シンポジウム報告 その1

11月27日(土)13:00~17:30に行われた上記シンポジウムは、70名に届く方々にご参加いただき充実した議論をすることができました。また、交流会には、40名近い方々がご出席いただき、お互いに仲良くなり、新鮮で意欲的な大学院生、学生といった若い層と定年退職組の好奇心あふれるシルバーの層、そしてそれをつなぐ現役研究者や先生方、それに元気な女性陣など、みんながあちこちで議論の花を咲かせ、大変沢山のことを学びました。

今日1日だけでも4つの会議や打ち合わせのある中、駆けつけてくださった吉川研一理学研究科長の「開会の挨拶」から始まりました。大変簡潔で、明瞭なご挨拶で、最後に、小説家、ルイ・アラゴンの次の言葉で締めくくられました。

「教えるとは希望を語ること、学ぶとは誠実を胸にきざむこと」。

山下先生の問題提起の中では、科学教育の「実体験」についての意見や実験教室の最も重要な意義は何かをめぐって、意見を交換しました。教えること、学ぶこと、この2つは別々ではなく、教える側がたくさんのことを学ぶという経験をしたと思います。こういう視点から見ると、ずいぶん、教育への見方が違ってくるのではないでしょうか。

また、京都大学院生の3つの発表はそれぞれ、自己主張もあり、実践から学んだ教訓あり、アンケートの結果ありと、短い時間に必要なものを盛り込んだ素晴らしい発表ばかりで、みんなに感銘を与えました。よく短い期間でこれだけのことをまとめたものと感心しました。それから、秋から加わってくださりまだ2回の経験しかない立命館大学初等教職ゼミの若いお二人の発表は、初めての経験であったでしょうが、その真摯な気持ちが伝わり、皆さんを感動させました。若い人たちはぐんぐん伸びていきます。その頼もしい姿を見ることができて、さわやかな気持ちになりました。

足利先生は、教材作成の1事例として、単極モーターを取り上げられました。正直、設定条件や動機が語られないままで話が進み、ちょっとマニアックな話になってしまいましたが、1つだけ心に残ったことがあります。それは、1つの実験教材作成に取り組めば、疑問は次々とわいてきて先につながるというご自身の経験です。いつもそのようにして先に進んでこられたのだと思いました。後の議論でも出てきましたが、教材の説明などについて、それが科学的に正しいかどうか、それをどう判定するかという基準や評価をだれがするのかという仕組みが、個人的なつながりだけに頼っている状況をどのようにしたら改善できるかという問題があります。それを判定するのはいったい誰なのか、どうしてわかったことをクリアにするのか、このあたりが、論文や成果を評価するレフリー制度をもつ学会の仕組みと異なるところです。たくさんの知恵を集めつつ、科学的な評価ができるシステム作りを構築する何らかの工夫が必要なことを痛感しました。

松重先生のものづくりの取り組みのご紹介は、さすがに実践が伴っており、浜松と並んで京都がものづくりの発祥地として果たすべき役割だけでなく、現在の学校教育に盛り込むべき必要性が印象に残りました。「京都モノづくりの殿堂」「モノづくり工房」などの紹介のほか、「京都モノづくりものがたり」といった漫画の本も出ていることに感心しました。親子理科実験教室とは一味違ったものづくり塾や「小学生と親子のためのRYOMAベンチャー検定」http://www.vbl.kyoto-u.ac.jp/?p=4678 , http://www.asahi.com/business/pressrelease/ATP201012020012.html の取り組みが始まったことも参加者に新鮮な印象を与えました。モノづくりに対する教育との関わり合いのご指摘は、討論でも活発に行われました。

パネルディスカッションでは、保護者からの意見や見学者の意見、それに田中先生のご経験を交えたスケールの大きなお話がありました。保護者の田井中さん(父)からの問題提起があり、この「親子理科実験室」ならではの目標をめぐって、「はっと驚かせるようなもの」と「現象の仕組みについて基礎がわかるようなもの」の2つがどのように拮抗した概念なのか、うまく組み合わされるものかどうか等、いろいろと考えさせられました。また、竹内さん(母)からは、実験教室のあと、家庭で、いろいろと話し合って議論している様子もご紹介いただき、みなさん、これこそ、この取り組みの大きな効果だと納得したこともあります。竹内さん(父)からも、「妻は、我が子にとって科学に興味を持ついい機会となったことに加え、京大で実施する意義についても話したかったようです。民間ベースの児童向けの科学教室は、どうしても商業ベースに映ってしまいますが、京大又は京大が支援する教室だと、参加費は安価ですし、何より保護者として安心感が違います(あれだけ素晴らしい先生方が集まってのプロジェクトはそうないのではないでしょうか。)。」と心強いメッセージを頂きました。

確かに、親子理科実験教室では、保護者にも、子供用とは別に「本日の教室のねらい」をレジメにして配布し、できるだけ原理も含めて説明するよう努力しています。また、アンケートに寄せられた質問に対しては、あいんしゅたいんのホームページに、「Q&A」コーナーを設けて、コミュニケーションを図ってきました。それは、http://jein.jp/science-school.html からたどれますが、直接には、http://jein.jp/science-school/qa.html で見ることができます。さらに、アンケートの結果は、集計はしておりませんが、毎回丁寧に見て、それを反映した運営を行ってきました。集計して、自由回答を分析すれば、もっと客観的なデータになり大変貴重なのだと思っていますが、まだそこまでには至っておりません。ご指摘にもあったように、こうしたことをきちんと行うことによって、科学としての科学教育への客観的な資料になるのだと考えています。今回の取り組みも、「やりっぱなしではなく、それを参加した皆さんで話し合い、評価し、改良していく仕組みこそ大切だ」という趣旨から、行われたものです。特に、参加した若い人たちが主体となって報告する、まとめていただくことで、次のエネルギーへとつなげていきたいという願いがありました。「親子理科実験教室はあちこちで行われているが、このように、それを振り返り次の活動につなげているところは大変すばらしい。これを続けていけば、先が明るい」というコメントを、長年実験教室を指導してこられた先生からいただいて、大変勇気づけられました。

田中耕一郎先生が、「子供が小さいとき、よくたくさんの子供を連れてボランティアで山に連れて行った経験がある」と言われた時には、なるほど、それで、子供たちに先生の話が大うけしたのだとわかりました。

見学者の代表として田中瑠以さんからは、進学のための新聞を作っている編集者として、様々なご提案もいただきました。

「わかる」とはどういうことか、年齢相応のわかり方、というものが飛び交ったことも新鮮でした。いみじくも、シンポジウムの講演の後の議論で、司会の松田さんが、「正直言って、最初のテーマを「電気・磁気」に決められたとき、私は当惑しました。「実感」がなかったからです。しかし、私にもだんだんと実感がわいてきました。小学生に対する教育というよりは、私と坂東さんという名誉教授に対する教育であったように思います。」といわれました。そうなのです。大人も子供も、発見があり、新鮮な驚きがある、そんな出会いができたことが、とてもよかったのではないでしょうか。

どのセッションでも意見が盛り上がったのも、内容をよく把握した素晴らしい司会の方々のおかげですが、何よりも、参加いただいた方々の積極的な熱意が大きく影響したと思います。今後の取り組みが大きく発展できる契機になったと思います。また、この会のために働いてくださった皆様方のお陰で快適な会になりました。
どうもありがとうございました。

いろいろな意見が飛び交い、大変活発に行われました。この雰囲気が後の交流会にも続きました。
世話人一同を代表して  坂東昌子
世話人 中家剛・坂東昌子・舟橋春彦・山下芳樹

なお、シンポジウム後に頂いた感想やコメントは大変貴重で、今後の運営に生かしていきたいと願っています。それらを掲載いたします。

知的好奇心をくすぐる、絶好のきっかけ  親子理科実験秋学期担当、あいんしゅたいん理事 松田卓也

皆さんのご講演、ディスカッションはとても充実したものでした。私にとっては、この種のシンポは、かならず退屈な話や興味のない話があるものですが、昨日はそれがなく、充実していました。しかし、そのせいで、気を抜く暇が無く疲労困憊しました。よしあしです。

親子理科実験教室を運営してみて、あいんしゅたいん側は松林先生を除いては、初等教育に全く素人で、山下先生始めサイエンスEネットのお力がなければ、なにもできなかったと思います。正直言って、最初のテーマを「電気・磁気」に決められたとき、私は当惑しました。「実感」がなかったからです。しかし、私にもだんだんと実感がわいてきました。小学生に対する教育というよりは、私と坂東さんという名誉教授に対する教育であったように思います。

今年度は後1回を残すのみとなりました。鉱石ラジオを作るというのですが、実は私にはまだ実感はありません。アンテナとはなにか、どう動作するか、果たしてうまく動くのか、よく分かりません。素粒子論の大家である原康夫先生が、やはり市民講座でアンテナについて聞かれて、よく分からないと、投げてこられました。勉強してみますとだけ返事しました。しかし私はまだ理解していません。理科実験教室は、私にとっては、知的好奇心をくすぐる、絶好のきっかけとなっています。なにも小学生だけのものではありません。来年度も、多分、山下先生のご協力がなければ、進まないだろうと想像しています。よろしくお願いいたします。

保護者 竹内啓子さんからのメッセージ

先日のシンポジウムの節はどうもありがとうございました。
シンポジウムに保護者として参加させていただいた竹内啓子でございます。保護者の立場から気付いたことを述べさせていただくという大変貴重な機会を頂いたにも関わらず、緊張して話すつもりだったことがすっかり抜け落ちていたなど、後から自責の念にかられておりました。有用な情報を提供出来なかったのではないかと悔やんでおります。今この場をお借りして補足させていただきますと、二点ございます。

一つは息子(小2)が自分の班のTAのお兄さんに憧れを抱き、良い刺激を受けて帰ってきたこと。大変親切かつフレンドリーに接していただき、息子も「何でも知ってるし、かっこいい」と喜んでおりました。感謝申し上げます。

二つ目は理解できた実験については最後まで興味を持って集中力が途切れなったのですが、最初は“なぜだろう”と惹きつけられても途中からついていけず理解できなっかった実験については、他事をし出してTAのお兄さんに促されても実験にまじめに参加しようとしなかったことです。その様子を見ていて、まず疑問を抱き、知りたいという欲求に駆られ、それが満たされて初めておもしろいと感じ、さらに連鎖していくのだということをつくづく感じました。親子理科実験教室を終え、今後親として何が出来るのか思案しているところでございます。
末筆ながら、あいんしゅたいんのますますの発展と坂東先生のますますのご活躍をお祈り申し上げます。

シンポジウムに参加した保護者 藤井さんの感想

ひさしぶりに、学生に戻ったような気持ちになりました。いつも教えて頂いている先生方、 TAの方々が、 親子理科実験教室のことを、試行錯誤しながら考えて下さっている事 有り難く思いました。次回の実験教室 楽しみにしています。