2017年05月27日

講演者氏名と概要

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1日目 8月8日(水)

<原子力と原子核物理のクロスオーバー(座長:中井浩二)>

氏  名: 千葉 敏(ちば さとし)
所  属: 東京工業大学 原子炉工学研究所
タイトル: 「今後の原子力開発と基礎研究」 <40分>
概  要: 東京電力福島第一原子力発電所の事故はこれまでの原子力研究開発体制にある問題を浮き彫りにした。かつて原子力の黎明期に官主導での開発方針に反発し、学術界が手を引いて以来、日本では基礎研究と原子力開発は距離を置いて来たため、基礎研究者の中にはこれを機に脱原発に向かうべきだという意見がある一方で、原子力産業が多くの基礎系出身の学生を受け入れてきた事実がある。また、核物理のコミュニティーが高エネルギー、ハドロン物理に急速にシフトしている中で、原子力分野が低エネルギー核物理の一翼を担っている一面もある。加えて、小資源国家であり、かつ加工貿易立国である日本は、簡単に脱原発に迎えない事情もある。さらに低線量被曝や放射線についての公衆の一部の過度な反発は社会問題となってきた。
原子力は国家の基幹エネルギー問題であり、科学的根拠に基づかない議論で安易に結論を出すべきではありません。基礎研究者は科学的事実に基づいて中立的な意見を述べることのできる立場にあり、今こそ冷静な議論と貢献が必要とされている。また軽水炉とは異なる安全性の高い原子炉や効果的な放射性廃棄物処理の芽も生まれつつある。本講演ではこれまで原子力の基礎としての核反応研究に携わってきた経験から、今後の基礎研究と原子力研究開発のあり方についての意見発表を行う予定である。

 

氏  名: 辻本 和文(つじもと かずふみ)
所  属: 日本原子力研究開発機構 核変換工学技術開発グループ 研究主幹
タイトル: 「加速器駆動システムによる核変換技術」 <20分>
概  要: 東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故は、稼働している原子炉の安全性確保だけでなく、使用済燃料の適切な保管と処理処分が極めて重要であることを示した。
今後のエネルギー源として原子力の利用のあり方についての議論が進められているが、どのような選択がなされても、既に大量に発生している使用済燃料の処理処分は決して避けてとおることはできない。使用済燃料の処理処分については、従来の再処理や直接処分が選択肢として検討されているが、いずれにしても最終的には深地層に埋設することになる。
地層処分については、再処理で発生する高レベル放射性廃棄物のガラス固化体の最終処分地については候補地の選定すら進んでいないのが現状である。また、東日本大震災で被災した地域の震災がれきに対する各地での拒否反応を見ると、使用済燃料の直接処分が本当に可能な選択肢として議論されているのか甚だ疑問である。
我々は、高レベル放射性廃棄物の地層処分に係る負担を可能な限り軽減することを目的として、加速器と原子力システムを組み合わせた加速器駆動未臨界システムを提案しており、本システムについての研究開発の状況を紹介するとともに、原子力以外の分野からの英知を結集して、原子力のバックエンドを如何にするべきかを議論したい。

 

氏  名: 國富 一彦(くにとみ かずひこ)
所  属: 日本原子力研究開発機構 原子力水素・熱利用研究センター 研究主席
タイトル: 「本質的に安全な高温ガス炉の概念」 <20分>
概  要: 我が国において、今後とも原子力エネルギーを利用して行くためには、原子力システムの安全性に対する国民の信頼を取り戻さなければなりません。そこで、私たちは、如何なる事故が発生しても、公衆・環境に有害な影響を与えない安全なシステムである本質的安全高温ガス炉(英語名:Naturally Safe HTGR (NSHTGR))を考案し、検討を開始しました。このシステムは、事故時に、既存炉に設置されているような安全設備を一切用いずに、自己制御性により原子炉を停止し、自然の力により燃料の冷却を行って、セラミック被覆の燃料の有する優れた固有の特性により、燃料内に核分裂生成物を閉じ込め続けることができる革新的に安全なシステムです。
高温ガス炉は、1)冷却材として化学的に不活性で放射化しないヘリウムガスを用いること、2)燃料は高温での核分裂生成物の保持能力に優れたセラミック製の被覆燃料粒子を用いること、3)炉心の熱容量が大きく出力密度小さいため事故時の燃料温度挙動が緩慢であることなどにより、安全性の高い炉として注目されてきました。大洗研究開発センターには、熱出力30MW、原子炉出口温度950℃の高温工学試験研究炉(HTTR)を建設し、現在は、高い安全特性を確認するための試験を実施しています。
今回提案したシステムは、既存の高温ガス炉の安全性をさらに向上し、配管が複数個所同時に破断して無尽蔵の空気が侵入するような事故においても、セラミック製燃料の被覆層に安定な酸化被膜が形成されることにより、燃料の酸化による破損を防ぐことができるようにしました。その他にも、冷却方法等などに改良を行っています。私たちは、このようなシビアアクシデントが起こらず、従って事故時の退避が不要なシステムこそ将来の原子力システムとして、国民に受け入れられると期待しています。
本発表では、本質的安全高温ガス炉の概念とその安全設計方針、HTTRを用いた安全特性の確認試験等について紹介します。

 

<福島県の土壌汚染調査(座長:大塚孝治)>
※ 本テーマについては、2日目に継続いたします

氏  名: 下浦 享(しもうら すすむ)
所  属: 東京大学大学院理学研究科教授
タイトル: 「土壌中のガンマ線放出核種分析による福島周辺放射線マップ」 <30分>
概  要: 震災直後から、原子核物理、放射化学、環境科学などのコミュニティーから、福島およびその周辺で採取された土壌からの放射線分析により放射性物質の分布状況調査の必要性が提案され、文部科学省のプロジェクトとして2000以上の地点の土壌分析が実施されました。その結果、様々な核種からの放射線マップが作成されました。試料採取に94の、その分析には 23の大学・研究機関が参画したこの活動の内容、分析、およびその後の分布状況調査の内容を紹介します。

 

<事故の解明はどこまで進んだか(座長:田中知)>

氏  名: 田辺 文也(たなべ ふみや)
所  属: (株)社会技術システム安全研究所 所長
タイトル: 「福島第一原発事故の分析と考察:事故進展プロセス解明と方法論」 <40分>
概  要: 報告者は福島第一原発事故の発生後、限られた観測事実と論理的推論に基づいて、炉心溶融など原子炉で起きていると考えられることを、マスメディアなどを通じて発信することに努めるとともに、公開されたプラントデータの詳細分析と簡易モデル計算によって水素発生を含む炉心溶融進展過程と放射性物質大気大量放出のシナリオの解明を進めてきた。本報告では、その研究結果を紹介するとともに、ブラックボックス化の危険をはらむ計算機シミュレーションに比して簡易モデル計算の果たす役割と利点など、事故分析における方法論の重要性についても論じてみたい。

 

氏  名: 宮田 浩一(みやた こういち)
所  属: 東京電力(株) 原子力品質・安全部 原子力安全G
タイトル: 「福島第一原子力発電所の事故の概要」 <40分>
概  要: 福島第一原子力発電所の事故を理解するに当たり、一般的な原子力発電所の安全設計の考え方を紹介し、事故の原因となった電源喪失への備えについて解説する。その上で、福島第一原子力発電所を襲った地震・津波がどのようなものであったか、この地震・津波により発電所安全設備の被災の状況を踏まえ、事故進展について説明する。
備  考: ● 資料「福島原子力事故調査報告書(中間報告書)」 平成23年12月2日 東京電力株式会社

 

<原子力発電の技術水準:歴史と現状分析(座長:柴田徳思)>

氏  名: 金氏 顯(かねうじ あきら)
所  属: エネルギー問題を考える会代表幹事・元三菱重工業常務取締役
タイトル: 「原子力発電所信頼性向上に向けての取組み~40年間の体験から」 <40分>
概  要: 東電福島事故により原子力への国民の信頼性は失墜しています。しかしながら、我が国のエネルギー安全保障を冷静に考えれば、原子力技術は維持し、より信頼あるものにしていかねばなりません。その為に、原子力技術者は国民の不安に真摯に向き合い、高い安全文化精神と社会倫理感をもって、国民の信頼を地道に回復することが求められています。その為の参考として、国産化導入の初期から携わってきたメーカーのシニア技術者の体験談を提供致します。
1960年代に米国から軽水炉を導入、初号機は米国企業主契約で導入、その後我が国メーカーが国産化し、様々なトラブル経験を克服して信頼性、保守性、経済性を地道に向上し、日本型の軽水炉に仕上げてきました。PWRの最重要機器である蒸気発生器(SG)について信頼性向上への弛みない改良の道のりと教訓、PWR主要機器のトラブル先行事例や経年劣化研究成果による予防保全、さらに軽水炉改良標準化の集大成として、導入技術・建設経験・運転経験を集大成し、安全性・信頼性・運転保守性・経済性の向上を目指した日本型の軽水炉開発をお話しします。

 

氏  名: 舘野 淳(たての じゅん)
所  属: 核・エネルギー問題情報センター事務局長
タイトル: 「日本の原子力開発史とシビアアクシデント問題」 <40分>
概  要: 「自主・民主・公開」の平和利用三原則を基本に発足した日本の原子力開発は、当初日本原子力研究所(原研)などで自主開発の努力がなされたが、GE社の動力試験炉導入を契機に、米国軽水炉の全面的な技術導入路線が敷かれ、しかも、米国メーカーの「実証済み」という言葉を全面的に信用して、各地に大量建設がすすめられた。こうした事態が進行する中で、軽水炉の安全性に疑問を持つ原研などの研究者の発言は徹底的に抑圧されたことを、筆者は原研所員・当事者として体験した。米国でも、シビアアクシデント問題が指摘されたが、その確率は極めて小さいというラスムッセン報告によって世論は沈静化してしまったことを、同報告の批判を行ったUCSのダニエル・フォードが詳細に述べている。シビアアクシデント問題を抱える軽水炉技術は基本的に欠陥技術といえる。原子力開発史の中で、シビアアクシデントなど軽水炉の安全性はどのように扱われてきたのか、筆者の体験なども含めて報告する。
備  考: 関連文献:舘野 淳「日本原子力研究所員としてみた初期開発史」 科学, 2011年12月号

 

氏  名: 田中 知(たなか さとる)
所  属: 東京大学大学院工学研究科原子力国際専攻・現原子力学会長
タイトル: 「日本原子力学会における取り組み:経過と今後」 <40分>
概  要: 日本原子力学会では東京電力福島第一原子力発電所事故後、「原子力安全」調査専門委員会を立ち上げ、技術分析、放射線影響、クリーンアップ分科会等にで諸活動を行ってきた。その中で複数のシンポジウムを東京、福島などで行ってきた。また、最近では福島特別プロジェクトを立ち上げ、福島現地に更に視点を置いた活動を強化することにしている。学会が信頼をなくしたと一部指摘されるなかで、学会の在り方について種々考える中での活動であった。今後さらに、中立的な立場である学会としての活動を常に自問し、進化させながら活動していきたい。このような内容を紹介させて頂くとともに、今後の除染および事故を起こした原発の廃炉措置についての課題等を話したい。

2日目 8月9日(木)

<放射線の生体への影響とICRP(座長:内海博司)>

氏  名: 丹羽 太貫(にわ おおつら)
所  属: 京都大学名誉教授
タイトル: 「疫学データから見た放射線発がんの機構と幹細胞の役割」 <40分>
概  要: 放射線発がんについては、いまだにその機構についての議論が絶えない。その理由として、実験的に厳密な解析が可能なのは、放射線照射後に数秒以内でおこる物理的過程と、数秒から数時間のあいだに起こる化学的過程、さらにそれに続いて数日・数週間で起こる細胞レベルの過程であり、その一方でヒトでの発がんは、最低でも数年、長いものでは数十年の潜伏期を経て発症するため、この間のギャップがあまりにも大きいためである。このギャップを埋めるための機構解明における作業仮説は、ヒトの放射線発がんについての疫学データを説明できるものでなくてはならない。本講演においては、疫学データをもとに機構解明のための作業仮説を考え、それに基づいて行った研究と、さらにこれらから考えた組織の幹細胞の動態に基づく放射線発がんのモデルを紹介したい。

 

氏  名: 渡邉 正己(わたなべ まさみ)
所  属: 京都大学名誉教授・京都大学放射線生物研究センター特任教授
タイトル: 「放射線生物学は生命を解く鍵」 <40分>
概  要: 放射線と原子力は、切り離すことのできない人類が原子力の存在を知ってから高々1世紀を経たにすぎない。
しかし、人間の長い歴史に比べて極めて短期間に、原子力の本質を見極めようとする人々の知的活動によって原子力の源はエネルギーであることが明らかにされ、エネルギーが宇宙万物の源であることが判ってきた。この活動によって、私達は人も植物も鳥も星も宇宙にあるあらゆるものが同じものできていることを知ることができた。
そのことはmc2=hνの公式で示される。この公式の左辺は、物質の運動エネルギーを表す式で、右辺は光のエネルギーを表す式である。こんな難しい解説をすると間違いなく頭が痛くなると嫌われるが、簡単に言えば、形ある物質はいつか光に、光もいつか形ある物質に相互に変換できることを意味している。その意味で、質量のある物質を”色”、質量のない光(エネルギー)を”空”と表した般若心経の一説は最先端の原子物理学そのものといえる。
”色即是空”は、万物が光と物質の間を行き来するエネルギーだということを示した言葉であるとともにビックバンに始まりブラックホールに終える宇宙の一生を表している。古きに自分を見つめた賢人がその思考のなかで辿り着いた結論と近代的実証科学の結論が同じであったことに感動を覚える。このように、原子力を巡る研究の流れは、科学をすることの意味を示す好例である。そして、生命の存在の仕組みを理解するうえで極めて重要な知見となる。従って、哲学者が命題とする“私はなに?”という単純な疑問は、最先端の生命科学者が持つ疑問 “生命はなに?”と全く同じものと言える。
それに対する解答は、“生命はエネルギーそのものである”と答えることができる。エネルギーは、原子を作り、原子は分子を作り、分子は様々な物質を作っており生命もその例からもれない。そして生命が尽きると生体は、分子、原子と分解しエネルギーに戻る。この一連のつながりから、生命が存在するということは、一連のエネルギーの流れのなかでエネルギーの存在形態が物質化しているに過ぎないことが漠然と理解できるのではないか。
生命は、地球上に生まれ36億年の間、温度、圧力、放射線といった様々な物理化学的要因に満たされた環境で生き進化してきた。それらのストレスから切り離されて存在したことはないと断言できる。言い換えれば、そうした“環境要因との間でエネルギーのやり取りをする営み自体が生きている”ことに他ならないと表現できる。とすれば、生命が存在するということは、様々な周囲の要因とのエネルギーのやり取りであると言うことが朧げながら想像が付く。
もっとも、生命は細胞膜で囲まれた極めて狭い空間に宇宙の法則に逆らった自立的な環境を作り出すために様々な進化を遂げてきた。しかし、未だその能力を獲得できていない。おそらく永遠に到達できない望みであると思います。
しかし、放射線(エネルギーhν)と生命(物質mc2)は互いに切り離せない存在であり、生命の本質を知るためには、恐らく原子核物理や宇宙科学と同じように量子生物学といった視点での解析が必要になる。そうであることを理解された皆さんは、あるレベルの環境要因は生命に対するリスク要因として切り出すことはできないことに容易に気がつかれるだろう。さらに、最近注目されている自然放射線レベルに近い低線量の放射線に対する生体の応答反応の仕組みは、生命現象そのものと捉えるべきでありそのリスクを問うことに余り意味がないことに気づかれるだろう。
本講演では、こうしたことについての私感を述べたい。
備  考: 参考資料: 放射線安全管理の専門家育成の必要性   放射線生物学は生命を解く鍵
     http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/rb-rri/ も参考にしてください

 

<がんの発生機構(座長:阿部光幸)>

氏  名: 藤田 晢也(ふじた せつや)
所  属: ルイ・パストウール医学研究センター 分子免疫研究所所長
タイトル: 「ヒトがんの発生と放射線との接点に関する問題提起」 <40分>
概  要: 私たちが約30年にわたり、臨床家と共にヒトのがんの発生を、できるだけ定量的に追いかける仕事を続けてきた結果、明らかになったのは、成人に多い癌種(上皮性悪性腫瘍)では、初発してから20ないし30年の時間がたたないと誰にでもわかる「がんという病気」を発症することはない、ということであった(ただ、若年者に多い肉腫や白血病では、この期間はずっと短い)。
この長い期間、がん細胞は変異を重ねる。末期の様相は確かに認識できるが、人体内で、がんへ向かう最初のがん性細胞は、どのようにして出現するのか、どんな特徴があるのかについては、人体病理学者の長年をかけた追及と膨大な観察事実の積み上げにもかかわらず全く不明であった。そこで、発想を変え、できるだけ正鵠に近いと思われる仮説を「たたき台」として提出し、それを元に、どこまで観察事実に基づいて、その初期像が説明できるか、やってみることにした。
そのとき考えたのが「初発癌性細胞のDNA—crosslinkage説」である。化学的には様々なDNA-crosslinkageが考えられるが、最近、自然な増殖細胞にも化学発癌物質や放射線障害によるDSB修復に際しても見られる相同組み換えによる回復過程で、必発的に出現するとされるDNA—crosslinkageとしてHoliday junction があることが分かった。
DNA複製後にこのような変異が残存すると、その細胞では分裂に際して染色体がすんなりとは別れてくれないので必発的にchromosomal instability の状態が作り出され、これが細胞世代を越えて繰り返される。実際の人体で前癌といわれるものや初期癌・早期癌を調べて見ると、この仮説から導きだされるような細胞性変化が、実際に、見出されるのである。普通の細胞なら、Holiday junction のようなDNA—crosslinkageは、5種類あるRecQ—helicase の働きで、たちまち修復され、分裂後DNA—crosslinkageが残るようなことはない。
この酵素の欠失する遺伝病では予想されるように、がんが多発することが知られている。また、放射線で照射したヒト線維芽細胞ではDSBの周りに、速やかに修復タンパクの大集団(顕微鏡下で直径が1ミクロンにも及ぶ塊になっている)が出現し、修復を行う。想像をたくましくすれば、放射線では、DNAが傷害されDSBができたりするほかに、多数のこの種のタンパクたちが放射線によるラジカルで傷害され、DNA修復機能を失っている可能性が考えられる。
このターゲットのサイズはDNAより遥かに大きい。しかし、お断りしておくが、これらのストーリーはあくまで仮説からの理論的演繹であって、エビデンスが挙げられているわけではない。「問題提起」とさせていただいた所以である。徹底的なご批判を期待している。
備  考: 参考文献は、ルイ・パストウール医学研究センターのホームページ内の以下のページをご覧ください。
 http://www.louis-pasteur.or.jp/Ptsuushin2012.pdf
 http://www.louis-pasteur.or.jp/bunken.html

 

<放射線物理を巡る諸問題(座長:国友浩)>

氏  名: 西尾 禎治(にしお ていじ)
所  属: 国立がん研究センター
タイトル: 「がんの陽子線照射治療において人体内での原子核反応を観る」 <40分>
概  要: 近年、がんの高精度放射線治療の一つとして陽子線治療が世界的にも注目されている。陽子線の持つ高い線量集中性を活かした治療法であるが、その一方で、がんに対して陽子線が実際に照射されたのかを確認することの重要性が非常に増している。そこで、がんへ照射される陽子線とがん及び人体が構成する原子核との標的原子核破砕反応により生成されるポジトロン放出核を情報因子とし、患者体内における陽子線の照射領域の可視化や生体反応を観る。本講演では、これまでの研究成果を中心に報告する。

 

氏  名: 原田 浩(はらだ ひろし)
所  属: 京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット講師
タイトル: 「がん細胞の動きを見る」 <20分>
概  要: 厚生労働省が公表した資料によると、日本人男性の約2人に1人、女性の約3人に1人が一生のうちに“がん”と診断され、残念なことに肝臓がん、膵臓がん、肺がん患者の5年生存率は僅か20%にも満たないことが報告されている。この様な治療成績の不良は、一部のがん細胞が抗がん剤や放射線治療を生き延び、再発を引き起こすことにある。
我々は独自のイメージング技術を駆使して、がんの再発を引き起こす細胞群を同定し、その動きを追跡することに成功した。「がん細胞の動き」をキーワードに、最新の研究成果を紹介する。
備  考: http://www.cp.kyoto-u.ac.jp/Harada/index.html

 

氏  名: 真鍋 勇一郎(まなべ ゆういちろう)
市川 憲人(いちかわ けんと)
坂東 昌子(ばんどう まさこ)
所  属: 大阪大学大学院 工学研究科 助教
タイトル: 「放射線の生物影響の数理モデルの構築」 <20分>
概  要: 2011年3月11日に発生した大地震に伴う東京電力福島第一原子力発電所の炉心溶融事故により、放射性物質が広範囲に拡散した。その後、政府の放射線基準の度重なる変更もあり、放射線の健康影響に対して国民の不安が広がった。
私は科学・技術に携わる者として放射線の生体へのリスク・影響についての知見がどこまで科学的事実として確認できるかを検討する責任を感じた。そのためには物理学と生物学者との共同で議論する場が必要であった。この時、複数の分野の専門家で構成される「低線量放射線検討会(Low-Dose Meeting: LDM)」(京都大学キャンパスに研究室があるNPO法人あいんしゅたいんが積極的に組織した自発的な検討会)の存在を知り、参加した。そこで放射線生物・医学・物理学・情報学など各分野の専門家が各々の知見を出し合いながら、毎週数時間にわたって様々な検討を行った。その結果、疫学・生物実験・物理実験などを通じて実験データが集積されているが、放射線照射による生物への影響は統一的な説明の出来る理論的枠組みを得るには至っていないとの結論に達した。物理学的な視点から見ると、多くの放射線の生物への影響に関する実験データを貫く定量的・理論的な枠組の構築が必要であることを痛感した。そこで、定量的評価への道を切り開く可能性のある数理モデルを構築するため、議論を始め、原子核物理学等の知識を動員して、ある種の確率過程を再現しながら、生体の特徴である増殖・修復機能を現象論的に取り込める数理模型(LDMモデル)を提唱する段階に達するに至った(Journal of the Physical Society of Japanに2012年4月に投稿。現在査読待ち中。Preprintはhttp://arxiv.org/abs/1204.2324)。
LDMモデルでは、生物を構成する細胞を、正常な細胞(正常細胞)と、放射線によって傷ついた細胞(破壊細胞)とに分類する。細胞の自己増殖率・傷ついた細胞の修復率・アポトーシス率・照射する放射線の細胞破壊係数をパラメータとしてあらわに考慮出来る。それらのパラメータを決定すれば、放射線の線量率、照射時間などの実験条件からリスクの計算が可能となる。
LDMモデルからは放射線の影響について次のような定性的な傾向があることが導かれた。
1.高い線量率の放射線を短時間に照射する場合、いずれ破壊細胞数が正常細胞数を上回る。また、正常細胞数がゼロになることもある
2.低い線量率の放射線を長時間に照射する場合、正常細胞数がゼロにならないし、いくら時間が経っても破壊細胞数が正常細胞数を上回らない
3.初期の正常細胞数が多いほど、正常細胞数が破壊細胞数を下回る可能性が少ない。すなわち、アポトーシスと修復効果が破壊細胞の増殖率を上回っている限り、長期間の低線量被曝おいてガンにならない放射線の照射率の閾値(総放射線量ではない)がある可能性が予見される。
今後はモデルの精密化と実験データの定量評価のためのパラメータの決定を目指す。
備  考: 投稿中のプレプリントは http://arxiv.org/abs/1204.2324 にあります。
発表は真鍋勇一郎氏が行います。

 

氏  名: 木田 智士(きだ さとし)
所  属: 東京大学大学院医学系研究科博士課程(学振特別研究員)
タイトル: 「放射線治療におけるCone beam CTの画質改善と被ばく低減の試み」 <20分>
概  要: Cone-beam CT(CBCT)は、画像誘導放射線治療(Image guided radiation therapy : IGRT)において、主要なmodalityとして知られている。IGRTにおいて、放射線治療前に撮影するCBCTの画像は、腫瘍の位置を正確に捉え、患者さんの位置を修正することを可能にする。近年、このCBCTは、放射線治療装置(Linear Accelerator : Linac)を開発する企業において、Linacに併設して開発され、治療室内で患者さんが移動することなく撮影できる利便性から、世界的に利用が広がっている。
CBCTは、一般的にX線点光源とその受光器Flat Panelからなる。長年の開発にも関わらず、CBCTの画質は、Fan-beam CTの画質より劣っており、この画質の悪さは、IGRTの治療において、位置精度の正確さに限界を与えることになる。
放射線治療においては、何日かに分けて分割照射を行うことが多い。日々の治療毎に、日々の変化する臓器の位置形状がCBCTで撮影される。私たちの最終的な目標は、この日々撮影されるCBCTの画像を用いて、真の積算処方線量を見積もることである。CBCTの画質向上は、日々変化する臓器のimageを計画用CT上のimageに変形・移動させることを可能にし、腫瘍や、危険臓器への処方線量を経時的に重ね合わせていくことにより、真の積算処方線量を得ることができる。また、それに対応した、適切な治療計画の変更も可能となる。
CBCTの画質の低下の主要な原因の一つとして、光子の散乱が挙げられる。CBCTにおける、散乱光子の影響を取り除く為のいくつかの方法が提案されている。一つは、照射口に短冊上の鉛のgridを設け、gridによりprimaryのX線成分をcutし、散乱成分のみを見積もる方法である。もう一つは、解析的な方法、あるいはモンテカルロシミュレーションにより、散乱プロファイルを計算する方法である。求められた散乱成分を投影画像上で取り除いた上で、画像再構成を行うことにより、より正確なCT値と、均質な画像が得られると考えられる。
 
<方法>
私たちは、Klein-Nishinaの式を用いて、再構成する物体の各点における散乱カーネルを仮定し、解析的に散乱プロファイルを求めた。また、その結果を用いて、散乱補正された再構成画像を得ることができた。
また再構成方法による画質の違い、散乱補正効果についても検討した。
 
<結果・考察>
骨の周りのCT値が増加し、体の外側近傍ではCT値が減少し、画像全体として、コントラストの増加が確認できた。散乱補正後の再構成画像に見られたストリークの理由は、今後の研究課題である。また、この解析的手法による散乱成分の見積もりは、繰り返し再構成法を行う際の散乱補正項の見積もりにも役立つと考えられる。

 

<福島県の土壌汚染調査(座長:大塚孝治)>
※ 本テーマについては、1日目から継続しています

氏  名: 藤原 守(ふじわら まもる)
所  属: 岐阜大学教育学部准教授
タイトル: 「福島原発事故に伴う土壌放射能汚染調査の過去、現在、未来」 <30分>
概  要: 福島原発事故直後に原子核物理学研究者がどのように土壌調査の開始の重要性を政府に訴え、開始されて行ったのかを報告します。我が国の研究者の協力の協力がどのようにして得られて行き、どのような課題が浮かび上がってきたのか?福島県民220万人その他多くの人々が放射能汚染という長期に亘る課題に取り組まなくなりました。新たにはじまった課題などにも言及したいと考えています。

3日目 8月10日(金)

<放射線学校教育(座長:原康夫)>

氏  名: 1)山本 海行(やまもと みゆき)
2)山田 明彦(やまだ あきひこ)
所  属: 1)静岡県立浜松東高校教諭・仮説実験授業研究会会員
2)愛知県大府市立共長小学校教諭・仮説実験授業研究会会員
タイトル: 「たのしい放射線授業が目指すもの」 <60分(山本:40分 山田:20分)>
概  要: 山本は、昨年、3.11の福島原子力発電所事故をきっかけにして、それまでに行っていた放射線理解のための授業プランに基づいて、急遽、授業書案<放射線とシーベルト>をまとめた。まとめた案は、東日本大震災をきっかけとして緊急に行われた仮説実験授業研究会による研究会で(3月27日・東京)提案された。<放射線とシーベルト>に基づいて行われた授業の記録や教材の開発について、昨年行われた仮説実験授業研究会・夏の合宿研究会「放射線とシーベルト」分科会で報告や検討が行われた。山田は、その分科会の司会を務めた。
この間、仮説実験授業研究会の有志、会代表の板倉聖宣らによって <放射線とシーベルト>の内容の検討や改訂が繰り返された。先月、霧箱で放射線の飛跡を見ることと、放射線をめぐる予想問題とその検証を中心に据えた内容の書籍化の編集作業を終えた。
仮説実験授業研究会が作成した授業書《もしも原子が見えたなら》は,子どもたちが歓迎することで定評がある。山本は、その実践や研究を踏まえて、今回、編集作業を終えた『もしも放射線が見えたなら』(仮題)に基づいて、「放射線から見えてくる素粒子の世界入門教育」について紹介する。また、霧箱を用いたフィールドワークから得た新しい知見についても話す。
山田は、小学校や中学校での《もしも原子が見えたなら》の授業、『もしも放射線が見えたなら』を踏まえた授業プランの実際やその記録から見えてきたことについて話す。
私達は、素粒子の世界が、原子の世界とはまったくの別世界であるイメージを描くことで、放射線をめぐって知的好奇心にあふれた子どもたちが育つことをねらっている。
脱原発依存が進んだとして、放射線の利用そのものは、止まることは無いでしょう。ここ数十年は、事故処理をめぐる実際的な研究も進ませなければなりません。今のような状況で、教育の中で扱われる放射線が、ひたすら悪者で忌み嫌われるもの、「危険性と安全性」という視点だけで語られるもので良いのでしょうか。放射線を学ぶたのしい授業により、現状の困難を切り拓ける子どもたちが育ってくれることが希望です。

 

氏  名: 1)遠藤 金吾(えんどう きんご)
2)田中 大介(たなか だいすけ)
3)瀬々 将吏(ぜぜ しょうじ)
所  属: 1)秋田県立秋田南高校
2)秋田県立金足農業高校
3)秋田県立横手清陵学院高等学校
タイトル: 「中学校教員を対象とする放射線研修会報告」 <20分>
概  要: 2012年7月3日(火)に実施の、中学校教員を対象とする放射線研修会の報告を行う。講師は秋田県の「博士号教員」3名で、物理系(瀬々)と生物系(遠藤・田中)による「オムニバス形式」で実施した。異分野の教員が協力し合うことで、放射線の基礎(素粒子・原子物理的内容)から原子力発電とエネルギー問題、生物・環境への影響など、3.11以降の放射線教育に求められる広範囲の内容をカバーできたことが特徴である。中学校で手軽に行える放射線実験の実習など、現役教員ならではの、教える立場に立った内容を重視した。また、実施の効果について、質問紙調査の結果を報告する。

 

<放射線大学教育(座長:佐藤文隆)>

氏  名: 鳥居 寛之(とりい ひろゆき)
所  属: 東京大学教養学部・大学院総合文化研究科
タイトル: 「東大教養での放射線教育」 <20分>
概  要: 東京大学教養学部では前期課程全科類の学生を対象にテーマ講義「放射線を科学的に理解する」を開講し、好評を博している。
これは、教養学部の物理・放射化学・生物学の専門家3名を中心に連携して講義を組み立て、さらに医学・原子力工学・農学の専門家を加えて多角的かつ科学的・定量的に放射線を理解してもらうことを目指したもので、異なる分野の教員が連携した講義ということでも注目されている。また、教養教育高度化機構の主催する高校生のための金曜講座で、全国の高校約20校延べ1000人以上と中継で結び、放射線の講座を2週にわたり開講した。さらに、時事通信社と博報堂との共同企画で、放射性物質による汚染に対する人々の不安が拭いきれない震災がれき問題についてワークショップを行い、学生たちを現地に派遣し、議論を重ねて発表を行うとともに、環境大臣に面会して直接提言を行った。
粒子線物理学を専門とする私が企画・講義・参加をしたこれらの教育活動について、報告する。放射線の物理学的性質、生物学的影響について、いかに教えたらいいのか、経験を踏まえつつ、考えを述べたい。
なお、テーマ講義をまとめた書籍を9月に丸善より出版予定であるので、併せて紹介した。
備  考: こちらに講義のスライド資料などがあります
● 高校講座のページはこちら
震災がれき問題のワークショップ

 

氏  名: 寺崎 朝子(てらさき あさこ)
所  属: 千葉大学大学院融合科学研究科・ナノサイエンス
タイトル: 「放射線リスクを科学的に思考するために必要な情報」 <20分>
概  要: 放射線が生物に与える影響を一般の方が理解する上で DNA 上の遺伝情報の意味と、DNA の損傷と修復機構に関する知識は必須です。
昨年後期に千葉大学の普遍教育「生命科学入門」の遺伝学を担当した時に、非生物系の学生にどのような説明をしたのかお話します。
また、科学的にリスクを論じるためには (A)疫学調査 (B)動物実験 (C)物質~組織レベルまでの解析 (D)論理的な推察 を組合わせて考えるべきであること、リスクを極端に見積もる説はその一部だけを取り上げていることなども、伝える必要があると考えています。

 

<放射線実践教育(座長:高橋政宏)>

氏  名: 1)吉祥 瑞枝(きっしょう みずえ)
2)守 リョウコ(もり りょうこ)
所  属: 1)サイエンススタジオ・マリー主宰 東邦大学大学院理学研究科非常勤講師
2)サイエンススタジオ・マリー
タイトル: 「『放射線とひかり』キュリー夫人の理科教室事例報告~」 <20分>
概  要: 放射線の解説をマリー・キュリーから始める紙芝居の試み。
サイエンススタジオ・マリー(SSM)と紙芝居:
★キュリー夫人はノーベル賞を受賞した最初の女性で、2度のノーベル賞を果たした最初の人。『放射能』という言葉はキュリー夫人がつくったものです。そんなキュリー夫人が研究と同様に情熱を注いだものが子供達への教育でした。幼少のころからの教育の大切さ、人材育成です。この思いを放射線教育の紙芝居で紹介します。
★子どもや若い女性、若者たち、若い親に“ 科学や技術に親しみ、楽しんでもらう”ため、2002年に「サイエンススタジオ・マリー(SSM)」を結成しました。名前の由来はもちろん、マリー・キュリー=キュリー夫人にちなんでいます。
★初めに日本独自の大衆文化である“紙芝居”によるマリー・キュリーの紹介に取り組みました。紙芝居の取材のために訪問しましたフランス・オルセー原子核研究所で、エレーヌ・ランジュヴァン=ジョリオ博士(キュリー夫人の孫娘)からマリー・キュリーの理科実験のノートの日本語への翻訳を依頼されました。
★『キュリー夫人ってどんな人?』紙芝居作品に加えて、昨年制作した新作品『放射線とひかり』紙芝居と実験ショーで放射線を計測します。
備  考: 紙芝居と実験ショーを組み合わせた科学ショー『キュリー夫人の理科教室』(音楽、映像を加味してわかりやすく楽しい科学・技術理解増進活動の紹介です)
参考文献:『キュリー夫人の理科教室』(監修 吉祥瑞枝、共訳 岡田勲、渡辺正 丸善 2004)

 

氏  名: 1)工藤 博幸(くどう ひろゆき)
2)嶋田 純也(しまだ じゅんや)
3)久保 明也(くぼ あきや)
4)野里 直子(のざと なおこ)
5)藤本 麻美(ふじもと あさみ)
所  属: 1)奈良学園中学校・高等学校教諭
2)奈良学園高等学校1年生
3)奈良学園高等学校1年生
4)京都薬科大学1年生
5)大阪府立大学1年生
タイトル: 1)「簡易放射線測定器で中高生達は放射線を可視化できたのか」
2)3)「震災から半年経った福島市内で簡易放射線測定器で中学生が可視化できたこと」 <50分>
4)5)「簡易放射線測定器で調べた広島-計測値から見えてきた広島そして被爆時-」
概  要: 1)簡易放射線測定器を使って中高生達と活動してきたこの10年の内容を報告したい。生徒達にとって見えない放射線を計測値で可視化し、被爆地広島の浄化メカニズムをKClを用いて校内実験で探ってきたことなどを報告したい。
2)3)先輩達と広島へ通い、広島の浄化メカニズムを校内実験した手法で、2011年9月に福島市内で計測した内容とそこから中学生の発達段階で見えてきたことを当事者が発表したい。
4)5)中1~高3まで簡易放射線測定器で探ってきた広島について、工藤(奈良学園教員)の発表では広島市内全域を対象にしたものだが、野里・藤本の共同発表では、爆心の直近を流れる2つの河川・元安川と本川(太田川)を比較することでわかったことを報告したい。簡易放射線測定器の計測で見えてきたこと、爆心の直近のこの河川を歩いている最中に被曝した学徒動員学生さんの被爆時を追体験(実感)するために考えた手法などを報告したい。
備  考: 嶋田純也と久保明也、野里直子と藤本麻美は、それぞれ合同発表

 

氏  名: 間浦 幹浩(まうら みきひろ)
所  属: 京都大学理学部2年生
タイトル: 「大学生が考える放射線教育」 <20分>
概  要: 低線量放射線検討会の勉強会に学生メンバーとして定期的に参加してきて、メディアで取り上げられている放射線問題をどのように評価・判断すればよいのか、私達が考えた結論を、小中学生とその保護者向けに低線量放射線検討会の学生メンバーが作成した「放射線に関する単位表」を軸として紹介する。
また、低線量放射線検討会で学生メンバーが関わってきた活動について、メンバーの過去の発表の要約を使って紹介する。
備  考: 発表:低線量放射線検討会(NPO法人あいんしゅたいん主催)学生メンバー
   間浦幹浩(京都大学理学部)
   杉野彩子(京都大学農学部)
   水野彰人(京都大学医学部)
   伊藤誠基(京都大学薬学部)

 

<科学者は原発事故とどう向き合うか(座長:艸場よしみ)>

氏  名: 宇野 賀津子(うの かづこ)
所  属: NPO法人あいんしゅたいん常務理事・(財)ルイ・パストゥール医学研究センター生体防御研究室室長
タイトル: 「低線量放射線の生体への影響と食の重要性:福島での市民向け講演会の経験から」 <20分>
概  要: 福島原発事故による放射能被曝の現状をふまえ、学術会議の放射能計測・説明班の一員として、福島県白河市にて住民の学習会に参加、講演した。また、JA、日赤、消費者庁の要請に応じ、市民向け講演会・学習会の講師を務めた。これらの経験から、
1.学習会のニーズは、時の経過と共に変わってくること
2.現在の低線量放射線の影響を、科学的かつわかりやすく説明する必要のあること
を実感した。
 
私の論点
1)低線量放射線と高線量放射線の影響は異なる、これを混同してはならない
2)エイズパニックの経験から、科学者はリスクを過剰に言うも過小にいうも不正義
3)今回の事故による低線量放射線の影響は、これからの先の生き方で克服可能である
4)低線量放射線の影響は、かなりの部分が活性酸素による。従ってその作用は、タバコや他の発癌物質の作用と比較できる
5)抗酸化食や免疫機能を上げる生活は低線量放射線の影響克服に有用である
 
現在、福島では子供をもつ母親たちの間で、まだまだ不安が払拭されていない。保育体制とセットにし、アロマセラピーやハンドマッサージによるリラクゼーション、抗酸化食の料理教室などを取り入れた、行動を伴った学習会が、有効であると期待された。

 

氏  名: 水野 義之(みずの よしゆき)
所  属: 京都女子大学教授
タイトル: 「市民と共に学ぶ放射線知識の基礎と応用 ~ベラルーシETHOSプロジェクトから『福島のエートス』へ~」 <20分>
概  要: 放射線に関する知識(教育訓練)や被曝管理は、従来は専門家に一括して任せる形をとっていた。このため放射線の基礎知識も応用知識も、一般にはほとんど知られていなかったのが現状である。
実際、放射線に関する基礎知識は、中学校の教科書では1980年から消えてしまった。その後、丁度2011年の冬に新指導要領移行措置の中で中学3年の理科の教科書で復活した。ただし一般への放射線知識普及を直ちに期待することには無理があるのが現状であろう。また2011年から一般向けの放射線に関する本は急に増加したが、その大部分は原発事故を主体とするものであり、市民の放射線に関する今後の主体的判断に資するものはあまり見られないのが現状であろう。
しかしながら、福島第1原発事故の後、一般市民も生活の中で、放射線に関する基礎知識と応用的理解を必要としている。また経験的にいって、放射線の知識伝達は非常に困難であるのも現状である。そもそも放射線について、一般市民はどのように理解しているのか、何を知りたいのか、何を不安に思っているのか、それを専門家はほとんど理解していないという問題もあると考えられる。
そこで本講演では、生活の中での放射線の理解と対応という問題を、チェルノブイリ原発事故での経験に学びつつ、これまでの知識と経験、および福島における取り組みの現状の一端を紹介し議論したい。特にチェルノブイリ事故後のベラルーシで1996-98年に行われた、ECによるETHOSプロジェクトを紹介する。またその支援経験をモデルの一つとして作成されたICRP-103(2007年)とICRP-111(2009年)なる勧告文書に言及する。またそれらを範型の一つとして現在、進みつつある「福島のエートス」と呼ばれる活動を紹介し、また福島県田村市のNPOによる社会教育的な動きなども紹介しつつ、「市民と学ぶ放射線」の問題の今後の方向性について議論する。またその中で物理学者を含む科学者・研究者らが、21世紀の市民社会において果たすことが望まれる役割についても考察したい。