2017年09月21日

放射線のこと総点検! 2月2日、いらっしゃいませんか?(ブログ その111)

来たる2014年2月2日、「放射線の影響を考えるーフォローアップの集い」があります。これは、私たちが様々な協力団体とご一緒に進めてきた「We Love ふくしま」プロジェクト[i]の締めくくりとして企画したものです。

この最後の締めくくりは、極端な評価の違いが日本中で、いや世界中で、私たちを困惑させている「放射線の生体への影響」について、いったいどこまでわかっているのか、そういう疑問をずっと抱えている皆さんといっしょに、現在の状況をできるだけ正確に、そして冷静に知るために、みんなの持っている疑問や悩みを含めて出し合い、知識と知見を共有しようという企画です。

この企画では、お二人の先生方にお願いして講演をしていただきます。お二人の先生方のメッセージは、すでにホームページにでています

そこで、二人の講演を通じて知りたいことってなんだろう、とか、このお二人の講演のどこが大変興深いかを、ここでご紹介したいと思います。

「福島における食品の線量調査」

このお話をしていたくのは佐藤理先生(福島大学)です。佐藤先生は教育学のご専門で、特に子供の健康管理とか学校保健活動といった健康と教育にかかわる仕事をしておられるのですが、福島生協と組んで、今回は食品中の放射線量についての調査を大々的に行われたということです。福島大学におられながら、多くの研究者が地域の方々と協力しているのは、科学者としての新しい芽を育てたのではと思います。その素晴らしい例の1つがこの研究です。 

これは、福島生協が、福島に住む方々の毎日の食事への心配に対して、何とか客観的な数量を出して、食の安全につなげたい、という思いから始められました。何しろ、みんなが心配している状況に応えようと思うと、あいまいな値は出せません。食品の線量調査は、人間の内部からでてくる放射線を測るのに比べて、ずっと簡単です。

なぜかというと、ホールボディカウンタによる調査では、人間をカウンターの中に入ってもらい、その体からです放射線を測ります。この場合、体型の違いや筋肉のつき方の違いで、いろいろな補正が必要になります。これを校正(英語では calibration)というのでしたね。この仕事は結構大変で、それは、当ホームページに一瀬さんがまとめてくださったWe Love ふくしまプロジェクトレポート3「関西でのホールボディカウンター検査の経緯」を見ればその苦労が分かります。

ところが、食品の場合は、食品をミキサーにかけて粉々にして同じ形態で測ることができるのです。とはいえ、私たちの作ったパンフレット「ホールボディカウンターって何?」にもありますが、この自然界には、天空から大地から、いろいろなところからたくさん放射線がやってきます(自然放射線)。今問題にしている食品の放射線量の基準が、そのあたりにある自然放射線に比べてもずっと低いので、いわば、膨大なごみの中に落ちた針を探すような苦労がいります。今の福島の状況では、こういう細かい精密な放射線量を測定する必要があるのです。そしてそれも、できるだけ多くのデータを集めて、統計の精度を上げて答えを出さないと、「うちの今日の食材にはなかったかもしれないけど、明日の食材にはたくさん放射能が含まれているかもしれないじゃないですか」と、不安が取り除かれないのです。

これには専門の職人の腕がいります。いい加減な知識では見分けられません。福島生協は、それでも、あえてこの問題に取り組んだわけですね。精密な測定、大規模な調査です。

コープふくしまでは、組合員から、放射能汚染による食品の安全性について不安や心配の声が寄せられるようになりました。そこで始めたのが「陰膳調査」です。そこには、以下のような意図で始めたということです。

組合員の協力を得て「現存被ばく状況」のもとで冷静な食行動をとるための判断材料を提供することを目的とし、家庭で実際に摂られている食事を提供してもらう陰膳方式により食事試料を集め、食事をとおして摂取される放射性物質の量を測定し結果を広く公表することとしました。(佐藤理 食の安全・安心セミナー講演「コープふくしまの陰膳調査からみえたこと」より)

この調査は、陰膳方式により実際の食事に含まれる放射性物質測定を2011年11月に始めたということですが、その後もずっと続けています。

私たちがこれを知ったのは、安斎育郎先生から宇野さんに届けられたメールでした。ちょうど、私たちが、2012年6月ごろ、「原子力:生物学と物理」という研究会の準備をしていた時でした。放射線の影響について、両極端の評価が飛び交っていたので、私たちはその両方の意見をお持ちの方々に来ていただき、話を詰めたいと思っていました。そして、いろいろな主張に対する論文を読んでは議論している時でした。

これを知ったとき、こういう調査は大切だな、ホントに皆さんの気持ちになって始めた調査だなと思っていました。この調査の意味は佐藤先生が当日じっくり説明されると思います。

しかし、それよりもっと私を感激させたのは、この調査が、学術論文として英文ジャーナルに採択されたということでした。これを教えてくださったのは、丹羽大貫先生です。丹羽先生は、いつの間にか、福島に居を構えられ、献身的に足を地につけて、福島県民の健康を守るために働いておられるのです。

丹羽先生は、こういう調査にいつも支援を惜しまれなかったのですね。そして、この調査が大変貴重なものだということを認識され、「英語の論文にまとめては」と提案され、サポートされたのだと思います。

新しい分野で論文を書くのは、大変なのです。実は、私も、今そのことで苦労が絶えません。別に私のような年になって、論文が1つ増えたからと言って、何の意味もないのですが、論文をレフリーに見てもらい、認められて採択されるということは、科学的な情報として認められたということで、アマチュアの趣味でやっている仕事ではない、ということを確認できるのです。プロのレフリーに、いろいろと批判され、考えを進めて、考え直し書き直ししてこそ、やっと新しい分野に関して研究の前線が見えてくるのです。レフリーとのやり取りこそ、学校で学ぶなり、独習したりして身に着ける知見に比べて、はるかに素晴らしい授業を受けることとなのです。もちろん、今回の仕事は、若い人と一緒にやっているので、どうしても、仕事にして、若い人が成長して認められることにつながることもかなりのモチベーションではあるのですが、単に業績をこずかい稼ぎのように、自分の業績を増やすだけが能ではないのです。

で、論文をきちんと出したということは、その人自身が新しい分野に踏み入り、進む方向が見えてきたことだということになります。佐藤先生が、県民のためという社会的使命感だけで終わらず、科学者として新分野に挑戦されたことは、「このようにして新しい分野に踏み入ることができるのだよ」という素晴らしい例を示されたことになります。

私は感激したのです。科学者は、今自分の抱えているテーマに必死に取り組んでいるので、ともすると、視野が狭くなり、ほかのことがみえなくなります。すると大切なことを見逃してしまいます。

新しい分野に挑戦するときには、当初はとても時間がかかります。知らない知識を勉強したり、新しい技法を学んだり、立ち上げに時間がかかります。前線が見えてくるまでの苦労は並大抵ではありません。ですから、社会的に意味があるからと言って、すぐにそちらに没頭しても、科学のレベルにまで高めるのには、相当な研究者魂がいります。それを避けて、にわか勉強で獲得したいい加減な知識のまま、科学者が、さも知っているかのように、間違ったことをいうこともないではありません。今回の事故の後には、こういうことがいっぱい起こりました。それを苦々しく思っていたまじめな研究者もたくさんいるはずです。そんな中で、生活調査として行うこの調査が、ちゃんと、科学的な客観性を持つデータとして評価されたのです。

おそらく、佐藤先生も、この分野では素人だったのだと思います。それをがんばってプロの技までに仕上げ、科学者としての業績として評価されるところまで持っていったのはすごいです。よくぞここまで頑張ったなあ、とその真摯な姿に感激するのです。佐藤先生のお話はこういう意味もあるのでは、とお話を聞くのを楽しみにまっているのです。

「放射線の生体への影響はどこまでわかっているか」

このお話は、大阪大学の医学部の中島裕夫先生にお願いしています。中島先生には、当あいんしゅたいんが開いている、「サロン・ド・科学の散歩」の第8回目に「たかがネズミ、されどネズミ」で講師をしていただいた先生です。中島先生の豊富なお話は、みんなをひきつけました。先生は、基礎医学系の先生で、マウスの実験をずっとやっておられます。放射線基礎医学の世界的権威である野村大成先生(大阪大学名誉教授)のお弟子さんです。私も動物実験のことについて、いろいろと教えてもらいました。しかし、中島先生は動物実験だけでなく、チェルノブイリの事故後に現地に調査にも言っておられますので、疫学の話でも、なんでも精通されています。その話しぶりがとても面白いのです。自然を見る目が、豊かなのでしょう。このサロンには、県外避難者の方も見えられていて、先生のお話が人をひきつけるので、今度の、フォローアップの勉強会に最適の方だとおっしゃいました。そういうわけで、再びおいでいただくことになりました。

ショウジョウバエ・ネズミ、そしてヒト、これらの色々な実験をどう重ね合わせて、どうみれば、人の生体に対するリスクが得られるのでしょう。

放射線のヒトへの影響を調べるのには、なんといっても、実際に放射線を当てて実験することが一番明確にその影響を見ることができるのですが、さりとて、人間に放射線を当てて実験するわけにはいきません。もっとも最近では、がんの放射線治療や、レントゲン検査などもありますが、これは特殊な部位にあてるので、やはり、これだけではわかりません。

そうなると、動物実験や試験管の実験などを基に推測することになります。個性のある動物たちの色々なふるまいを、そう簡単に見えないですね。ですから「ネズミで実験しても、それが人間にあてはまるかどうかわからないのでは」と疑問を持っている方もあろうかと思います。当然ですね。でも考えてみれば、どれも、細胞からできていて、増殖したり、環境との代謝を通して栄養分を蓄えているはずだし、動物って結構似ているのは、とも思われます。それらをどう見て、何を学ぶのか、一度聞きただしてみたいですね。

物理学をやっていると、どうしても「統一に理解する」、統一ピクチャーを求めてしまいますが、すぐに生物の人からは、「そんなに簡単じゃないよ。バラエティに富んでいるのだから、これでこういう結果が出たからと言って、他のもそうだとは言えない」とすぐ言われてしまいます。だから、LNT(照射した放射線の総量に比例して、変異細胞が増える)に対して、もっとリスクは高いとするバイスタンダー効果とか、もっと低い、放射線は少し当たるのは体にいい、というホルミシス効果など、いろいろ持ち出されて、こんがらがって理解できなくなるのです。

広い視野を持っておられる中島先生にしっかり教えてほしいものです。分からないではなく、どこまでは分かるのか、それを知りたいですね。

魅力的な話っぷりに魅せられた皆さん、ぜひもう一度、じっくり話を聞いてみましょう。

サロンでは、少人数で、じっくり話を聞いて、質問も遠慮なしにできるので、一度参加した方が、来ていただき、市民の中の科学好きの人たちが、プロの名誉教授と同等に席を並べて、議論を戦わすサロンの雰囲気を知ってしまうと、こんどの、それはほかの回にも持ち込まれるのでは、と思っています。

なお、佐藤先生は福島から来られるので、前日にもっとじっくり話を聞こうと計画しています。これは、サロン・ド・科学の散歩のような雰囲気になると思います。少人数で思いっきり時間を取って議論しようということです。

もしご参加のご希望があれば、こちらを見て申し込んで下さい。当日は節分なので、巻きずしを食べながら、交流を深めようと計画しています。(会費は1,000円です)。節分を楽しみたい方は、そのあと、すぐ近くですので、行かれるといいかと思います。節分のお祭りの寒くなったり休みたくなったりすれば、気軽にお立ち寄りください。コーヒーでも飲みながらおしゃべりできます。

では皆様と会いできるのを楽しみにしています。


福島の陰膳調査ー佐藤理先生を囲んで 2014年2月1日 午後3時30分~(いつまで続くか不明!)
「We love ふくしま」プロジェクト フォローアップの集い 2014年2月2日 午後1時~4時

なお、2月2日のチラシを添付します。お誘いあわせの上おいでください。 


[i]私たちが、どうしてこのプロジェクトを立ち上げたのかは、すでにホームページでいろいろな方々のレポートも含めて公表していますので、そちらをご覧ください。