2017年10月24日

なぜ学者はバラバラなのか(ブログ その57)

やっとまともな専門家グループが立ち上がった。遅きに失したが、ともかく動き出しそうなので、心強い。今回とJCO事故が最も違う点は、専門家集団を結集していないことだ、という思いはずっとあった。

去る3月31日付で原子力関係16人の専門家が緊急提言を出した。

原発事故、国内の経験総動員を…専門家らが提言

この提言の原文は、「福島原発事故についての緊急建言」(平成23年3月31日付)という形で、こちらのサイトで公開されている。

ここに名を連ねている専門家の中には、J-PARCセンター長でもある永宮正治現日本物理学会長をはじめとして物理学会員柴田徳思氏もおられる。柴田氏のJCO臨界事故の物理現象の解説を読むと、当時いかに専門家が知恵を出し合って、すぐに周辺の放射線の調査などにあたっていたかを知ることができる(東海村JCO臨界事故 日本物理学会誌55(8), 579-586

そこには、JCO事故でのデータが克明に記してある。今回の事故では、ボランティア的に、高エネルギー研究所や東京大学等が公開していることは既にに述べたが、さらに福島県立医科大学のホームページでも、教員が交代で、放射線量の定点観測を24時間毎時行なっている

また、私が大変感銘を受けたのは、地球化学会ではいち早くメッセージを出した。そこには、「かつて広島・長崎の被爆時、第五福竜丸の被爆時にも、地球化学会の先輩方が立ち上がりました。」と書かれている。
日本地球化学会としてこの未曾有の出来事に対応するために、3/19のメールで放射性核種の測定に対するボランティアを募ったのである。そのメールは女性研究者の会のメーリングリストで、私たちのところにも届いた。そして、放射線の測定を独自で始めている(東日本大震災に関する日本地球化学会の貢献について(詳細))。

このように、あちこちで、科学者は正確に事態を伝え、科学者としてできることをやろうと努力している。しかし、それがJCOの時のように、大きな組織としての動きにつながっていかないのはなぜなのかとハラハラしていた。

どうも科学者は揺れているように感じた。そういうとき、日本気象学会は、慎重に次のようなメッセージを出している事を知った。

そうか、学会でも慎重に行動するようにと警告しているところもあるのだ。それで、SPEEDIによる放射線の拡散のシミュレーションが、日本では出なかったのか、等と勘繰りたくなった。
これに関しては、「3月18日付けの理事長メッセージについて」が出た。科学者と社会とのあり方を考えさせられた。いろいろな思いが交差するこの頃である。科学者もいろいろと揺れ動いているのだ。

無我夢中で、貧弱な知識をかき集めて、私たちがわかる範囲で情報発信しようと立ち上げた「東日本震災情報発信チーム」の相棒である宇野さんからメールが来た。そこには、「今日入手した、週間ポストに、『何故記者は無知、学者はバラバラなのか、』という記事がありました。きちっとした専門家集団の立ち上げが今望まれているところです。」とあった。

今、市民は「何を信用していいのか」わからない状態にある。正確な情報が伝わっておらず、みんなが右往左往しているのだ。公式の情報が信用できない状態が続いている。こんなとき「客観的な判断ができる集団」が、きちんと発言すること、今後のはっきりした見通しと対策を立てることが、大変重要なのだ。学会自らがサポート体制を取れるといいなと思っている。この提案を組織された方に心からの敬意を表したい。とにかく、事故の最小限の被害に速やかに処理するマニュアルが必要である。

ただ、医学・生物学関係の人が少ないような気がする。私は、今回、つくづく医学・生物学と物理学との間にある認識のギャップが気になっている。このことは、次のブログに書こうと思っているが、今回立ち上げた情報八千発信センターの勉強会で、物理屋と生物関係の宇野さんとの認識の違いをかなり長時間議論した。そして、情報発信センターでの勉強会を繰り返すうちに、その差がどこから来るのか、それがだいぶ分かってきた。

異分野交流の意味が今度ほど感じられたことはない。そして、三宅恭雄著「死の灰と戦う科学者」や武谷三男著「死の灰」を読み直した。ビキニ水爆実験当時、この世界に降り注いだ「死の灰」がもたらしたとき、これをきっかけに、科学者たちの異分野交流、そこにみられる科学者の倫理観を、もういちど、思い起こしていた。先輩科学者たちの、その熱意と科学的精神に支えられ他今日があるのだ。これについては次回のブログにまとめたい。

4月11日記 

追記:こうした思いは、既に私は、3月17日に学会のサブグループに出したメールで述べているのでこれを紹介しておく。

3月17日メモ

「科学者として、今私たちは何をすべきか、ということを考えると、天災である地震に伴って起こったさまざまな問題、特に原子力発電所の危機的状況に対して、科学者(原子力のプロとは言えないまでも)として、正確な情報を収集し、何ができるかを考えるときのようにも思います。例えば、今朝の朝日新聞に、住田健二氏(大阪大学名誉教授 1930年生まれ 原子力工学 放射線計測 原子力安全委員会委員長代理などを歴任)が次のように書いています。

住田氏の新聞記事より抜粋

JCO事故の時は、多くの研究機関がデータ収集で協力してくれ、各電力会社も放射能を測定するモニタリングカーを派遣してくれた。原子力関係者が総力を挙げて助言やバックアップしてくれておかげで、危機を乗り切ることができた。今回は、東京電力と保安院がすべて抱え込んでしまっているために残念ながらそうしたバックアップがほとんど活用されていないように見える。原子力安全委員会などの協力も得て対処すべきだったのに、自分たちだけでやろうとした。

注:井上信氏(もと京都大学原子炉所長 京都大学名誉教授)によると、住田氏は、JCO事故のとき超法規的に現場へ出て行って、原研のエキスパートを動員して計算し臨界を止める指揮を執ったということである。

保安院の発表も東電の発表も、いつも「目視」した素人の話しか出てきません、どうして、時系列的にいろいろなところで測定したデータを示さないのでしょうか。何が出てきているのか、どれくらいの強さで出てきているのか、さらに、放射性物質なのか放射線なのか(つまり内部被爆の怖さがきちんと語られていないのです)、など、正確な情報が出てこないのです。また発表する側のレベルも低いですよね。新聞記者会見も、批判的なのはいいのですが、悪意ばかりが表に出ていて、的確な質問をしていないし・・・。
必死で食い止めようと頑張っているのだと思いますが、客観的なデータをきちんと明示しないやり方は、あまりにも真実を語るという科学の正攻法から外れています。というより国民(我々を含めて)をばかにしているとしかもえません。
もちろん、これだけの予想を超えた天災のなかで、よくここまで頑張っているということは海外からも評価されているという話です。日本とフランスが原子力に関してはもっともレベルが高かった筈でした。
その日本では、今や中堅がいないのです。ここ2-30年、日本の大学から原子力講座の名前が消え、人材は途絶えていたのですね。最近になって、このことに気が付き、環境問題のからみもあり、日本での原子炉が設置されて40年ぐらいたちリプレイスの時期と重なったこともあり、やっと若手を採用し始めたところでした。いったん途絶えると取り返すのが大変なのに。まあ、ポスドク問題のつけが、災いしているとしか言いようがありません。
今、東日本がこんな状態になっているとき、原子科学者(になりますよね。我々は・・・)が、黙っていていいのかな、と悩むこの頃です。