2017年07月23日

風評が立つのは、情報を発信する側の責任である(ブログ その56)

「ほんとに腹が立ってしょうがないんで、電話しました」。
電話がかかったのは、今朝(4月3日)のことであった。Sさんからだ。Sさんは素粒子論の研究で博士をとり、その後企業で、半導体関連の開発で紫綬褒章を受けたほどの人であるが、この日は憤懣やるかたない思いをどうしても誰かに伝えたくて私に電話をかけてこられた。

いつもとは違う激しいいい方で、マスコミに出てくる科学者を「御用学者」だと決めつけた。この間、本当の情報を知ろうと思うと、海外に頼らざるを得ない状況が続いている。それに、東電や保安院のプレスリリースは、あまりにも間違いが多いし、分からないことが多い。

丁度、私もこのことでイライラしていた。放射線の濃度が上がっているというデータが出始めていたからだ。そして、奥歯に物が挟まったような言い方で、「燃料棒が溶けている可能性もある」といった不安な情報が出始めて、気が重くなっていたからでもあった。

私は、放射線Q&Aを、中野さんとメールでやり取りして必死でまとめているが、しばしば筆が止まる。それは確実なデータが分からないからだ。

ちょうど「半減期って?」というところを書ききれないでいたのである。正確なデータが欲しい。そう思ってみても、どこにも発表されていないのである。実は、この「半減期って?」の解説の後には次のような文章を思いあまって書いていた。しかし、中野さんと相談して、「主観が入っているのと、避難めいているので、カットしよう」ということになった。しかし、やはり、私個人の責任で紹介することとした。


半減期って?」につけたそうと思った文章

「そうそう、言っておこうと思っていたのだけど、今日(4月30日)気が付いたのだけど、福島原発の近くでの放射線測定では、核種の同定までやってますね。やっとサイトを見つけました。」

「なかなか見つからないのですか?」

「そうなのよ。3月29日のニュースでも

福島原発のニュースは日々刻々と報道されている。
東京電力は東京電力福島第1原子力発電所のモニタリングで30日、福島第1原子力発電所の南放水口付近で、国の定めた基準値の3355倍となる放射性ヨウ素131が検出されたと発表した。これまでに海水から検出された中では最も高い値となる。セシウム134は529.2倍の値も検出されている。サンプリングは29日の海水の模様である。プルトニウムについては検査していないためか発表はされていない

とあるのだけど、いったい数値はいくらなのか、基準値とはどういうものでいくらなのか、それを書いてないのよ。あちこち探してやっと見つけたのが、「海水核種分析結果」(3月29日 8:40分, 3月29日 10:15分)でした。やっと、3月22日から出始めたようですね。

これによると、3月25日の北放水口付近のヨウ素131の数値は確かに出ており、

 

とあります。基準値は

 

とありますが、そうだとすると、ちょうど1225倍になります。

この値、実は、今までの食品とはまた単位が違います。あたりになっているのです。それで1リットルあたりに直してみると、水1リットル当たりのヨウ素131の放射能は、4900Bqです。ところが基準値は、40Bqです。

この40ベクレルという基準値は、なんなのでしょうね。だって、飲み水の場合のヨウ素については、1リットル300ベクレルらしいから・・・(WHOの飲料水ガイダンスの203~204ページ参照)。

3月17日までの日本の基準値
ヨウ素(I-131) 10ベクレル(Bq/L)
セシウム(Cs-137) 10ベクレル(Bq/L)

飲料水基準がないため、WHOの基準を採用していたらしいのよ。食品についても同じ基準を採用しており、「基準値を超える物は輸入させない」というものでした。(例:愛知県衛生研究所 2006/04/28

ところが、3月17日以後は違うのよ。

3月17日以降・現在の日本の暫定基準値
ヨウ素(I-131) 10ベクレル(Bq/L)
飲料水 300ベクレル(Bq/kg)
牛乳・乳製品 300ベクレル(Bq/kg)
野菜類(除:根菜、芋類) 2,000ベクレル(Bq/kg)

 

3月17日以降・現在の日本の暫定基準値
セシウム(Cs-137) 200ベクレル(Bq/L)
飲料水 200ベクレル(Bq/kg)
牛乳・乳製品 200ベクレル(Bq/kg)
野菜類 500ベクレル(Bq/kg)
穀類 500ベクレル(Bq/kg)
肉・卵・魚・その他 500ベクレル(Bq/kg)

よくわからないのです。ご存じの方は一報ください

そこで、新聞記事にある南排水口付近の数値をインターネットで調べてみても、出ていないのです。確か、「数値を間違った」というようなテレビ放映がありましたね。その時ヨウ素135とか134とかいっていたので(そんなものが出てきているのかな???)、違和感を覚えたのですが、調べようと思っても、出てこないのです!

南側の方が大きな値なのですが、一覧表はないのです。不親切にも、ホームページにきちんとしたデータ一覧表がなく、いちいちアドレスの中の日程を変えて調べました。どうやら、南排水溝のURLは最後がc、北はgとなっているのです、仕方ないので、南側のアドレスの日にちを変えて30日のデータを見ようと思ったのです。そしたら、変なのです。北側のデータがそこに書き込まれています。訳が分かりません。「しょうがないな、人の時間を無駄遣いする気なのか。隠したいので、分かるように書いてないのか?」。時間ばかり食って、ちっとも正確なデータにたどりつけないのは、本当に消耗でした。(どなたか、わかった人はよろしくお願いします。)

また、調べてみると、1Fダスト核種分析結果にも、ヨウ素135や134はありません???何を測ってそういう間違いをしたのかなあ・・・。

まあ、こんな調子で、正しい情報を得るのに、とても苦労している。それでなかなか筆が進まない。マスコミは、「大丈夫な水準」というが、それをきちんと数値で示さないから、みんなが「隠しているのか?」「いったい本当はどうなのだ?」「ウソをついているのかな」と疑心暗鬼になっているのである。分からないとまずます不安になる。何を信じたらいいのか、わからなくなる。どの程度のリスクなのか、この状態はいつまで続くのか、それがわからないと、安心できないではないか。どうして正確な情報を流さないのか。

そもそも、水素爆発が起き、危機的状況になった時に、「この状態はすぐに収集するのか、いつまで続くのか」という正確な情報を流さないまま、避難地域を指定し、自宅待機を指示した。

「当面、大丈夫」というメッセージについては、どの程度安全を見積もるかという評価については、今、専門家の間でも意見がさまざまである。しかし、はっきりしていることは、この状態が長く続くという情報を隠していたこと、今頃になって、やっと長期間続くことを発表したことだけは、周りで意見が一致しており、批判的である。これだけは科学者の間で共通している。

現在の放射線の拡散の度合いについては、医者と私の周りの物理学者とでは、評価が違う。この差は、宇野さんと話してよくわかった。人間の体には、修復力が備わっている。大人にとってはたいしたことはない、それは今の線量の場合、かなりの確率で言えることかもしれない。もちろん、原子炉の現場で働いている方々はこの限りではない。放射線管理をきちんとやって、仕事をするのは当たり前だ。しかし、そこからかなり離れた市民への危険度については、意見が分かれる。今のところ大したことはない、と思う人もいれば、少しでも危険には近付きたくないという意見もある。そのどちらかについては、個々人が、正確なデータを知って、リスクを考えたうえで判断せざるを得ない。それは例えば、煙草の害を知りつつ、リスクが増えても吸い続けるかやめるか、といった判断と似た面もあろう。少しでも、がんのリスクを少なくするのなら、煙草はやめるに越したことはない(煙草をやめたため太った人がマラソンをして、心臓に負担がかかり死亡した例もある。)

そういう中、テレビで、ある妊婦が、「この自宅待機の中で、私はここで子供を産みます。そして頑張って育てます」という手紙を読みあげ、感激した顔をしたアナウンサーがいた。私は、ぎょっとした。自宅待機が数カ月も数年も続くということは、少なくとも、情報をしっかり把握しているのなら、その段階で明らかだったのではないか。なのに、「今のところ大丈夫」と言って閉じ込めてどうするのだ。いざという時にどうしろというのだ!

この主婦の気持ちは健気であっても、科学的ではない。真実を知って同じ気持ちかどうか、それは分からないではないか。

むしろ、これからどれだけ続くのか、それの方が問題だったはずである。発育盛りの乳児や幼児のために、そしてそれを不安げに見守っているお父さんやお母さんのために、これだけはしっかり伝えてほしい。風評が立つのは、真実を語らない側の責任である。