2017年08月21日

生物は季節の気配を感じるか? ― 中西さん最後に語る(ブログ その43)

1.まえおき

ブログ その37で、中西さんの事を書きました。その後、科学に関する会話や科学教育のことを書くつもりだったので、そのうちの1つ、タイトルのようなお話を紹介します。
今回からは、科学の話題は、新しくできた「基礎科学研究所」のホームページ「科学の散歩道」に載せることとし、詳細に立ち入らないお話をここで紹介することとしたいと思います。退屈しないでくださいね。

ついでながら、ちょっと紹介です。
「基礎科学研究所」のホームページには、このほかに松田卓也さんの、WEB小説も連載が始まっています。
「小説を書くのは難しいな。それは人物が描けないからなあ」と松田さん。「私も同じだわ」と私。
でも、第1回の文を読んでみると、うーん、なかなかな文才ですね。それに松田さんのひらめきがすごいです。わー、惹きつけるものがあります。かなりお正月に書き進んでいるってことですので、次々出てくると思います。次が楽しみです。どうぞご覧になってください。

松田さんのWEB小説は「世界征服の夢」だそうで、私は、「征服」ではなく「世界がなかよし」の夢を書きたいなあと思っています。そして、世界を変えるには、ポスドクを活用して、定年科学者を活用して、新しい夢を実現するというような・・・、そして、科学が面白くなるような・・・そんなのが書きたいな・・と今構想を練っています。

2.2009年8月 中西さんとのメール交換より

「ちょっと変わった質問なのですが、教えてもらえない?」と、久しぶりに中西健一さんにメールで出したのは、2009年、彼が亡くなった年の8月でした。
お返事に、「私は、再発・治療のため入退院を繰り返し、現在は小康状態ですが、通院治療中です。ご質問の件、私で分かることでしたら何なりとお尋ね下さい。ご遠慮なく。私自身も闘病するなかで、がん治療の実情とQOL(Quality of Life)についていろいろと考えることがあり、ぜひ一度坂東さんとお話したいと思っていたところです。」とありました。
中西さんは、肝臓と小脳の手術を受け、「益川さん受賞のニュースを聞いたのは病院のベッドの上でした」というメールがきたのは少し前でした。それでも、京大の素粒子研究室の若手が集まった益川さんのノーベル賞受賞のお祝いの会には中西さんも参加できたようなので、ホッとしていました。
「大変ラッキーなことに手術は両方とも成功し、病巣は一応なくなりました。いまは再発を抑えるための化学療法を毎週受けています。しばらくはちょっと凹んでいましたが、QOLと免疫力を高めるためにも、明るく前向きに毎日を送ることが大切だと悟りました。なので、是非また物理の話に参加させてください。お目にかかるときを楽しみにしています。」ということでしたから、その時は、そんなに深刻でもなかったと思っていたのですが・・・。

3.生物は季節を感じるか?


坂東 → 中西

実は、質問というのは、「生物が季節を感じる」という話です。というのは、神戸大学の女性研究者のメンターをやっていて、相談にのったのが、植物学の専攻である女性研究者でした。彼女と話していたときに、「生物って季節の気配を感じるのだとみんな言ってます」というセリフが出てきました。部屋に光が入らないようにして温度を調整しても、各々の季節を感じて育ち方がちがうというのです。
「温度と可視光線だけを調整しても季節の環境を全くなくしたことになっていないのではないの?だって、みえないとけれど、部屋の外側の温度を反映した赤外線は入ってくるし、太陽光の中でも見えないところの成分にどの程度生物が敏感なのか、それをはっきりさせないといけないんじゃないの?」といったら、そんなことを考えたことないというのです。そうだとするとちょっと調べてみる価値があるような気がします。たしか、中西さんが植物の赤外線の照射についての研究をしておられたと思うのですが、何かこういうことで、どの程度調べられているのか知りませんか。

中西 → 坂東(2009年9月)

「生物が季節を感じる」という話ですが、面白いですね。生物学や生態学では「フェノロジー(phenology)、生物季節」などといいますが、それぞれの生き物が出芽や展葉、開花、繁殖行動などを四季の変化に応じてコントロールしていることをさしています。「桜前線」や「発情期」などという現象からわかるように、どの生き物も自分の生理活動のタイミングを、外部環境の何らかの変化を感知して自律的に制御しているものと考えられています。一般には気温や日照量などが基本だとされていると思いますが、ほかにどんなシグナルに反応しているかや、どんなメカニズムで制御されているかなど、詳しいことはほとんどわかっていないと思います。


議論の続きは、基礎科学研究所ホームページ「科学の散歩道」内の「フェノロジ ー ―生物は季節の気配を感じるか?」を見てください。

4.2009年10月26日の記録

物理学からみると、生物の環境については、思いもかけないことが関わることもあるから、複雑だなあ、で話は終わってしまいます。中西さんと話していると、本当に知的刺激を触発されました。こういう話をすると、すぐに、これだけ幅広く視野を持った返事が来るのです。いつも、その本質的な部分に焦点を合わせて、議論ができる生物学を手掛けている仲間がいることはとてもうれしいことでした。

西さんと、そのうちに、また、議論を深めよう、そう思っていた矢先でした。

10月24日、新潟大学の伊藤さんから、中西さんが後1カ月も持たないと電話がありました。私は、すぐに、中西さんに電話してみたのです。伊藤さんの言葉に、どうしても、直接中西さんに電話したくなり、失礼だと知りつつ、とにかく電話してみました。そしたら(中西さんの言葉を借りれば、中西さんの妻君の)真由子さんがでてこられ、そしてすぐに中西さんにつないでくださいました。病院にいる中西さんの元気な声が聞こえてきました。「議論を楽しみにしているんですよ。また議論したいなあ」といわれるので、「じゃあ、来週にはいけるので、大いに議論しましょう!」といった。

しかし、私が行く間もありませんでした。その翌々日の朝早く、彼はみんなを残して、そして、たくさんの議論を抱えたまま逝ってしまいました。