2017年09月25日

木谷宝子さんとの出会い・・教員免許更新講習会を通じてのネットワーク(ブログ その9)

先だってのことです。「12月の教員免許講習でお目にかかった、木谷です。お久しぶりです。薄給の2か月分ほどを費やし、やっとパソコンを買いました。」ということで、メールをいただきました。

「講習会の試験結果が届きましたが、96点でした。出題されていた部分の講義内容はわかりましたので、完答したつもりでおりました。どこで減点されたかわからないので、それが割り切れない気持ちでした。」メールが来ました。確か、講義を補足するようなコメントもなされ、講義は完璧に理解したであろう木谷さんのことを思い出しました。理解したというより、それ以上に、きちんと把握しておられたと言うべきでしょうか。まあ、私にしてみれば、120点満点くらいとも、思えた方でした。講習会では、環境問題を論じたのですが、そこでオゾンホールに関連して、「紫外線は、生物の皮膚を貫通して細胞の中にあるDNAにあたってDNAを破壊するので、危険なのです。」といったところ、「その言い方はあいまいだ」といわれ、紫外線がDNAの、ピリミジン塩基(シトシンまたはチミン)が2個連続した場所で特徴的なDNA損傷が発生するそうです。これは研究に携わり実験した方だろうな、と想像しました。ほかにもいろいろと、大変活発に質問され方でしたので、よく覚えていました。私は、授業のなかで、相互の交流し議論を大切にしてきましたので、「こういうコメントや質問は大歓迎です。」といって、とてもうれしかったことをよく覚えています。 

ところで、講習会場で、私が授業で使っている手作りのテキスト「自然科学資料集」を、参考のためのご紹介したのですが、それについて、木谷さんは、後で丁寧に読んでくださったのです。「物理分野は門外漢ですが、生物や環境に関しては講義する側ですので、気付いたことをお知らせしたいと思います。もちろん、もうお気づきで、単に改訂前の版だっただけかもしれません。いわずもがななことかもしれませんが、参考にしていただければ結構です。」といくつかの間違いを丁寧に指摘してくださいました。特に、木谷さんの生物学に対するコメントはなかなかのものでした。 

ここでは、沢山のコメントの中の1つ、DNAの説明のところ(p77表1ですが)をめぐってのコメントの部分を紹介します。おかげで、新しい発見ができました。

生物の設計図がDNAの長いテープに、たった4つの文字で書かれているというのは、人類の歴史の中でも、大変画期的な発見で、この4文字(頭文字をとってTCAGと記されている)3文字を単位とする20種類のアミノ酸を表しているのは、よく知られています。この詳しい情報は、私がこのテキストを最初に作った時に、どこかの古い教科書から取ってきたものを乗せたままになっていました。生物学の教科書は、次々新しい発見があり、例えば、それまで何の意味もないと思われていた3文字、TAAは、アミノ酸ではなく、連続文字の「打ち止め」を表す文字だったことが分かっています。ところが、私の教科書は古い情報のままで、暗号文字の対応表を、DNAの情報ではなく、mRNAの文字情報で示したままになっていたのです(mRNAの文字では、TがUに変わっているので、打ち止めの記号は、UAAです。ウワア試験が終わった!と覚えるらしいです)。

木谷さんは、「生物のDNAの塩基が「UCAG」になっているが、これは、正しくは「TCAG」です。アミノ酸の配列を決定するDNA」とありながら、表はUCAGの対応の表示になっているので、表題を「RNA」に直すか、表をTCAGに変えるかどちらかにすべきでしょう。」といわれました。ほかにも専門的な指摘がありましたが、ここでは省略します。

私の返事→「はい、ここは、間違って書いています。教えるときはいつもDNAとmRNAの違いを言っています。設計図を使うときは、DNAをそのままで使うのではなくて、DNAの必要な部分をコピーして運んで使うのよ、って・・・。「皆もレポート出すときに、原版を出してしまうと、事故があったとき、原版がないので証明できないでしょう?コピーを出して原版は大切にするんですよ」っていっているんです。

で、ついでながら、質問です。コピーするのに、なぜTをUに、つまり同じ文字(?)でコピーしないで、Uにかえているか、なのです。実は私自身がこれが不思議だったのです。生物屋さんにきいても要領を得ないので、誰もそんなことを疑問にも思わないのかと思っていました。ところが、木村資生の本だったかと思いますが、Uは水に溶けやすいとあり、これで胸にすとんと落ちました。つまり、使った後にトイレに流すみたいに処理しやすいのですね。これ、今でも正しいですか? 

それに対する木谷さんのお返事(2009年3月17日)

DNAとRNAの特徴を考えると、興味深いものがあります。まず、糖がデオキシリボースかリボースの違い、単に2’の炭素に付いているのがHかOHかの違いだけのようですが、この相違が重要。DNAよりもRNAの方が化学的に不安定で、2’と3’のOHの間の反応で、糖が開裂してしまいます。大学院時代の研究室(名大、分子生物、岡崎恒子さんの部屋)では、この差を利用して、DNA複製の途中の短鎖DNA(いわゆる岡崎フラグメント)をアルカリ処理して、プライマーRNAの部分のみを分解し、DNA部分は無傷の状態で調製していました。プライマーRNAの有無で、短鎖DNAの5’端がOH基になるか、リン酸基がついているかの違いが生じます。

DNAが安定な長い相補的二重らせん構造をとるのに対して、RNAは糖の部分がかさばるからか、化学的に安定性に欠けるからか、基本的に一本鎖です。分子内に、二本鎖部分を持つ場合もありますが、局所的です。ただ、近年注目されている、RNAi、(RNA干渉、RNA interference)は、dsRNA、二本鎖(double strand)RNAが引き起こす現象なので、分子内intra-のみならず、分子間inter-の二本鎖構造も存在すると考えられます。ただし、RNAの場合は鎖長が短い。DNAとRNAの塩基の違いの問題ですが、TとUと、さらにCとの関係が重要と考えられます。生体内でCの脱アミノ化が起こる確率はけっして低いものではありません。Cが脱アミノされるとUになってしまいます。もしも、DNAがRNAのようにAUGCからなるのであれば、もともとのUと、Cの脱アミノで生じた変異Uとの区別がつきません。しかし、実際はDNAの塩基はATGCなので、Uが存在すれば、Cが変異したものだとすぐにわかります。GCペアが、GUになり塩基対の誤対合となります。この変異Uを、ウラシル‐DNAグリコシラーゼが除去した後、修復すれば、変異は定着せず、DNAの塩基配列は保存されます。DNAは相補鎖が鋳型となるので、情報の維持に適しています。もっとも、生物はうまくできていて、修復の仕方はいくつかあり、これは一例にすぎませんが。ゲノムとして、RNAよりもDNAをもつ生物が多いのも、このように情報の安定性の違いから、納得できます。研究職を離れて、長い年月が経ち、教科書的知識に頼っております。最前線の情報には疎いことをお許しください。 

そうだったのか、名古屋大学の岡崎先生の所にいらっしゃったのか。そういう方々も、講習会に来られているのだ、と身の引き締まる思いでした。木谷さんが、大変好奇心の高い人で、分からないこと、納得できないことがあると、すぐに、質問や発言する積極性があり日本では珍しいタイプだなと思っていましたが、それは研究者として訓練を受け、科学の先端を切り開いてきた経験から来ていたのです。

後で分かったことですが、彼女はこの「なんでも筋が通らないと発言する」という性格のために、博士取得後、民間企業の研究所にいたとき、同僚達の処遇を改善してほしいと一言発言したために、結局、退職に追い込まれた経験をお持ちでした。で、子育てもあって、その後非常勤講師として高校の先生をしておられるということです。

こんな風に指摘してくれる方と、もっと前からお知り合いだったらなあと悔やむことしきりです。これから、教材作りをはじめますが、殆どは物理関係を主としています。でも、環境とか資源とかの話になると必然的に生命の話もしなければなりません。と言うかそこが面白いところです。こんなきっかけで、愛知大学の授業が始まった4月9日にお会いしお話しする機会を得ました。こういう風に講習会後もつながりができて先生方から、いろいろと教えていただくことこそ、教員講習会最高の成果だと思っています。

私たちは今、博士を持った先生を増やすべきだという方向で「知る喜びを知っているからこそ教えられるものがある」という合言葉で、「科学教育若手研究会」のネットワークを作ったり、キャリア支援センターでバックアップしたりしています。知的人材ネットワーク あいんしゅたいん もそういうつもりで立ち上げました。是非ともネットワーク会員になっていただき、今後、交流を深めたいと思っています。 

木谷さんは、高校の非常勤、正規の教員の移動が確定してから、その穴埋めに非常勤がやりとりされるので、本人にはギリギリまではっきりとは伝えてもらえないということです。非常勤講師は、何年続けても、昇進もなければ、次の保障もありません。「当初は懸命にやるだけで、不安や不満は押し殺していましたが、どんどん軽んじられる自身の立場に、辛い思いがつのるようになります。報酬も、単価がなんの説明も相談もなく、どんどん下げられ、我慢するしかないのが情けない。それでも、教えることは楽しいので、学生と対等に接することをこころがけて、少しでも理解を深めて、学ぶ喜びを伝えたいと思います」

大学の非常勤講師も、ポスドクも、非正規雇用であることではいっしょです。金融危機で、非正規雇用の矛盾が噴出しています。人こそ、最も重要な資源です。知的人材が、活用されていないことでどれだけ国が損をしているでしょう。皆さんとともに、この実情を明らかにして、声を大きくして、現状を改善していきたいと思うこと、しきりです。 

そして、とうとう、さる2009年4月6日、木曜日の授業が終わった後、名古屋駅で待ち合わせをして、再会する機会を持ちました。ご一緒にフランス料理を楽しみました。料理も(クリームビュルレ)おいしかったですが、それより何より、お話が何よりのご馳走でした。木谷さんの人生、これまでご苦労が多かったけれど、これからの未来、きっと、いいことがあると思います。これから、協力して今目指しているもの・・・「大人の教材づくり」に向けてご一緒にやりたいな、そう思っています。

当日の食事のときの写真を1枚添えます。