、そこは今後しっかり反省しなければならない。「情報を流してパニックになるのを恐れた」という配慮とも受け取れるが、SPEEDIを用いたシミュレーションも含めて、きちんと情報を流さなかった事が悔やまれる。

6.最後に

つい最近になって、ようやく気象庁をはじめとして、環境緊急対応地区特別気象センターについて情報公開が始まった。

気象庁のホームページには、「環境緊急対応(Environmental Emergency Response: EER)地区特別気象センター(Regional Specialized Meteorological Center: RSMC)として、原子力発電所の事故等発生時に、国際原子力機関(IAEA)の要請に応じて、大気中に放出された有害物質の拡散予測情報を提供しています。」とある。

政府・東京電力・原子力保安院、原子力安全委員会、こういった公式の組織が、ばらばらに、しかも正確な情報を開示しなかったこと、何よりもこのことが、国民に不信感を与え、余計な危機感をあおり、正しい対処を遅らせてきたことに、批判が大きくなっていたが、ようやく、意思疎通と情報開示の重要性が認識されるにいたった。

今回の一連の動きの中で、「真実を語ること」がいかに大切かをみんなが悟った。「パニックにならないように情報を全部は公開しない」といった国民を愚民あつかいにする対応が、結局不信感を招き、事態を紛糾させた。それがこれほど白日の下にさらされたことはなかった。

海外の情報も、いろいろな人の意見も、インターネットを通じて即時にみんなに伝わった。情報社会の現在、IT技術のおかげで、日本もまともな方向に踏み出すことができたのではないか。今まで、あちこち苦労して検索しないとわからなかった情報が、内閣府原子力安全委員会のホームページに一覧表として列挙されたことにほっとしている。

今後は、専門家を結集し、知恵を集めて事態を収拾し、示された工程表に従って、実行されることを期待してやまない。