2017年04月27日

事前討論

沢田論文への質問(事前討論 No. 4)

<質問を出すに至った経緯>

私たちは、研究会に先立って、内部被曝や福島の状況把握について議論を深めるために、広島・長崎⇔チェルノブイリ⇔福島の比較検討を行いました。これまでのデータの検討と問題点を明らかにするためです。このとき、最近やっと採択に至ったといわれる、沢田さんの論文を丁寧に読みました。
その中で、内部被曝の危険を訴えておられるのですが、いろいろと不明な点が出てきました。学術誌に投稿された欧文の論文ですので、科学的な事実に基づいて書かれているはずなので、検討することにしたものです。

沢田氏には

湯川秀樹を始祖とする京都大学基礎物理学研究所の行う研究会は、立場を超えてお互いに科学的な真実を追求するための研究会です。立場は異なる科学者が一堂に会する機会が滅多にないのは非常に残念に思っております。実り多い議論ができますことを期待しております。ご多忙とは存じますが、どうか万難を排してご参加いただくことを心より期待しております。

世話人代表

というお願いを世話人としていたしました。

これに対して沢田さんからは、「8月の上旬は原水爆禁止世界大会で、12日までは塞がっています。今手を抜くわけには行きませんので、8日から10日は残念ですが無理」というお返事をいただき、そこに、意見が述べられていました。

残留放射線による被曝影響は無視できる、内部被曝と外部被曝は同じだとかという立場は、多くの貴重な被曝実態を示す資料から、科学的に真実を引出そうとしないで、広島と長崎の爆心地から系統的に、しかもかなりの人数で起こっているさまざまな急性放射線症状を放射線以外の原因だと言いながら、具体的に科学的な研究をしてこなかった人たちで、お送りした私の仕事を理解しようとしないで、科学的な考察もしないで否定することにきゅうきゅうとしている人たちです。
変な先入観にとらわれて、思考停止をしないで、被曝実態を認め、私の行ったような研究をすれば、誰れでもほぼ同じ結論に到達する筈です。
これまでの放射線影響研究所の結果にそのまま従属して、内部被曝の特質を考慮しないで、外部被曝と同じだとするICRPの意図的な怠慢に従属しているのは、科学的姿勢の根幹を忘れているとしかいえません。

沢田昭二

私たちは、このようなご意見を補うため、事前討論で、皆さんに、このご意見について、できるだけ公平に議論できるよう、勉強し、事前討論に資することにしたものです

坂東昌子・真鍋勇一郎・一瀬昌嗣(+LDM出席メンバー) 


 

沢田論文[1]への質問

(文責:坂東、一瀬、真鍋)

1)脱毛や下痢の原因は、必ずしも内部被曝だけに特定出来ないのではないかと考えられますが、論文で内部被曝と断定されている根拠は何でしょうか?論理がつながっていないようにも思われますが。

2)黒い雨を頭に浴びた場合に、ベータ線熱傷により、脱毛症に至るものと思われます。つまり、脱毛は全身被曝ではなく局所的な被曝の可能性が大きいのに、それから換算した線量を、DS02で計算した実効線量と重ねるのはおかしくはないでしょうか。

3)京泉氏らのマウスに植皮した頭皮の脱毛のデータを、そのままヒトにあてはめて、線量に換算されていますが、これは正当化できるのでしょうか。また、マウスを免疫不全にしての実験ですが、生きているヒトは、免疫不全ではありません。免疫不全のマウスと、免疫機能のあるヒトとの違いについての考察はありますか。

4)1.5km以上のところでの線量が1Gy以上も高いはずだという結論だとすると、この線量を過小評価していたDS86やDS02の放射線リスクの評価は、実は「もっと高い線量のリスクだったはずで、低線量では大して症状は出なかったということになります。なのに、この論文から、内部被曝のことや低線量の放射線のリスクの危険性を強調するのは、ご自分の論文とは異なる主張になるのではないでしょうか。

5)内部被曝について、β線がγ線と比較して危ないといわれるのはどういう根拠でしょうか?データはあるのでしょうか?(これはrefSには書いていないが、別のところで「ICRPが,内部被曝に対してベータ線のRBEを1とすることには疑問がある」と表明されています[2]

6)遠距離の被爆者に脱毛などの症状の報告には、聞き取り調査時の記憶違いや、結婚差別を恐れて遠距離の方に申告した等のヒューマン・ファクターがあることが指摘されています。これを十分に考慮した上で、原因が内部被曝であると結論されているのでしょうか。


[1] S. Sawada, “Estimation of Residual Nuclear Radiation Effects on Survivors of Hiroshima Atomic Bombing, from Incidence of Acute Radiation Disease”, Bulletin of Social Medicine, 29(1), (2011). (refSとよぶ) http://jssm.umin.jp/report/no29-1/29-1-06.pdf

[2]「日本の科学者」2011年6月号 http://peacephilosophy.blogspot.jp/2011/04/blog-post_20.html
また、岡本良治氏のHPに「2011年3月19日沢田昭二氏よりご教示あり」として、次の記述がある。「放影研の疫学研究に大きく依拠してきた国際放射線防護委員会ICRPは内部被ばくを軽視してきて、現在の原発事故も含めて大気中に漂うミクロンサイズ以下の放射性微粒子を呼吸で摂取することは全く考慮しないで、CT検査で浴びる放射線と比較して影響は小さいとしています。測定されているのはガンマ線で、内部被ばくは摂取した放射性微粒子からは主にベータ線でベータ線は密度の高い電離作用をするので透過力の強いガンマ線よりはるかに大きな影響を与えることは全く配慮していません。」