2017年04月29日

科学を志す女性へのメッセージ(本の紹介)(ブログ その36)

つい最近、秋山繁治先生(ノートルダム清心学園清心女子高等学校)から、女子高校生へのメッセージとして何か本を紹介してほしいというメールがありました。
この高等学校は、理系女性進学支援を課題に取り組んでいます。女子高校生に焦点を当てたSSH(スーパーサイエンスハイスクール) 事業を行っている学校で活躍されている先生です。

生物がご専門で、いつか、女性研究者の会:京都と京都大学女性支援室との共催で行った「性差研究会」を行いました。その際に、生物専攻の京大生(聖心女子高校の卒業生)と一緒においで下さった先生です。
その時の話題は、PISAの国際学力テスト(松下佳代 女性研究者の会京都事務局長)と日本の塾の模擬試験の結果(早川尚男京都大学基礎物理学研究所)をご報告いただいた後、いろいろな議論の交換を致しました(2009年1月)。
宇野賀津子理事は、生物関係のご専門でもあり、このSSHには何度も足を運ばれ講演などをなさっています。

私自身は愛知大学では、科学全体をカバーする内容を一般教育の講義「生命科学と現代社会」を受け持っていたので、SSHで取り上げられていた酵母にはとても興味がありました。講義では、生物学と医療との連携が深まったパスツールの仕事を紹介していました。今で言えば、生物化学の分野に当たるのでしょうが、そこから細菌の発見に至る画期的な道筋は目を見張るものがあります。
病気の原因が、初めてパスツールの鋭い本物を見る目から明らかになったのですから。その分析力は、「医者が生物学の実験などやる暇があるのなら、もっと患者を診てくれ」といった批判をふっ飛ばし、基礎科学が発展してこそ、医療も進むのだという事を説得的に示したのでした。

また、大学の講義では、「性の分化」について話すのに、ゾウリムシ・大腸菌・ミジンコの例で話していました。
特に、1980年、レーダーバーグとテイタムが、 大腸菌にも性の存在が認められるという実験の話は、大変学生に受けます。考えてみれば、ゾウリムシこそわざわざ高橋美保子さん(猿橋賞受賞者)の実験室で見たことはあるのですが、大腸菌もミジンコも、実物を見たことはありません。
高校で、酵母を使って実験できるのは幸せだなあ等と思っていました。21世紀は、科学界で女性のほうが多くなる可能性もありますね。生物関係は女性が好きな科目の1つです。その多様性と豊かさ、生きているものへの興味をそそるいろいろな謎がまだまだ沢山あるのですね。

さて、ちょっと話がそれました。この時紹介した本を2冊、ついでながらここで、もう少し詳しくご紹介します。ヴィクトール・E・フランクル著「夜と霧」新版(池田香代子訳)「五千万人のヒトラーがいた!」八木あき子著(文藝春秋)

「夜と霧」の日本語版は、1956年に初版(霜山徳彌訳)がでていました。新版に初めて出てきた「ユダヤ」という言葉の意味を、訳者はしっかり受け止めています。著者は、心理学者であり、囚われの身でありながら、収容所での人間の行動を客観的に洞察しています。
そこから私が最も印象強く受け止めたのは、最後まで強く生き残るのは肉体的な強さではなく、精神の高さ、生きている限り学び希望を見出すことのできる精神の強靭さであるということでした。インテリとは何か、学ぶことの深い意味がどこにあるのか、それを強く印象づけられました。
でも、今回は、別の視点から、私は著者の主張に共感しました。それは、「被収容者と収容者」という異なった視点からの見方です。

「収容所の囚人の中ら選ばれた監視者が、他の囚人に対して、心理的にこんなひどいことができるのか」という問いかけがそこにあります。収容所の監視塀の中には、被収容者の中から選り抜きの監視隊を編成するのですが、この時、人間として劣悪な順に選ぶのだそうです。この人たちは、ナチ親衛隊よりはるかに残酷な仕打ちをするのだというのです。
これと対比するのが、八木あき子著の「5千万人のヒットラーがいた」です。この中で、デンマークの国民がナチに対して抵抗し記録がそこにあります。そこでは、「どうしてデンマークの国民がそれほどまでに人を思いやることができたのだろう」という問いが出てきます。

この2つを読むと、私たちは、収容所監督者(ナチゲシュタボ)と被収容者(被害を受けたユダヤ人)の2つに分類して、片方は悪人ばかり、片方は善人ばかりというようなわけにはいかないことをつくづく感じます。
「全体として断罪される可能性の高い集団にも善意の人はいる。境界線は集団を超えて引かれるのだ」という著者の言葉の意味をもう一度考えさせられます。

私たち「ヒト」という(亜)種は、助け合いながら、お互いに啓発して未来の希望を求めてともに協力し合えます。もちろん、動物にも本能を拡張した「種の保存」という行為、利他的行為は見られます(ハミルトン)。
しかし、ヒト特有の知能の発展形である「向上心」「未来への希望」が、人と人との連帯感を強め、お互いに協力して未来を創造するという新しい「高度な知的営み」を可能にするのではないでしょうか。特に科学の世界では、「真理を明らかにする」営みの前には、人は皆対等平等であり、敵も味方もなく、男も女もありません。

女性研究者支援もわがNPOの目標の1つです。
そして、その科学という活動に女性も参画できるために、女性科学者の先輩たちは、分野を超えて協力する中で、お互いの学問の交流も成し遂げてきました。人間だけが持つ知性の素晴らしさを、この2つの本から読み取っていただければとてもうれしいです。