2017年05月01日

可視化実験室だより その1(ブログ その31)

1.始まった新しい共同研究

2010年1月から当NPOの京都府の委託事業が始まりました。もちろん、開始前の準備作業は採択が決まった瞬間からです。ともかく、理事(準備)会の開催も事務所も、坂東宅でした。この事業がとにかく可能になったのは、それまでいろいろな形で、映像技術を駆使した教材づくりや、ポスドク雇用でお世話になっていた小山田教授との協力関係があったからです。なにしろ、NPOとして初めての事業であり、何もないところからの出発で、最初は戸惑うことが多く、全精力を事業運営のために注ぎました。
正式に雇用体制が決まったのは、この4月でしたが、やっと、仕事が軌道に乗ってきたと言えるでしょうか。京都府の委託事業が1月から始まったというのは、学期を単位とする雇用の多い現状ではちょっと時期が悪かったと思います。こうした事業の多くが、初年度の開始時期が予算の都合で決まるのも、大変苦労が多いのです。改善してほしいところです。
当初の3か月(2010年1月17日から3月31日まで)は、雇用者を決定することや環境を整えるために多大な時間を費やしたと思います。考えてみれば、理事長である私の家が事務所であり、雇用したスタッフが仕事をする場も確保できないまま、我が家にスタッフが来て仮仕事を始めるという始末でした。やっと、4月からスタッフの陣容が落ち着いたというところです。小山田先生との共同研究の形もきまり、共同研究室として使わせていただく可視化実験室での活動も実質的に動き出しました。

2.事業の概要

この事業の概要説明書に沿って簡単に説明しますと、まず、事業名 「ポストドクター(ポスドク)及び即戦力中堅技術者を活用した、ICT(情報通信技術)教育システム及びICT教材の開発・普及に関するビジネスモデル構築」です。
ICTの発達により、ネットワーク社会が実現し、教育のスタイルも「居ながらにして学習可能なeラーニングサービス」が普及し始めているとはいえ、現在、英会話や情報通信技術者向け等、ある意味で、「トレーニング」中心のコースには、ある程度普及してきたとはいえ、今日の多様化する教育ニーズに応えた教材はまだまだ出遅れているという状況です。
私たちは、論理的思考力、分析力、ICT能力の優れたポスドクと即戦力中堅技術者を雇用して、新京都ブランド産業分野に効果的・効率的なICT教育システムと、需要の高いICT教材の開発・普及を図る新たなビジネスモデルを構築したいと考えました。そして、次世代のICT教育モデルを京都から発信できるような、質の高い優れたe-learning 教材を中心として、科学教育、科学普及のための活動を活性化したいと考えました。
科学教育といっても、実は子供から大人まで、対象の幅は広いと思われます。どこから始めるか、難しいところですが、さしあたって、小学校の理科実験が増え、理数教育の強化が1つの課題になっているので、小学校理科の先生方が、すぐにやれそうな理科の実験教材に重点を置くこととしました。リアルとバーチャルを車の両輪とする科学普及と科学教育の質の発展を目標とする「教育機関や企業教育に向けた公益性の高いICT教材開発」の企画(教材内容の詳細、担当講師、教材開発体制、実験・実習の内容、動画撮影と解説の構成など)することとしました。この中身については、できるだけ、現場の需要を調査・分析して決定することとして、活動を開始したのです。
なにしろ、この事業期間は1年間、その短い間にいろいろな企画を進めなければなりません。

3.スタッフの紹介

まず、スタッフを紹介いたします。
常任スタッフとしては、プロジェクトマネジャー、石尾さん、松林さん、それに、1週間に1日だけですが、前さん、それと事務を引き受けてくださっている高橋さんがいます。
石尾さんは、京都大学工学部電子工学科を卒業した後、理学研究科で、ミクロとマクロをの中間的領域、メソスコピックな系のカオティックな振る舞いを研究され、量子カオスの研究で博士号を取得されました。きちんとした仕事をされ、責任感が強く、このプロジェクトの全田をスムースに運ぶように頑張っておられます。また、当NPOが京都府のプロジェクトを終えた後にどうすべきかまで、考えて行動しておられます。学問的業績もあり、人柄もよく、みなさんをまとめてくださっています。
松林さんは、この4月まで、小学校の理科専任の先生でした。小学校で理科が専任というのは珍しいことですが、大変人気があり、子供たちに好かれ、理科好きの子供をたくさん育ててこられた方です。ベテランの先生です。京都大学理学部と共催で行っている「親子理科実験教室」での先生として活躍してくださっています。子供たちは松林先生が大好きのようです。ギャグが多く、みんなを笑いに巻き込み、松田室長まで近頃はギャグを頻発です。
前さんは、こつこつと自分の仕事をきちんとやり、着実な仕事をするポスドクです。科学教育に大変関心があり、教材づくりや録画など、熱心に取り組んでいます。理科の教材をいろいろなところから集めて、けっこう情報通で、その成長ぶりが期待できます。
高橋さんは、長い間京都大学の事務職で働いてこられた方です。その正確な仕事ぶりには、信頼感があり、判断が的確で、事務一般をきちんと処理してくださるので、とても頼りにしています。学内に沢山の知り合いがあり、ネットワークが広いので、必要なノウハウが分からない時も、しっかりサポートしてくださいます。定年後、キャリアサポートセンターでお仕事をしておられ、キャリアカウンセラーの資格も持っておられますので、いつも温かくみんなを包んで、見守っていて下さるという感じです。積極的に、NPO法人のあり方なども、講習会に参加して、地道にノウハウを獲得してくださっています。

4.大阪大学CLIC

以上のような、素晴らしい陣容ですが、その上、実は、私たちの研究室に、もう一人常任の腕利きが一緒に仕事をしています。経緯は次の通りです。
3月16日付で、当法人に、大阪大学産学連携推進本部の吉田耕治先生から連絡があったのです。「大阪大学では、文部科学省のプロジェクト「協働育成型イノベーションリーダー養成」事業(略称:CLIC)を推進しております。これは、企業等でのインターンシップをコアに各種の座学を組み合わせ博士人材のレベルアップを図ろうという取り組みです。」というご紹介の後(詳細は、Webサイトをご覧ください)、「今回の具体的なお願いは3ヶ月間のインターンシップを貴社にて受け入れて頂けないかということです。被養成人材につきましては本学の特任研究員として雇用し貴社へ「派遣」する形態をとります。従いまして、給料、旅費交通費等は本学の負担となります。貴社にお願いしたいことは、指導者のアサイン、活動場所の確保、勤怠管理です。」として、「インターンシップを希望しております本学理学研究科の上田倫也」だと記されていました。貴社と言われたのは初めてでしたが、ちょうど立ち上げの時期で、リーダー育成のいい訓練場になるだろうと、受け入れることにしたのです。
こういうプログラムが動いている事は知っていましたが、当法人を希望してくれる人がいることで身の引き締まる思いをしました。受け入れるからには、これからの養成プログラムを立てることが必要だと、こちら側で建てた計画書も準備しました。
その後、吉田先生に連れられて上田さんがやってきました。科学教育にとても興味を持っており、関連企業に就職したいという希望があるということでした。打ち合わせや契約書などの取り交わしがすんで、実際に来られたのが4月半ばでした。上田倫也さん(大阪大学理学部ドクター3年生:D3)は、「教材づくり」の仕事を修業ということで、3か月間(4月中旬から7月中旬まで)加わってくださっています。上田さんも「科学教育」に大変関心があり、なかなかの論客で、腕もたち、すぐに皆さんに溶け込んでバリバリ仕事をしています。上田さんは教材についても、大変いい提案をしてくださり、「親子理科実験教室」ででた、いろいろな質問にきちんと対応すべきということで、自ら進んでホームページで、Q&Aのコーナーを立ち上げることを提案しました。そして実際に、この提案は受け入れられ、すでにいくつかの質問の答えをホームページに載せていますが、これらは、上田さんの貢献のおかげです。子供に対する回答も、とても丁寧で、よく考え抜かれたもので、感心しています。
大阪大学のCLICプログラムは、大学院生・ポスドクが視野を広げたり、新しい職域を開拓したりするのにとてもよくできたプログラムだと思います。CLICは阪大所属の人だけを対象にするのではなく、どなたでも応募できますので、皆さん、これをうまく活用して社会に開けたご自分の道を探すのに、志のある方は応募されてはどうでしょうか。

5.最初の教材「地球はなぜ温かいか」

私たちのプロジェクトでは、ともかく、短期間の間に完成まで持っていかなといけません。いくら急ぐ仕事とはいえ、やはり「知的人材ネットワーク」が作るのですから、内容のあるニーズの高いものを作ることを始めることが肝要です。
まずは、3月までに、「地球はなぜ温かいか」という教材を、学校教員を含む社会人向けの環境教材として作成しようということになりました。
この題材は、「地球温暖化」というタイトルにはなっていません。私たちの基本的な考え方は、「地球の温度を決めている最も基本になる概念」を明確に理解するための教材を作りたい、ということでした。
実を言うと、この仕組みが胸にすとんと落ちるように分かる教材は、殆ど見つかりません。私自身、愛知大学時代に、授業のための準備をしていて、「どれを見ても納得のいく全体像が描けないなあ」という不満がずっとありました。それは、もちろん、地球環境は複雑で、いろいろな要素が沢山重なりあって、そこから本質を見つけるのが難しいからでもあります。しかし、宇宙の初期の構造だって、いろいろな要素が重なり合って、現在にいたっているわけだし、その上、宇宙の始まりは、誰も目前で経験したわけではありません。一度しか起こらない事象の蓄積の中から、本質を見つけ出すのは科学の仕事です。
しかし、できるだけ簡単に、一番本質をついた理解をするには、単純化したモデルが必要です。それがないのです。そしてたどり着いたのが、西村肇先生の書かれたHP上の短い論文でした。そこには、見事に本質を抜き出した模型がありました。これについても長くなりますので、いつかご紹介することとして、ともかく、このモデルに基礎をおいた説明を心がけたのが、今回の教材です。ここではエネルギー収支(足し算引き算のみ)と、1つだけエネルギーと温度の関係(難しく言うとステファンボルツマンの式)だけを使った計算した答えを書いてあります。それでも、ステファンボルツマンの式を説明するのはどうすればいいか、絶対温度を説明するにはどういえばいいか、など熱と温度、エネルギーの関係をわかってもらう為の議論を、ワイワイやりました。しかし、ともかく、世界で一番単純な説明(?)を西村先生の論文のおかげで作り上げられたことは、大変満足しているのです。
もちろん、私たちは、環境問題をないがしろにしているわけではありません。マスコミで大きく取り上げられ、IPCCレポートや地球環境問題のさまざまな側面からの問題提起がなされている中で、まずは、その基本になる論理を整理しようというものでした。
そして、最初のタイトルは「地球温暖化」としたのです。しかし、それを整理する中で、「それより、大気がなかったら、そもそも、地球の温度は平均何度くらいになる筈なのだろう」ということを、最も簡単化して、そのエッセンスを伝える事が大切だ、という議論になりました。地球の温度を決めているのは、入ってくるエネルギーです。この主要なパートを占めるのは、もちろん太陽光です。それで、そのエネルギーが地球を暖めるとして、単純に計算すると、地球のエネルギー収支はほぼ釣り合っているわけですから、温度はほぼ摂氏-20度になります。「太陽から入ってくるエネルギーが結構温かいのに、どうしてそんなに寒いの?」と思う人があるでしょうね。そこの感覚から押さえておく必要があるのです。
次に、地球の平均温度約摂氏20度ですから、どうしてそんなに温かいの?ということになるのです。それには、地球の大気が大きくかかわっています。これを理解するところがまずは基本なのですね。
興味のある方は是非、近いうちに公開する私どもの教材「地球はなぜ温かいか」をご覧ください。私たちは、この教材は、大学初年次教育や大人の科学としての、絶好の題材だと思っています。

6.4月以降のプロジェクト

4月以降は、小学校の理科教材開発を本格的に開始しました。これは、小学校での理科教材を作ることが今、緊急の課題だという認識から来ています。今年度から、小学校で理科の授業が増えました。それに対応して、どんな題材でどんな機材を使って、実験すればいいのだろう、と戸惑っておられる先生方も多いと思われます。
なかでも、一番分かりにくいのが、電気磁気のテーマであす。この題材は、日常生活に深くかかわっているにもかかわらず、実際には直接目に見えないので、どうしても分かりにくくなっているのです。そこで、3年型6年まで、また中学校へと一貫した形で、全体像がつながっていくよう工夫しようということになりました。
親子理科実験教室で、開発した機材や、これまである優れた器材を使いながら、実験をし、その中で改善すべき点があればどしどし、改良しながら、教材も作成して以降、ということで、「理科実験教室」も「電気磁気」を取り上げることとしました。
この準備を通じて、私たちは面白いことをたくさん発見しました。なかには、大学の教科書でさえ、明確でない論点も出てきて、毎日、侃々諤々の議論をしています。第1回目の話題、電気についても、電流を可視化した形でのモデルとして水流を使うことの、メリットと限界も認識しました。磁気の話では、磁石そのものの性質を、原子レベルからしっかり考えておく必要も感じています。磁石は本当に魔法のようですね。ここでは、子供たち自身が、豆磁石になって、実験してみるという新しい方法も取り入れました。
これについて語っているとますます、話が大きくなりここでは書ききれません。今、私たちは、1回1回の実験教室での、ご質問に答えながら教材の作成にも力を入れています。間もなく皆さんにご紹介する時が来ると思っています。

7.可視化実験室へのお誘い

さて、この事業を支えるスタッフとして、もう少しご紹介しておきたいと思います。まず、担当理事である松田卓也さんがいます。彼は現在ジャパンスケプティクス学会長でもあり、科学の目でいろいろな現象を批判的にみる目は、大変興味深いものがあります。私たちは、研究室長は松田卓也理事だと思っています。毎日、松田室長の提起する科学の問題を、ワイワイ議論しているのです。
次に、雇用契約や労働契約、就業規則をはじめ、委託契約など、整えなければならない書類も、当NPOの事業という特殊な条件の中で実情に合わせて作成が必要となり、それらとホームページ管理を含めて引き受けている事務局長が、私たちの活動の計画性のなさや、見通しの甘さ、労働契約等の不履行に目を光らせてチェックしてくれています。
それから、それから、当NPOの会員として協力を申し出てくださり、ITのハードもソフトも含めてケアしていただいている市川さんが時宜に応じて来室してくださっています。その様子は、一部、松田室長のブログにもありますが、予算の少ない環境で、壊れたハードディスクをよみがえらせ、IT環境を整えてくださり、さらに研究活動にも参加いただいています。
また、これは余談ですが、コンピュータのソフトとしてオフイス(ワード、エクセル等)を買う予算がないので、オープンソフトを代わりに使っていました。これの方がはるかにオフイスより安いのです。しかし、一番困ったのは、申請書をかくときです。スタンダードのソフトを使わないと、微妙に線や文字の間隔などが違ってきてはみ出したり、再調整をしなければならなくなり、てこずりました。こういう話を聞いていた上田さんは、自分のオフイスのはいったノートパソコンを、市川さんは、動画編集や高度のソフトのはいったラップトップのパソコンを、「置いておきますのでいつでもあいているときは使ってください」と貸してくださいました。この度、やっと予算をねん出して事務用のオフイスが入ったパソコンを購入したところです。
それから1つ付け加えておかなければなりません。3月までという条件で、事務の仕事をしてくださった野田さんが、カンパしてくださり、研究室にコーヒーメーカーが入りました。ときには、香り高いコーヒーの香りが漂っている今日この頃です。
さて、運営をスムースにするためには、打ち合わせや確認事項がきちんと徹底している必要があります。そこで、上記の関連するスタッフ全員で、週に1回、スタッフ会議をもち、仕事を点検しながら仕事を進めています。5月に起こったホームページの不正アクセス事件には、事務局長、関係する担当理事を含め市川さんにも応援していただき、なんとかクリアしていただきました。いろいろな方々のご協力で、ここまで来たのだと思います。
可視化実験室には、多くのお客様があり、その数はすでに100人のオーダーになっています。それは1つは大学内に研究室があるので、近くに来たからと立ち寄って、いろいろな論議に花を咲かせてくれる方もいれば、ポスドク問題や教育問題で立ち寄られる方もいます。情報の宝庫ともいうべき沢山のお話をさせていただき、改めて、ネットワークの大切さを実感しているところです。実験室を訪問される方は、まず、情報メディアセンター地下への階段を下りて頂きます。「あれ?どこなのだ?」と思われるかもしれません。階段を下りて右にいくと、廊下の奥の右側が、物置場とゴミ捨て場が一緒になったようなところがあります。そこまでくると、「え?このゴミ捨て場が研究室?」と思うかもしれませんが、今しばらく奥に行くと扉があります。そこが「可視化実験室」です。思いもかけず「秘密の基地」があるとびっくりです。この「秘密基地」のようなミステリーにみちた部屋、それこそが私たちが共同研究で集まっているところなのです。
そこに入ると、素敵な沢山の笑顔に出会うと思いますよ。そこには、ノートが置いてあり、訪れた方々は、そのノートに書き込んでいただくという習慣が定着しています。

8.共同研究への道

小山田研究室との共同研究を進めるためのミーティングも週1回実施しています。小山田教授をはじめ、坂本先生、事務的なサポートをしていただいている木岡さんを含め、時には、お客さんも交えて、「可視化技術の将来」などを語り合ったり、当面の仕事について話し合ったり、京都大学の初年次教育についての構想を練ったりしています。
教材づくりのためには、「ICT教材企画会議」をSEネットの藤原さん、山下先生。川村先生、ときにサイエンスクラブの加藤さん、金沢電子出版の鈴木理事、森理事などのご助言を受けながら、ネットワークを広げています。

以上のみなさんのお話は、これだけでは書ききれないほど沢山あります。それはおいおいこれからも、自己紹介を含めて、ご紹介していきます。
どうか、ご関心のある方、議論をしたいと思われる方は、一度、可視化実験室をおたずねください。お待ちしています。

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NPOあいんしゅたいんは、京都大学小山田教授(高等教育研究開発推進センター)との共同研究を開始し、以下の実験室で仕事をしております。終日の午前10時から午後5時までは、いつでもだれかおります。お気軽にお立ち寄りください。大歓迎です。
場所は、京都大学学術情報メディアセンター 北館(〒606-8501 京都市左京区吉田本町 TEL:075-753-7471)